July
カラン……カラン
歩くたびに鳴る下駄の音。
人ごみの中、待ち合わせ予定の風水の前、待っているはずの彼の姿を探していた。
「もう少しで、はじまるねー。」
「たこ焼き食べながら見たいなぁ。」
おしゃべりする隣の人の声がはっきり聞こえる。
やっぱり時間ぎりぎりで待ち合わせるんじじゃなかったなぁ、
見つからなかったらどうしよう。
「ごめんなさい…通してください。」
体を縮めて人ごみの中をかき分ける。
花飾りでサイドにとめた髪型が、くずれてしまうのではないかと心配だった。
昨日きた彼からの連絡。
風水の―――カエルが大きな口を開けて、水を出しているところ、、
あっ。
カランカランカランカラン――――――
「お待たせ、 ごめん、ちょっと遅れちゃったね。」
背を向けて立っている彼に声をかけた。
気づいた彼がパッと振り替える。
「あ、いや、うん、ごめん、 もうちょっと早く、待ち合わせたらよかったね。
……ここ来るの大変だったよね?」
いつもより早口……
だった気がした。
「うん、私も、もうちょっと早く待ち合わせたらよかったなぁって思ってたとこ。
もうそろそろで花火始まるよね、橋まで行こっか。
そっちの方がすいてそう。」
「うん。だね。」
歩き出した私たち。
「花火見たことある?」
「お腹減ってる?」
「今日楽しみだった?」
聞きたいことは山ほどあるのに、
他の人の声が邪魔をして、言葉を交わすことができないまま。
前を歩く彼のスニーカーは、サッサッサッと音をたてて、後ろをいく私の下駄は、カランカランと不器用に鳴る。
ただ今は、遅れてしまわないように…。
そう思っていたのに、
「たこ焼きだよ!
あっつあつのたこ焼きだよ~!」
と聞こえてきた、ひときわ大きな声と美味しそうな匂いに、私は目を奪われてしまう。
あ~いい匂い、、
私もたこ焼き食べながら見たいなぁ。
「倫子、ついてきてる?」
「あ!ごめん!」
すっかり屋台に気を取られていた私は、彼との間に距離ができていたことに気が付いて、あわてて駆け寄った。
「はぐれたら大変だからね。」
彼は微笑みながらそう言った。
私と目を合わないまま。
人が多いなあと小言を漏らして、辺りをキョロキョロしながら。
「本当だね。」
そう言う私も、ちらっと彼に目をあわせる程度なのだけれど。
「…あ。」
彼は腕時計を見て、
何か思い出したかのように言葉をこぼした。
「ごめん、会社に連絡しないといけないことあった、ちょっと携帯つつかせてもらもらってもいい? 」
「いいよいいよ! ちょっと隅にはけようか。」
道から外れて、 人があまりいない木の下に移動する私達。
「ちょっと電話してくる!」
電話の妨げにならないよう、彼はもっと奥へはけていく。
見えなくなるまで彼の後姿をぼーっと眺めて、 足元に落ちていた小石を蹴とばした。
コロコロと転がっていって、視界に残るのは裾からのぞいた自分の足だけ。
白と桃色の下駄。
紺色の桃色の花がちりばめられた浴衣に合わせて買った。
はくのを楽しみにしていたけれど、下駄も浴衣も少し後悔。
やっぱり普通の服にするんだった、
動きづらいや。
私はまた足元の石を蹴った。
ピンポーン
かすかに聞こえてきたその音。
ん?私も会社からかな、
巾着袋から、携帯を取り出した。
相手の名前に私は少し驚く。
え、直人?
ごめん、思った以上に
浴衣姿が似合ってて、普段みたいにできないです。
もう、
私は照れくささから、手で顔を隠した。
「たこ焼き食べながら、花火どうかな…?」
直接聞こえてきたちょっぴり照れた声。
おかしくておかしくて、
「あのね」
隣に来た、彼への耳打ち。
「私もそう思ってた。」