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ばかって言う君が好き。  作者: 下駄
twoyear
13/38

Apr


 4月にはいった。


それまでは週1ぐらいで会うペースだったのに、

4月に入ってから今は半同棲のようで、彼は毎日私の家に帰ってくる。


「ただいま。」

帰ってきた彼は、ネクタイを緩めていた。

ふわふわな髪も、お仕事から帰ってきた夜は少しだけ落ち着いている。


声のトーンも低くて、下がった眉も、くもった目も…

疲れているんだろうな、そう感じてくるのに

それでも彼は、


私が「おかえり。」って言う前に

私を抱き締めて、

ぎゅっとして、

「はあ~倫子だあ~」って。


顔を見合わせて笑いあって、

「おかえり。」そこではじめて私は口にする。


そのときの彼の表情がほっとしたような、幸せそうな、なんともいえない表情をするもんだから、

私は最近彼より早く帰れるようにあわせている。


「おかえり。」そう言いたい一心で。

彼のその表情が見たくて。


「今日のご飯何ー?」

かばんを置いた彼。


「ハンバーグだよ。」

ソースをハート型にした私。


ご飯をおいしく食べて、テレビを一緒にみて。

「このお笑い芸人すき!

直人は誰が好き?」


「んー、倫子が好き。」


「ばか。」 

なんて冗談を言って笑いあう私達。


テレビを見るときも手をつないで、

彼の肩に顔をうずめて、においにも抱きしめられて。


「大好き。」思った時に伝えれる。

彼からもことだまのように同じ言葉が返ってくる。


あー幸せ。そう馬鹿みたいに思える毎日。

笑いあって、ずっと一緒って思える毎日。



……でも気づいてる。私も直人も。


あれ以降、

仕事の話も、

これからの話も触れていないってことに。


あれは嘘だったんじゃないかなって思うのに、

彼の鞄に入っている引っ越し日27日と書かれた資料をこっそり見る度、


あー本当なんだと実感してしまうのだった。



****



「今日、ドラマの日だよ。」

テレビで番組表を開いた私は、11時のところにあるそれを確認した。


「みよみよ!」

寝室で明日のお仕事の支度をしていた彼は、私の隣に座ってきた。


私の好きな俳優さんも出ているドラマ。

録画もしているのだけれど、このドラマだけはリアルタイムで絶対二人で見ることに決めている。


じゃないと先に見た片方がネタバレしてしまって、

ちょっとした口論になってしまうから。

片方といっても、大体彼がネタバレするのだけれどね。


「大喧嘩してたところで終わってたからなー。

今週どうなるかな。」


彼がついできたコーヒーを飲む。

私はその日、家に仕事を持って帰っていたので、静かに書類をまとめながら見ていた。



「あたしずっと我慢してた。

あんたの嫌なとこも全部目つむって。

あんたがこれからどうするかとかの話したがらないから、

自然にその話題避けて。


全部、全部あんたの都合に……」


「……うん、分かってる。

ずっと気遣わせてって。」


「分かってない!!

あんたは分かってない。

6年付き合って同棲して、あたしたち28になって、

それで何?これが初めてのけんかよ!


あたしたち……きっとずっとこうよ。

お互いの傷を触らないように触らないように。

傷つかないように。

 

でもそれって付き合ってるって言えるかな。

私たちの6年って……なに?」


悲痛に顔をゆがめた主人公が、彼とずっと一緒に住んでいた家を飛び出す。


女の人の名を叫んで、

彼は彼女を呼び止めるものの、足は追わないまま。



そこで急に真っ暗になったテレビ画面。

映し出される彼と、私。


二人とも画面を見つめているのに、目は合わない。

チッチッ、時計の針の音だけが響く。


次回予告が流れた。


「さあ~て、支度したく。」

彼はそれだけ言って、コップを台所へもっていった。




****


「倫子、18日水族館行こうよ。」


「うん……いいけど。」

 彼はそういって、以前行ったことのある水族館のパンフレットを机に置いてきた。


「2回目だけどいいの?」

 私は見覚えのあるパンフレットを見つめ、以前の水族館でのデートに思いをはせる。

緊張してばっかだったあの頃の記憶。


「もちろん。決まりね。」

 彼はくしゃくしゃっと私の髪をかき乱して、コップを流し台へと持っていった。


「倫子、もう寝よ~。」


「うん。」


18日。

彼が遠くへ行ってしまう日がだんだん近づいている。


水族館に行く頃には、彼とあと9日しかいれない。

この前見たドラマも、もう数回しか一緒に見れない。


着実に近くなっている”それ”。

でも、彼は何も言わない……。


どうして何も言わないの。

どうして笑ってくれるの。

どうして黙ってるの。


腕枕をして、優しく「おやすみ」と微笑む彼に、

その日は背を向けて眠りについた。



 

 お昼から出かけることの多い私達だけど、珍しく朝から予定通り、水族館へと向かった。


この日の彼も相変わらずで、

私がスカートを履いたことに気が付いた彼は、

すぐに

「あ、スカート。」

そういって喜びながら、私を抱きしめた。


水族館へついて、やっぱりこの日もたくさんの家族連れがいて、

はぐれないように手をつないで、何度も何度も私がいるか確認してくれる彼。


前来たときも

「大丈夫?」って何回も聞いてくれたっけ。



淡水魚のコーナーを見て、熱帯魚を見て、

私たちは横を見ても、見上げてもたくさんの小魚が泳ぐアーチ型になった通路のブースへ入った。

ギラギラライトに反射して、ピカピカと輝く身がまぶしい。


「綺麗だね。」

立ち止まって、隣にいる彼に話しかける。


「だね。」

彼も見上げたり横を向いたり、すっかり夢中みたい。


「あ、あの魚、倫子みたいだよ。」

ふいに彼が指をさす。


「え?」


そこには群れから遅れて泳ぐ、少し太ったお魚さん。


「ちょっともう!」


「ハハハ!」

笑いながら次へと進む彼。


何もあの頃と変わっていない。幸せな気持ちも、好きだって気持ちも。



先程とは打って変わって、薄暗くなっているクラゲコーナー。

地面から筒状の水槽が何本もそこににょきっと生えて、

ぷかぷかと優雅に泳いでいる。


「癒されるなあ。」

ほころんだ彼の表情。


ふふって笑いながら、私は彼に言う。

「寝起きの直人に似てるね。」


「どういうこと?」


「動きがゆっくりだから。」

くすって笑いながら、


彼も「……言い返せない。」

そういって、私たちはまた笑った。



2度目なのに……楽しい気持ちは薄れるどころか

前よりもっと増しているみたい。


「前来たときは、手もつながなかったよね。」

懐かしいなあと私は彼を見つめた。


「……スカートにメロメロで。」


「前きたときは、直人そんな冗談一つも言わなかった。

もっと、倫子ちゃんこれ綺麗だよ!みたいな紳士な人だった。」


「うるさいなあ!」

笑いながら怒った彼。


「倫子だって、

わあ綺麗ですね!なんて言って、もっと大人しかった。」


「うるさい。」


お互いをからかって、あの頃の私たちと今の私たちを比較する。

今でも緊張するけど、どこか違う。

緊張しても、この人の隣、落ち着くって思えるような…。


こんな、くだらないことを楽しめる関係になるなんて思ってもみなかった。


そして、“今の感じ”も―――。



「倫子、前来たときはペンギン見れなかったから、

 ペンギン見ようか。」


「そうだね。

14時だっけ。始まるの。」

 彼が手に持っていたパンフレットを覗き込む。


「30分前には行った方がいいから、

 もう行こうか。」

ベンチで座って休憩していた私達。

彼は先に立ち上がると、私の頭をくしゃくしゃっと撫でて手をにぎる。


楽しくて、愛しくてたまらないデート。

それでも今も、時計の針は進んでいる。

彼の笑う顔を見るたび、どこかでそう私は考えていた。



30分前だというのに、既に席は埋まりつつあった。

ぽつぽつと開いていた、前から4列目の端っこに私たちは座った。


階段状になっていた席のおかげで、

前のペンギンが入っている大きな水槽をここからでも確認することができる。


「可愛いね。」

 微笑む私。


「倫子の方が可愛い。」

 そうからかうあなた。


「ばか」

 そういう私。

笑うあなた。


はぐれる心配もないのに、つながったままの手。


そのうち始まった

ペンギンショーも楽しくて楽しくて。


一緒に笑いあううち、私はこのときばかりは何もかも忘れていた。


ショーも終盤に差し掛かった。

「ではここで、本日来場してくださった

お客様に少しショーのお手伝いをしていただきたいと思います!」


客席から拍手があがる。


「どんな人があたるかなー」

なんて私と直人は話していた。


「では、そこのカップルさん!」

 そういって指さされたのは私達―――、、


ではなく

少し先に座っていた若いカップルだった。

水槽の前へ進む彼ら。


「可愛いね。」

微笑む彼にうなずきながら、

私はカップルという単語を聞いて、その時思い出した。


そして、嫌な予感がしていた。

もし彼らがそうだったら…。

どきどきと心臓が脈うつ音が聞こえた。


「では、お名前をお願いします。」

「圭太です。」

「凛です。」

 緊張気味の声で、差し出されたマイクに答える。


「本日は、デートですか?」

 はっきりとした口調で尋ねる女の飼育員さん。


「はい。」

男の子は彼女の顔をちらっと見た。


「いいですね~!」

飼育員さんの声に拍手があがる。


このまま終わって……



でもこういうときの悪い予感というのは、

なぜか当たるもので。



男の子は、おずおずと言葉を発した。


「えっと……

俺たち遠距離でして、半年ぶりのデートで。」


ほらね…。


つないでいた手が離れた。


私が離した。


「倫子……」

彼はまた手を強く握ってきた。

それでも私は握り返さなかった。



「……調子悪い?ちょっとはけようか!」

 彼は私を引っ張って立ち上がらせると、

すみませんと何度も謝りながら人ごみをかきわけた。


座るベンチを探しながら、

「ちょっと人多かったよね、人酔いしちゃうよね。」

彼はそう言う。


本当は違うのに。

その本当を誤魔化すように。



でも、彼も気づいてる。

私も気づいてる。


「あ、倫子。あそこに座ろう。」

彼は指をさして、メインからは少し外れた席に腰かける。

他のお客さんをちらほら見かけるだけだった。


「今日は、楽しかったね。」


「うん。」

本当に?


「また来ようね。」


「そうだね。」

またなんてあるの?


「帰ろうか。」


「うん。」

どこへ?いつまで?



ベンチを立って、手をつないで。

私達は同じ家へ……



チャララララ♪


「あ、ごめん、俺だ。ちょっとごめんね。」

 私はいいよっていう代わりに微笑む。

手をつなごうとあげた手をおろす。


「もしもし。」

 ベンチに座りなおす私と彼。


「はい。……はい。」

 お偉いさんからの電話のようで。

自然とぴしっと背筋を伸ばしている彼。


「はい、はい。」

 長引く電話、さすがに緊張がとけたのか

彼は応対しながら変顔をたまに見せてくる。


くすっと笑いが出そうになりながら、だめだよと彼の肩をたたいた、



その時、


「いやー今度の○○での活躍も期待してるからね、神沢くん!」

 フロアに響く、電話越しのお偉いさんの声。



「あ……」

 一瞬やばいという顔をした彼。

すぐに取り直して、スピーカーモードを解除しまだ続く受け答え。



聞こえていないふり、まだするんだ。

私はそう思った。


直人の携帯、壊れてるから

5分以上電話続いたら、

スピーカーモードに勝手になるんだっけなぁ、ぼんやり思った。



まだ続く電話。

焦った様子な直人。


「転居先の…」ブチ


でもまた時々なってしまうスピーカーモード。


「…………城田君も隣に」ブチ


すぐに解除して、すぐにまた開始されて。

背を向けた彼。


電話を聞かれまいと頑張っているようだが、

携帯は当然直るはずもなく。



「……もういいよ。」


 私は呟いた。


「直人、もういいよ。」


 私の目を見つめる彼。


「り…んこ?」



「それでね神沢君、えっと」

お偉いさんの声が響く。


「ごめん、直人。

ちょっと先、帰るね。ごめん。」

 私は笑って、


「倫子」とつぶやいた彼に返事をせず、

そのまま先に家に帰った。




当然帰る家は同じなわけで。

私が帰った20分あとぐらいに彼が帰ってきた。


私は机の前のいつもの位置に座っていた。



「ただいま。」

 リビングに入ってきた彼。


「おかえり。」

 いつもと同じ口調で答えた。


彼はすぐにキッチンに立って、間髪いれずに話始める。


「倫子、今日何にする?」

触れないあなた。


「カレー俺、作るよ。」

触れないあなた。



「直人。」

 目を合わそうとしないあなた。



「倫子はさ、そこ座ってていいからさ。」

 彼はキッチンへ向おうとする。



「直人、いいから。ちょっと来て。」


 目が合う。


彼は私の隣へ。

いつもの位置だった。

正座する彼。

うつむく瞳。


彼の手を握る。


「……引っ越し手続き、終わりそう?」


「……あ、うん。えっと、27日に。」

 絞り出すようにして、彼は声をだす。


あれから何日たったっけ。


「うん知ってる。

書類見ちゃった。ごめん。」


「いや、それはよくて。別に。」


 目が合わない。


「直人。

……こっち見て。」 


 目が合わない。


「私見て?」


 目が合う。



申し訳なさそうな

悲しそうな複雑そうな目をしている彼がそこにいた。



「……ごめんね、そんな顔させちゃて。

 もう、逃げるのやめよう。


 ちゃんと話そう、私達。」


「倫子…。」

 抱きしめてくる彼。

涙を流す私。



「ごめんね、直人。



話聞いてくれる?」



「うん。」

 彼はぎゅっと、もう一度私を抱きしめた。




**


「私ね、実は遠距離恋愛2回経験あるの。」

 彼の腕の中、私は落ち着いて話し始めた。


「うん。前ちょっと言ってたね。」


「両方とも学生のころ。


1回目は高校生になるとき。

中学生の時から付き合ってた幼馴染がいて。

私は地元に進学したんだけど、彼、離れた高校に進学しちゃって。


幼馴染で何もかも知ってるし、3年も付き合ってるから、大丈夫かなって思ってたの。」


「うん。」


「でも、やっぱりうまくいかなくてね。

別れ際すっごい暴言はかれて、終わっちゃった。」


「……。」

彼は私の頭を優しくなでた。


「その時さ、あれ、この人と付き合った3年間って、

なんだったんだろうって思っちゃったんだよね。


悪いところもいっぱい言われて、

大好きだった人に言われるんだから、私…もうすっごい傷ついちゃってさ。」

 苦笑交じりの私。


「だけどね、分かってるんだ。


慣れない距離で、自分の知らない彼ができていって、

焦っていっぱい連絡とろうとして。

私が悪かったんだ。」

目から自然とこぼれた涙を、彼はぬぐってくれる。



「それで、その彼と別れた後、

当分立ち直れなかったんだけど、大学に入ってまた違う彼に出会って、付き合い始めて。


私より2個年上さんで、落ち着いた人で。

別れてからちょっと恋愛信じれなくなってたんだけど、

彼のおかげでまた少し信じれるようになって。



でも、また彼の就職を機に遠距離が始まって。

もう笑っちゃうよね。

えーまた遠距離かよ!みたいな。」

くすくす笑いをこぼした。


彼は静かに聞いてくれるだけだった。


「最初は順調にいってたけど、社会人と学生だもん。

上手くいかなくなっちゃった。」



「なんかねもう分かっちゃうの。

あーこれ終わりに向かってるって。

LINEのやり取りでね、だんだんかみ合わなくなるの話が。

電話も減って、会うのも減って。

私も終わらせたくないから、寂しいとか会いたいとか言わなくなって。


彼が求めてない話題は出さないようになって。

そんな自分も、彼もどんどん嫌いになっていって……。

もうしんどくて、しんどくて。

彼もしんどそうで。


彼優しいから私の失恋のこと気にして、別れられないんじゃないかなって思って、

私から別れようって告げちゃった。」


「うん……。」

彼は私をぎゅっと抱きしめる。



「あのね、直人のことはすっごく好き。

大好き。

あなたとだから、今私恋愛してるんだなって思う。

直人となら、遠距離でも大丈夫かなって思う気持ちもある。


……でも私、あなたの事傷つけちゃうかもしれない。

寂しい思いさせて、そのうちLINEも楽しくなくなって。

連絡も減って。

あなたにも暴言はかせちゃうような私に、またなっちゃうかもしれない。


だんだん愛が終わっていくのを、また実感するのがこわいの。

もうだめなの。

私、あなたとも終わっちゃったら……」


 泣きじゃくる私。

黙って抱きしめてくれる彼。


「ありがとう話してくれて。

お前は優しいから、そうやってすぐため込んで。

俺に何も話さないんだから。」


「でもそういう恋愛してきたから、言えなくなっちゃったんだね。

自分が我慢すればいいやって思うようになっちゃたんだね。

分かってあげれてなくてごめんな。」


「……っ」

彼の言葉の一つ一つが、私の中の何かを溶かしていく。


「俺が仕事で忙しいときも、優しい言葉かけてくれるばっかで、

寂しいって言わないんだもん。

言っていんだよ、辛いって会いたいって甘えていんだよ。

俺嫌いにならないから。」


「……なるよ。

そんな私、直人は嫌いになっちゃうよ。」



「ならない。」

 直人は私の体を離して、私の目を見てきっぱりと答えた。


涙でぐちゃぐちゃになった顔。

我慢しようと思っても、止まらない涙。


「泣いていいから。

涙まで我慢しなくていいから。」

ポンポンと頭をなでてくれる直人の手は、いつも温かい。



「嫌なことも直してほしいことも言っていいから。

俺に話すことで倫子の気持ちが軽くなるなら、俺はすごくうれしいよ。」


「俺の悩みになってしまうぐらいなら、



自分の中に押しとどめておこう とか考えなくていいから。」



「あっ。」


 言われてしまった。

私が一番欲しかった言葉。

誰も言ってくれる人はいないだろうと思っていた。


友達にも彼にも親にも、

だんだん話せなくなっていった私。


私が嫌だったことを話すことで、

相手が傷ついてしまうならもう私の中に隠そうと、

いつのまにか誰にも本音で話せなくなっていた。



「……直人、なおと、………なおと。」

彼の体に頭をうずめる。


「倫子、大好きだよ。

全部。大好き。」

ふってくる彼の愛の数々。


ああ、この人は本当に……本当に。



「ばか。」

 頭をあげた私。

泣いた顔で笑う私を見て、彼も笑い返す。


「俺は目を真っ赤にして

お岩さんみたいに目をはらした倫子も好きだけど、

倫子は?」

 彼のいつものからかいの言葉。


……もうこの人は。



「嫌いかな~。」

 私はそっぽを向く。


「はあ?」

 おいおいそりゃないぜと言いたげな彼。


そんな彼を見て私は笑う。

それでもまだ残念そうな彼。


「しょうがないなぁ~。」

私は彼に顔を近づける。



愛しいあなたへ


言葉で表せないこの気持ちを、

“それ”にこめて、私は何度も何度もその日愛を送った。




 あなたと出会ったのは、

1年前のこの季節。


1年間、あなたと愛を語り合って。

面白い話も

くだらない話も、

全部が全部幸せで。


今年の春は、少し離ればなれの季節。


お互いのことを少しは分かってきて、



どんな人を好きになって、

どんな別れ方をして、

私と初めて半同棲をしたこととか、

まだ泣き顔は女の人に見せたことないこととか


そして何よりあなたは冗談屋さんのこととか知れて、

あなたにちょっとは近づけましたね。



相変わらずな私達ですが、


1年付き合って分かったことは、


あなたが照れ屋さんってことと、

私が我慢やさんってこと(らしい)。




「これからもよろしくね。」

「もちろん。」

 彼の荷物をダンボールに詰めながら、私達は笑いあった。


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