Oct
すっかり冬仕様になっている、
ショーウインドウに飾られたマネキンの前を通り過ぎ、私たちは自動ドアに身をくぐった。
「買い物!」
彼がつないだ手を大きく振った。
「直人、はしゃぎすぎ。」
彼の様子に思わず笑みがこぼれる。
今日、私達は近くのデパートに買い物をしに来ていた。
彼は新しい服がほしかったらしい。
「倫子、選んでよ。」
「いいよー。」
そう言って彼の服を選んでいたのだけど、
私の服も彼が選んでくれることになったりで、どんどんどんどんたまっていく買い物袋。
「楽しいね。」
口癖のように、私は何度もつぶやいていた。
そして、彼も「俺も楽しい。」そう言ってくれていた。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってきていい?」
「いってらっしゃい。」
彼の背を見送って、私は近くにあったベンチに座った。
いっぱい買っちゃったなあ……。
持っている買い物袋は、すでに両手いっぱい。
帰ったら、直人とファッションショーかな。
くすっと笑いそうになってしまう。
こんなに買い物したのいつぶりだろう。
私も直人もめったに買い物しないから。
袋の中をちょうどのぞいていた時だった。
「あれ、リンリン?」
「……え?」
突如私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この呼び方をする人は1人しかいない。
「渡辺先輩?」
「何やってんの?こんなところで?」
先輩は空いていた私の横に座った。
「買い物中です。いっぱい買っちゃって。」
手に提げている袋を彼にアピールする。
「うん、すごい量だね。」
苦笑する先輩。
週末にもかかわらず、黒いシックなスーツに身を包んでいた。
「先輩こそ、何やってるんですか?」
「ちょっと会談。
それ終わって、夕食買いに来たところ。」
相変わらずお仕事熱心だな……
そう思いながら
「お疲れ様です。」と私は気持ちを込めて返した。
「あ、そうだ。
リンリン――――」
「?」
何だろうと首をかしげた時だった、私の肩をポンポンと誰かが叩いた。
「あ、おかえり、直人。」
「ただいま。」
直人は、私の隣に座っている先輩をのぞいた。
「渡辺さん…ですよね?
だいぶ前に御社とお仕事させていただいた神沢です。」
先輩はすぐに立ち上がって、私も続いた。
「お久しぶりです。
こんなところでお会いできるなんて。
井川と共同の企画の際には、大変お世話になりました。
ありがとうございました。」
手を差し出して握手する直人と先輩。
手を放してすぐ先輩が、私にきょとん顔で聞いてくる。
「あれ?
リンリン買い物って、神沢さんと?」
「あ、はい。」
私はこくこくっとうなずいた。
「もしかして、同棲してる人って…。」
「俺です。」
「そうなんだ!びっくりしたなあ。」
私は少し恥ずかしくなって、ごまかすように笑った。
「そっかそっか…。
じゃあせっかくのデート中お邪魔しちゃわるいし、そろそろ俺行くね。」
「いや、そんな!」
「いいのいいの。
リンリンまた明日ね。
神沢さんも、
また機会がありましたらよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
先輩は手を軽くふって、角を曲がって去っていった。
「偶然さっき会ったの、
びっくりさせちゃってごめんね。」
「うん、びっくりした。
変わってないね、渡辺先輩。」
直人の目は、
いなくなった先輩の背中を今だ追いかけているようだった。
ともなく歩き出した彼、私もすぐに歩き始める。
でも、様子がおかしい。
どこに次行こうかとか、買いすぎたねとか何か言うはずなのに。
何も言わない彼。
先輩に会う前は、こんなじゃなかった…よね?
怒ってる……?
少し、彼の様子が違うように感じて、
「直人?」
反応をうかがう。
「どうしたの?」
続けて尋ねようとする前に、
「……リンリン、今日ご飯何する?」
意地悪な表情で彼は私を見た。
何か嫌だなって思ったときは、こんな表情しないし、
私の勘違いだったかな。
「もううるさい。」
笑ってそう返事した私を見て
いつものように笑った彼に
やっぱり私の早とちりだ、そう思って、
今日はカレーにしてあげようと思うだけだった。




