July
雨が降っていた。
「星、みたかったのになあ。」
部屋に響く私の声。
変わらずしとしとと降り続く、もう朝からずっと。
彼は休日出勤中、だから私は1人。
ピンポーン
7時に帰るよ~!
そうお昼に連絡が来てから、もう夕方。
こうやって、今日は何時に帰るよって連絡くれるのも、
今や慣れたことなのだけど、でも慣れても嬉しいことには変わりなくて。
彼の生活の一部になれていることも。
どんどんどんどん知らない彼の一面がなくなっていくことも。
彼の好き嫌いもそんな面の一つ―――――。
「さーてご飯作ろうかな。」
私はキッチンに立ち、腕をまくった。
彼の好き嫌いは本当に激しい。
例えば、豆腐一つにしても、この種類はいいけどこの種類はだめ、とかそんな始末。
半同棲していたときは、彼に目をつぶってもらっていて、そんなことまで知らなかった私。
けれどずっと一緒に生活していくわけだから、
彼のそんなとこも受け止めなきゃと、私は彼の好みを全部覚えた。
こうやって毎日彼のこと知っていって、
いつかは、
あなたのことあなた以上に知ってる、なんて言えるようになるのかな。
ガチャ
「ただいま~!」
かけていた火を一旦止めて、私は玄関へ向かう。
「おかえりなさい!早かったね!」
予定より2時間ほど早い帰宅だった。
「うん、無理やり帰ってきた。」
傘をささなかったのか、少しだけ頭が濡れている。
「もう濡れてる!」
私はお風呂場からタオルを取ってきて、彼の頭にかける。
「ごめん、ごめん。」
笑いながら彼は靴を脱ぎ、私に携帯を渡して、タオルで頭を拭きながらリビングに移動する。
「ん?さっきまで電話してたの?」
「そうそう、玄野とね。
聞き忘れたことあったらしくて。もー番号、教えるんじゃなかった。」
最近彼は、後輩とペアになってお仕事をしているらしい。
晩酌時に最近、よくそのことを愚痴っている。
永遠と玄野くんという後輩のことを話して、
「もう面倒みたくないー」
決まってそういうのだけど、
「まあしゃない。」
笑って、そう言うのもお決まりで。
嫌がりながらも可愛がっているみたい。
「後輩さんと仲いいね。」
私がからかってそう言うと、彼はうんざりとした表情を見せるけれど。
「はあ~腹減った!」
彼はスーツを脱ぐと、いつものところへ座った。
「今日はロールキャベツにしちゃった。」
また火をつけて仕上げをしつつ、お腹が減っているはずの彼に、すでに仕上げていた料理を机にだす。
「ありがとう。おいしそ~う!」
彼はひょいひょいと手でつまむ。
「もう、箸あるから…!」
彼に箸を差し出す。
おいしーいといった表情でもぐもぐしながら微笑み、箸を受け取る彼。
「倫子は食べないの?」
「んー、もう料理すぐできるから。」
キッチンに戻ろうとする私。
「倫子、待って。」
彼が私の腕をつかむ。
「今煮込んでるから。」
私は彼の腕を離そうと手をかけるのだけど、
「はい、あーん。」
そう言って関係ないとばかりに、お肉を差し出してくる彼。
「くつくつ鍋いってるから!」
「はい、あーん!」
……もう。
「あーん。」
私は口を開ける。
彼がお肉を入れてくれる。
「…おいひい。」
「おいしいねー!」
彼はにこにこ微笑む。
彼の笑顔に照れてしまうのも、変わらない。
毎日一緒なのに、、
もう何十回だって見てきたのに。
「…ばか。」
彼がハハハって笑って、私を無理やり座らせ抱きしめる。
「…まだ料理途中なんだけどなあ。」
「じゃあ離れてもいいよ?」
腕を離す彼。
でもそう彼に素直に言われると、
「やだ。」
って言ってしまいたくなるわけで。
彼がその後どんな表情をするか、目に見えているのに。
彼は体を離して、冗談っぽくすねた声。
「……ただいまのちゅー、今日貰ってないんだけど。」
「…ばか。」
やっぱり彼は意地悪な表情で、私をいじめたのだった。
「ご飯、今日もおいしかったよ。」
「ありがとう。」
ご飯を食べ終わった私たちは、ベランダの淵に座って星をみていた。
「…雲、はれたね。」
「天の川どこかな。」
夜空を見上げながら、そんな風におしゃべりする。
「彦星様と織姫様、会えてるかな。」
彼の肩に寄りかかり、頭をあずけた。
「……会えてるよ。」
「雨降ってたのに?」
「会えてうれしくて泣いてたんじゃない?」
「そっかあ…。」
彼がくすっと笑いをこぼす。
「……誰かさんも会ったとき泣いたっけ?」
「もう!」
ハハハっと笑う彼。
私はすねて彼から少し離れた。
「……でも、本当今俺幸せだよ。」
「何がー?」
また冗談を言うのだろうと思い、私は天の川を探すことに集中する。
「こうやって、倫子の顔見れて。
一緒にご飯食べれて。
今、天の川一緒に眺めれてることも。
……全部。」
「……どうしたの?
直人がそんなこと言うなんて…。」
私が彼に日頃の思いを告げると、彼は確かにそれに応えてくれる。
でも、彼からまずこうやって切り出すことは、めったにない。
それだけに、本当に彼が言ったのかと耳を疑ってしまう。
「……やばい、はずかし。言うんじゃなかった。」
今度は彼が私から離れる。
「直人?照れてるの?」
「照れてない。」
そっぽを向く彼。
「耳真っ赤だよ?」
近づく私。
「うるさい。」
また離れる彼。
「直人?」
「うるさいってばー!」
ますます真っ赤になる彼の耳。
そんな彼に、
私は近づいて、
横から抱きしめる。
「……私も幸せ。」
「……ばか。」
空の上で一年ぶりに、愛をささやきあう彦星様と織姫様―――。
どうかいつかは彼らも、
私達の様に毎日会えるようになりますように。
そう思いながら、
月明かりに照らされて映し出された私たちの影は、ゆっくり重なり合った。




