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ばかって言う君が好き。  作者: 下駄
Three year
29/38

July


 雨が降っていた。


「星、みたかったのになあ。」

 部屋に響く私の声。


変わらずしとしとと降り続く、もう朝からずっと。


彼は休日出勤中、だから私は1人。


ピンポーン

7時に帰るよ~!


そうお昼に連絡が来てから、もう夕方。



こうやって、今日は何時に帰るよって連絡くれるのも、

今や慣れたことなのだけど、でも慣れても嬉しいことには変わりなくて。


彼の生活の一部になれていることも。

どんどんどんどん知らない彼の一面がなくなっていくことも。


彼の好き嫌いもそんな面の一つ―――――。


「さーてご飯作ろうかな。」

私はキッチンに立ち、腕をまくった。


彼の好き嫌いは本当に激しい。

例えば、豆腐一つにしても、この種類はいいけどこの種類はだめ、とかそんな始末。

半同棲していたときは、彼に目をつぶってもらっていて、そんなことまで知らなかった私。


けれどずっと一緒に生活していくわけだから、

彼のそんなとこも受け止めなきゃと、私は彼の好みを全部覚えた。


こうやって毎日彼のこと知っていって、

いつかは、

あなたのことあなた以上に知ってる、なんて言えるようになるのかな。


ガチャ

「ただいま~!」

かけていた火を一旦止めて、私は玄関へ向かう。


「おかえりなさい!早かったね!」

予定より2時間ほど早い帰宅だった。


「うん、無理やり帰ってきた。」

 傘をささなかったのか、少しだけ頭が濡れている。


「もう濡れてる!」

 私はお風呂場からタオルを取ってきて、彼の頭にかける。


「ごめん、ごめん。」

 笑いながら彼は靴を脱ぎ、私に携帯を渡して、タオルで頭を拭きながらリビングに移動する。


「ん?さっきまで電話してたの?」


「そうそう、玄野とね。

聞き忘れたことあったらしくて。もー番号、教えるんじゃなかった。」

 最近彼は、後輩とペアになってお仕事をしているらしい。

晩酌時に最近、よくそのことを愚痴っている。


永遠と玄野くんという後輩のことを話して、

「もう面倒みたくないー」

決まってそういうのだけど、


「まあしゃない。」

笑って、そう言うのもお決まりで。

嫌がりながらも可愛がっているみたい。


「後輩さんと仲いいね。」

私がからかってそう言うと、彼はうんざりとした表情を見せるけれど。




「はあ~腹減った!」

 彼はスーツを脱ぐと、いつものところへ座った。


「今日はロールキャベツにしちゃった。」

 また火をつけて仕上げをしつつ、お腹が減っているはずの彼に、すでに仕上げていた料理を机にだす。


「ありがとう。おいしそ~う!」

 彼はひょいひょいと手でつまむ。


「もう、箸あるから…!」

 彼に箸を差し出す。

おいしーいといった表情でもぐもぐしながら微笑み、箸を受け取る彼。


「倫子は食べないの?」


「んー、もう料理すぐできるから。」

 キッチンに戻ろうとする私。


「倫子、待って。」

彼が私の腕をつかむ。


「今煮込んでるから。」

私は彼の腕を離そうと手をかけるのだけど、


「はい、あーん。」

そう言って関係ないとばかりに、お肉を差し出してくる彼。


「くつくつ鍋いってるから!」


「はい、あーん!」


……もう。


「あーん。」

 私は口を開ける。

彼がお肉を入れてくれる。

「…おいひい。」


「おいしいねー!」

 彼はにこにこ微笑む。


彼の笑顔に照れてしまうのも、変わらない。

毎日一緒なのに、、

もう何十回だって見てきたのに。


「…ばか。」

彼がハハハって笑って、私を無理やり座らせ抱きしめる。


「…まだ料理途中なんだけどなあ。」


「じゃあ離れてもいいよ?」

腕を離す彼。


でもそう彼に素直に言われると、


「やだ。」

って言ってしまいたくなるわけで。

彼がその後どんな表情をするか、目に見えているのに。


彼は体を離して、冗談っぽくすねた声。

「……ただいまのちゅー、今日貰ってないんだけど。」


「…ばか。」

やっぱり彼は意地悪な表情で、私をいじめたのだった。





「ご飯、今日もおいしかったよ。」


「ありがとう。」


 ご飯を食べ終わった私たちは、ベランダの淵に座って星をみていた。


「…雲、はれたね。」


「天の川どこかな。」

夜空を見上げながら、そんな風におしゃべりする。


「彦星様と織姫様、会えてるかな。」

 彼の肩に寄りかかり、頭をあずけた。



「……会えてるよ。」


「雨降ってたのに?」


「会えてうれしくて泣いてたんじゃない?」


「そっかあ…。」


彼がくすっと笑いをこぼす。


 

「……誰かさんも会ったとき泣いたっけ?」


「もう!」

ハハハっと笑う彼。

私はすねて彼から少し離れた。



「……でも、本当今俺幸せだよ。」


「何がー?」

 また冗談を言うのだろうと思い、私は天の川を探すことに集中する。


「こうやって、倫子の顔見れて。

一緒にご飯食べれて。

今、天の川一緒に眺めれてることも。


……全部。」



「……どうしたの?

直人がそんなこと言うなんて…。」


私が彼に日頃の思いを告げると、彼は確かにそれに応えてくれる。

でも、彼からまずこうやって切り出すことは、めったにない。


それだけに、本当に彼が言ったのかと耳を疑ってしまう。


「……やばい、はずかし。言うんじゃなかった。」

今度は彼が私から離れる。


「直人?照れてるの?」


「照れてない。」

そっぽを向く彼。


「耳真っ赤だよ?」

近づく私。


「うるさい。」

また離れる彼。


「直人?」


「うるさいってばー!」

ますます真っ赤になる彼の耳。



そんな彼に、


私は近づいて、



横から抱きしめる。



「……私も幸せ。」



「……ばか。」


空の上で一年ぶりに、愛をささやきあう彦星様と織姫様―――。


どうかいつかは彼らも、

私達の様に毎日会えるようになりますように。



そう思いながら、

月明かりに照らされて映し出された私たちの影は、ゆっくり重なり合った。



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