Aug
「今年は一緒に祝おうって言ってたのにね……。」
「うーん、まあしょうがないよ。」
私の絞り出すような声とは反対に、彼の声にはまだ余裕があるみたいだった。
今日も彼と寝る前にテレビ電話をしていた。
彼の誕生日だった。
「そりゃそうだけど――。」
彼があまり気にしていないのは確かに助かる。
でもやっぱり、大好きな人の誕生日は直接祝いたいわけで……。
「ほら、笑って。倫子は笑顔の方が似合うよ。」
浮かない顔の私を励ます彼。
「……そうだね。」
彼の為に笑わなきゃと、私は笑った。
「次会った時で、本当にいいの?
プレゼント。」
「あーうん、いいよいいよ!送るのも大変だから。」
「そっか。」
ベッドに三角座りしていた私は、
薄い黄緑色の花模様の掛け布団で顔を少し隠した。
「あ、また倫子顔隠すー!」
「だって、恥ずかしいじゃん!」
布団をもっとかけて、顔を隠す私。
目から下は布団で隠れて、私の目しか見えない。
「はあ~?じゃぁ俺も隠すよ、顔。」
そう言って、彼はまだ布団の上ではなく、
パソコンラックの椅子に腰かけていたので、手で顔を隠す。
「もう!直人は別に隠さなくていいから。」
「だったら、倫子も顔隠さないで。」
笑いながらそんなやりとり。
「もう結構テレビ電話してるのにね。
やっぱり恥ずかしくて顔隠しちゃうや」
私は布団をさげる。
「倫子はいつも隠すからなあ、
……すっぴん可愛いのに。」
意地悪な彼の表情。
「ばか。」
そういいながらも、少し喜んでしまう私。
そんな私を彼は笑って、かけていたメガネを外した。
彼も布団に入るらしい。
「…あ、直人。」
「ん……?」
メガネをかけていない彼、何度か見たことはあるけれど、
画面を通してでは初めてのことで、ドキドキが増してしまう。
「ごめん、ちょっと忙しくなりそうだから、
連絡遅れるかもしれない。」
「うん、この時期は忙しいもんね、倫子。」
彼の眉が下がる。
「……ごめんね、お盆は実家に帰れそう?」
「頑張れば、、また弟にいじめられなきゃ。
兄貴も帰ってくるみたいだし。」
いつも弟を煙たがる彼だけれど、
なんだかんだで嬉しそうな彼を見るとやっぱり可愛い存在みたい。
「あれ?
直人、高校生と大学生の弟さんだけじゃなかったの?」
「弟2人と、兄貴1人だよ。言ってるとばかり思ってたわ、
倫子はお姉さんいるんだよね?」
「うん、似てないけどね。」
私は幼い顔なのだが、老け顔の姉は20歳の時に30歳に見られたという経歴を持つ。
「プロポーズされたらしくて、結婚式挙げるんだって、今年。」
私はふはぁとあくびを漏らす。
「え!そうなんだ……。
俺とお姉さん同い年だよね。」
「うん、そうだね、幸せそうだったよ。」
そういいながら、
私は先日姉が結婚の報告をしてきた電話を思い出し笑ってしまう。
「結婚式、直人も都合よければどうぞだって。」
お姉ちゃんにも直接会わせたことはないが、
直人のことを伝えていた。
「えー行きたいなあ。」
「また日程決まったら、早めに教えるね。」
「うん、よろしく。」
そこで一区切りついて、私達は少し黙る。
次は何話そうかなと考えながら、
画面の右上に出ている時計をふと見るともうすでに12時18分と示されていた。
まだ12時を回っていないと思っていた私は、
時間の速さに驚きつつも、今が楽しい時であることをそこで改めて確認してしまう。
まだしていたいテレビ電話。
沈黙でも辛くない。
むしろ、この沈黙が心地いい。
ずっとこうして、彼の顔を見ていたい。
でもそんな気持ちとは裏腹に
眠気は収まらなくて、もう一度あくびを漏らしてしまう。
彼も少しだけ目がトロン。
「直人、そろそろ寝る?」
彼の身を案じてそう聞いた私。
「…えー、まだ話そうよ。」
「そうだね」と言われると思っていたので、少しの驚き。
「ならもうちょっと話そっか。」
私ならそう返事するはずなのに、
彼の意地悪なところが少し似てきたのか、
「何?寂しいの?」
なんて……言ってみる。
「倫子にからかわれるなんて。」
彼のそんな声に思わず笑ってしまう。
「誰かさんのいつものお返し。」
彼の笑顔を見ながら、
どうやら眠気よりも彼への気持ちがまさってしまった様で、
私は彼ともう少し電話を続けるのだった。




