俺がやるしかない。
急いで書いたのでおかしなところがあるかもしれません。
「いやあー、晴れてよかったね!」
ハンナs……ハンナがいつにも増した元気さでそう言った。
俺たちは今日、森の奥に来ていた。理由はもちろん、ゴブリン討伐のためだ。
天候が良くなかったら中止にしようと昨日の話し合いで決めたんだけど、晴れてくれてよかった。
「そうだね。ハンナは魔物と戦うのは初めてなんだよね?大丈夫?」
「ちょっと怖いけど……ユウ君もいるから大丈夫だよ!」
ハンナの練習に道中羽ウサギでも狩ろうと思ったんだけど、あいにく出会えなかった。
まあ、ハンナならガッツもあるし、ゴブリン程度なら大丈夫かな。
そんな事を話しながら森の奥を歩いていた。
ー1時間後ー
「いないね〜。」
ハンナがぐったりした声で言った。最初の元気さは何処へやら。
あれから歩き続けているけど、未だにゴブリンは見つかっていなかった。
割と広い森だし、しょうがないといえばしょうがないけど、どうも気になることがあった。
「生き物が全然いないな。」
ここ1時間歩いていて、ゴブリンどころか他の動物すら、全く見かけていない。
これはもしや……。
この理由を考えると、俺はある考えに至った。あくまで可能性だけど、この考えがあっていれば道中全く生き物を見かけなかったのも説明がつく。
「ハンナ、もしかしたら……」
ハンナに俺の考えを話そうとした時、俺たちの背後から急にそいつは現れた。
「きゃあっ!な、なに!?」
ハンナが悲鳴をあげたけど、それも無理ないだろう。
そいつは3メートル程もありそうな巨大な猫(?)のような魔物だった。それも、ただデカイだけでなく、口からはみ出る程の牙を持った、悍ましい見た目である。
「ファングキャット……!」
俺はこいつを知っていた。
勇者パーティーの時に一回出くわしたことがあって、その時も今回の様に突然現れた。こいつは音もなく走れるんだ。
やっぱり俺の考えは当たっていたのか。
多分、ゴブリンや他の生き物が居なかったのはこいつから逃げていたからだろう。そして、そもそもゴブリンがこの森に現れたのも、こいつから逃げてきたんだ。既に、ゴブリンはこの森から離れてしまっている可能性が高い。
勇者一行の時はレオが瞬殺してくれたから良かったものの、今は俺とハンナの2人だけ。
加えて、ハンナは魔物との戦闘をしたことがないし、俺は付与魔術師だから攻撃魔術は初級しか使えない。いくら魔力が多いと言っても、初級魔術は込められる魔力の上限が低いから魔術の威力は誰が使っても変わらない。
さあ、どうする。
逃げたいのは山々だけど、ファングキャットの走る速さはとても早いから、不可能だろうな。
なら付与魔術をかけてハンナに戦って貰う?そう思ってハンナを見るも、怯えてしまっていて、それどころではなかった。
じゃあ。
息を吐き、覚悟を決める。
「俺がやるしかない、のか。」
実は対処法が無いわけではなかった。それは、"俺自身に付与魔術を掛けて"、ファングキャットを撃退する、という方法だ。
これは、レオたちに一度も見せた事がない俺の奥の手だ。
でも、この方法はかなりの賭けだった。
俺の筋力や耐久のステータスはかなり低いから、ファングキャットとやりあう為にはかなりの強化が必要だと思う。だけど、付与魔術は使っている間魔力を消費し続けるから、大幅な強化をし続けるとなると、俺の魔力を持ってしても恐らく数分しか持たない。
でも、ファングキャットの強さが分からない以上、数分で撃退できるかはなんとも言えない。
もしかしたら、付与魔術の効果が切れるまでに撃退できずに、2人とも喰われてしまうかもしれない。
それでも、これしか方法が思い浮かばない以上、やるしか無い。
すー、はー。
深呼吸をし、落ち着いて魔力を体内に貯める。
そしてそれを一気に放出した。
「やってやるよぉッ!!"筋力超強化"!"耐久超強化"!」
そうして俺はファングキャットに殴りかかった。
◆◆
「「かんぱーい!!」」
2人の声が酒場の喧騒に埋もれていく。
俺とハンナは、酒の入ったグラスをぶつけて一気に煽った。この世界は15歳で成人なので、俺たちが酒を飲んでも問題無い。
結論から言うと、俺はファングキャットを倒した。それも呆気なく。
あの時、俺が殴りかかると同時にファングキャットも飛びかかってきた。そして、俺を喰らおうと近づいた顔に思い切って拳をぶつけた。瞬間、ファングキャットが嫌な音を立てて吹っ飛んだ。
で、それ以来ファングキャットが動くことはなかった。どうやら、顔を殴った時に首の骨が折れたらしく、そのまま事切れたようだ。
つまり、俺はファングキャットを過剰に警戒しすぎていたらしい。
だってどのくらい強いかなんて知らないよ。レオって大概の魔物を瞬殺するんだもん。
その後なんとか街まで引きずってきたものの、自分たちでは加工が出来なかったのでお金を払って加工して貰って、冒険者ギルドに売った。
それからお姉さんに謝られたりお礼を言われたりした。強力な魔物が近づいているのに気づけなくてごめんなさい、と。その魔物を倒してくれてありがとうございます、と。それでその分の特別報酬を貰った。
そうしてちょっとした小金持ちになった俺たちは、こうして乾杯していたってわけ。
ハンナは遠慮していたけど、今日手に入ったお金は山分けにした。パーティーだからね。
今日は精神的にも肉体的にも疲れたけど、今は2人とも無傷で帰れた事を祝おう。