Feb
その日、私は朝からケーキを作っていた。
ちょっと大人な味のチョコレートケーキ。
「お昼からの天気もこのまま夜にかけて、雪が続きそうです。
さて、今日はバレンタインですが、前川キャスター誰かに貰う予定はありますか?」
「いえ、残念ながら……」
テレビの中もバレンタイン一色のようで、本当に残念そうな顔をしたキャスターの顔を見て、
もらえるといいですね、なんて思いつつ、テレビの電源を落とす。
部屋の電気を切って、カーテンを閉めて、
よし!
完璧にラッピングし終えたそれをもって、私は鍵を閉めた。
今から、直人のおうちへ行くよー
すぐに既読がつく。
は~い。待ってまーす!チョコレート♪
「ばーか」
私は笑いながらそうつぶやいた。
ピンポーン。
彼の家まで電車で2駅。
彼の家に何回か分からなくなるぐらい遊びに来たけれど、
やっぱり彼が出てくるまで、”あれ”をしてしまう。
「今日は、子供は遊んでますか?
倫子さん?」
「みんなチョコレートを貰いにいってるようです、直人さん♪」
二人で笑いながら、
「やっぱり今日も塀から下の公園覗いてるんだから。」
とからかわれた。
ローテーブルに座って、何も言わなくても、お茶を出してくれる彼。
「バレンタインを授けます。」
近くに寄ってきた彼に私はえっへんという口調で声をかける。
「ははー!」
わざとらしく、頭を垂れる直人。
「うわあ、うまそう!!包丁持ってくるわ!」
すぐにラッピングを丁寧に開けた直人がうれしそうに、ケーキを切ってくれる。
「おいしいー!」
そういって笑う彼を見て、
誰かに料理を作ることってこんなにも嬉しいものなんだと知った。
「うん、うまく焼けてる。よかったー。」
直人も私もぺろっとケーキを食べてしまう。
「倫子……」
直人がフォークをお皿に置く。
「ん?」
ちょっと真剣な顔の直人に、私も向かい合わせになって、フォークを置く。
「……これ、誕生日プレゼント。」
「え!?」
彼から手渡されたそれは、
両手で抱えるほどの大きさの赤い袋に入った、プレゼントだった。
「17日誕生日だよね?
当日会えるかわかんないからさ、今渡そうと思って……。」
「あ、あけていい!?」
コクコクとうなずく彼。
結ばれていた白いリボンをとくと、桃色のマフラーが出てきた。
「わあ!!ありがとう!!!
すっごく嬉しい!!」
私はマフラーをさっそく首にまわしてみる。
「似合ってる!?」
「うん、似合ってる、可愛い。」
照れくさそうに笑う直人。
「え、でも誕生日教えてなかったのに……」
「LINEのID、
0217って入ってるから、誕生日かなあ~って鎌かけちゃった。」
「ありがとう……。
直人の誕生日、夜ご飯一緒に食べただけで、何も私しなかったのにごめんね。」
直人の誕生日は夏。
水族館へ出かけた数週間後、付き合うことになった私たち。
誕生日を彼に尋ねるほどの仲になった頃、
既に誕生日の数日前になってしまっていたのだった。
「いいよ、いいよ。
倫子が仕事で忙しい時期でもあったし。
男はあんま誕生日とか気にしないしね。ご飯でも十分嬉しかったよ、俺。」
「でも……」
私はプレゼントしてくれたマフラーを外して、丁寧にたたむ。
「……じゃぁ今年の夏は期待してますね。」
「ん?」
私は顔をあげて、首をかしげる。
「今年の誕生日は一日中、一緒に過ごしてください」
彼は笑って、私の頭をわしわしと撫でる。
彼がくれたプレゼント、桃色のマフラー。
それだけじゃなくって、
今年も彼と一緒なんだーって安心もプレゼントしてくれたようだった。
でも、……ここからが彼の意地悪なとこ。
「倫子がようやく24になってくれたし、
また2歳差ですね。
若者♪」
さっきの笑顔と裏腹な意地悪な顔。
「……もうケーキあげない、残りは持って帰る。」
箱に残りのケーキをしまうと彼にとられないよう、腕一杯に持ち上げる。
「だー!
冗談だってば、ごめんってば!」
「26歳うるさいよ!」
「年寄りはまだ元気なんですー!」
彼の小さな反抗。
でもそんな彼が可愛くて。
ケーキを机に再びおいて、私は直人の肩に体重を預ける。
「あ、ケーキ返してくれるの?」
急に近寄って肩にもたれかかった私に触れず、そう言う彼。
「もうそう言って、
照れくささ隠そうとしなくていいから。」
私は笑って彼の手を握る。
「ばれちゃった……。」
彼もぎゅっと私の手を握る。
「直人と付き合えて、本当私幸せ。
いつもありがとう。」
照れてるのか、何も言わない彼。
「ずっとこうしてたい……。」
彼の甘いにおいにますます溺れる私。
「…………うん。」
彼はぎゅっと強く、また手を握り返した。
その時、もし彼の顔を見ていたら、何か変わっただろうか。
肩にもたれかかっていた私は見えなかった。
彼がどんな表情をしていたのかを。




