軍人編 第3話
本当に大変長らくお待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした!
生きてます!
だいたい就活と卒論っていう奴のせいなんです!そして今もそいつらと戦ってるんです!
とても短いですが楽しんで頂けたら幸いです。
それではどうぞ!
1909年 7月
季節はまだ暑さをヒシヒシと感じる夏。
一週間の休暇が与えられた初日の早朝、まだ日が水平線から顔を出していない時間帯にもかかわらず駐屯地内は、動き始めていた。
ある者はだいぶ早めの食事を済ませて、ある者は、外出準備を済ませて、またある者は身だしなみをこれでもかと確認していた。
そしてアドルフも例外ではない。
鏡の前に立ち、髭の剃り残しは無いか、髪はしっかりセットされているかなどを確認していた。
いつもやっていることだが、今日は一段と気合いが入っていた。
そう気合がやたらと入っていたのである。
髭の剃り残しが無いかを確認すること二十ニ回、黒髪を見事な七三分けに整えること十八回、笑顔の練習九回と、まるで初めての面接前か初デート前かお見合い前の緊張ガチガチの坊やに見えて来る。
いや、実際にそうなのである。
「よし!」
一言気合の声を上げると自室へ戻っていった。
それを見守る集団にアドルフは気づかなかった。
「あんなアドルフ見たことねぇ……」
「きっとこれは何か大きな事が起きるぞ!」
「どでかい事が始まるな!」
「生で見れねえのが残念だぜ!」
マイヤー、クルト、クラウス、エドガーの四人であった。彼らはミュンヘンに残る為、アドルフの初デートを見ることはできない。それを口では驚きや悲しみの言葉を述べたりしているが、彼らの顔の表情は悪童そのものである。
「四人とも何やってるの?」
「おお!フランツおはよう!」
寝起きなのか寝癖がついているフランツが現れ四人に近づき、尋ねた。そして四人は悪童の顔のまま、指を指し、フランツは納得するように頷く。
「また変な事やろうとしてるでしょう?ダメだよ邪魔しちゃあ」
「いやいや、今回は邪魔しねえよ。むしろこうやって陰ながら見守ってるのさ。なあ!三人とも」
マイヤーが代表して答え三人も頷く。しかしフランツはしばらくマイヤーの顔をまじまじと見た後、小さく溜息をついた。
「ほどほどにね」
「いや!本当に何もしないからな!?」
そういうやり取りをしている間には自分の部屋に戻っていた。
部屋に入ると各人がそれぞれ準備をしていた。
ヤーコブはアドルフと同様に故郷であるオーストリアへ戻るための準備、ハンスはミュンヘン市街にある実家へ帰るための軽めに荷物をまとめフランツの準備に取り掛かっており、カイはのんびりとベットの上で寝っ転がっていた。
「カイさんは準備できたんですか?」
「俺は荷物少ないからな、とうの昔にできてるよぉ」
「なるほど、ヤーコブは準備は進んでるか?」
「大体終わった。あとは土産ぐらいだ」
「オレも途中で買わないとな……ハンスは何やってるの?」
「見て分からないのか?フランツの荷物の準備だ。アイツは必要じゃない物も持っていこうとするからな」
それぞれの回答を得てからアドルフも荷物の準備、もとい確認をする。シャツ、パンツ、正装、私服、靴下、帽子、日本刀…………
「思った以上に荷物が少ないな。だいぶカバンに余裕がある……あ、お土産を綺麗に入れれるからこれでいいな」
「殿はどっちで行くんだ?」
「ん?どっちって?」
「私服で行くのか軍服で行くのか?」
そう言われ少し考えるアドルフ。
軍人になって初めてエーリカに会う。おそらくエーリカは楽しみにしているだろう。それなのによれよれの私服であるとなれば大きく期待を裏切る事になる。ここはビシッと軍服で格好良く決める。
「軍服だな!」
その答えに当然だな、とそんな表情でヤーコブは頷く。
「殿の私服はヨレヨレだからな」
「しかもお世辞にも格好良いとは言えない感じだしな」
「というかいつまでその私服達を着るつもりなんだ?」
三人の言葉にショックを受けながら、アドルフは一枚、自分の私服を手に取る。首下はよれ、全体はすり減り薄くなり、ボタンが今にも取れそうになっている。しかしどこも破けておらすボタンも取れていない、汚れもしっかり洗っているので目立っていない。
「まだまだ着れるだろ、これ」
「「「………」」」
「な、何だよ?なんで黙るんだよ?」
「物を大切にすることは良いことだとは思うが限度があると思うぞ、殿」
代表して答えたヤーコブだったが、それ以上言うのは諦めた。
そうこうしている内に待ちに待った時間が迫ってきた。兵舎全体が動いているような感覚になるほど皆、テンションが上がっていた。上がりすぎて動きまくっているのである。全くもって落ち着きが無い。
逆に変に落ち着いている者もいる。
アドルフのようなこれから女性と会う者である。ハッキリ言うとガチガチに緊張している。軍隊と言う男社会から解き放たれ愛する者と出会う。さぞ美しく見えるだろう。さぞ可憐に写るだろう。そんな物を目にして性を抑制されていた野郎が紳士的に出来るのか?難しいだろう。だからこそ第一印象で今後の長期休暇の行方が決まる。野獣になるのか紳士のままでいられるのか、自分を押さえれるのか、そんなことを考え緊張しているのである。
ちなみにアドルフは、昨日変に周りから煽られて変に意識していまい緊張している。ベネディクトはいつもの通りである。
そして開門時間が迫ってくるとぞろぞろと兵舎出て行き門の前に並ぶ。数ヶ月前にくぐった門を出て行き好きなことを出来る。家族に会える。そんなことを多くの者が考えている内に、バルク軍曹がやって来た。
いつもよりも険しい顔になってる。
「では!これから門を開ける!が!諸君らはもう軍人であることには変わりは無い!下品な振る舞いを行い栄光ある帝国軍に泥を塗るような行動は控えるように!もしもその様な行為を行った場合は兵役が終わるまでこの門から外には出さん!分かったか!?」
『了解しました!軍曹殿!』
全員が息を合わせて敬礼をしながら返答をすると、バルク軍曹は何度か頷き、俯く。そして顔を上げると満面に笑みとなっておりその表情のまま口を開いた。
「では!思いっきり楽しんできたまえ!開門開始!」
ゆっくりと門が開いていく。今にも飛び出したい気持ちをぐっと抑え、完全に開くのを待つ新兵達。そしてその門の外で新兵達を待っている親や恋人はたまた友人達。
「開門完了しました!」
「よし!現時刻をもって貴様らは一週間の休暇に入った!さっさと行け!楽しい時間はあっという間に無くなるぞ!?」
そう笑いながらバルク軍曹は新兵達の背中を押し、新兵からただの若者となった彼らは一気に門の外へ出る。
ある者は家族と抱擁を交わし、ある者は友人と肩を組み、ある者は恋人の手を優しく握る。
そんな光景が目の前で繰り広げられている中、アドルフはエーリカを探していた。普段なら直ぐ見つかるのだが中々見つからず大声で叫ぼうかと考えていると肩を優しく叩かれた。
「ん?」
「お久し振りです。アドルフ様」
振り向くとそこには見慣れたメイド服を着たエーリカ専属メイドのミーナが立っていた。相変わらず気配を全く感じさせずに現れたが、すっかり慣れているアドルフは驚くことは無かった。
「お久しぶりですミーナさん。エーリカはどこにいるんですか?」
「こちらです。他の皆様もこちらへ」
そういうとミーナは優雅に歩き出しアドルフたちはそれに付いていく。駐屯地の正門から少し離れた場所に馬車が待機しており、そのすぐ傍で白いワンピースを着て美しい金色の髪を弄っている少女が立っていた。
「何か……気合入ってますね」
「アドルフ様達に会う事をとても楽しみにしておりましたから」
「なるほど、ではその気持ちに応えなければいけませんね」
そういうとアドルフは、少女の下へ走り出した。少女も足音に気付いて顔を上げ、笑顔になりながら走り出す。
「エェェェェェェリカァァァ!!」
「アドルフゥゥゥゥ!!」
エーリカが勢いよくアドルフ目掛けて飛び、アドルフはそれを受け止める。傍から見れば年が離れたカップルや兄弟の感動の再開にも見えるが二人はそのどちらでもない。
「アドルフ、元気だった!?身体大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?嫌な事されたりしてない?」
「オレは元気だぞ!身体も鍛えられて頑丈になったし、ご飯はまぁ、ザワークラウトがやたらとしょっぱいがしっかり食べてるし、嫌なことも特にないから大丈夫だ!」
「本当に?」
「本当だ」
そんな会話をしている二人を始めてみるカイは傍に居たベネディクトに思わず聞いた。
「あれで付き合ってないの?」
「残念ながら付き合ってない」
「へぇ~、傍から見たらそうは見えないんだがね」
と、苦笑いしながら口にした。
そして他の連中がベネディクトの周りから徐々に離れている事に気が付いた。しかしカイはそれを口にすることなく、ベネディクトをチラリと見る。
「早く付き合えばいいいのに……」
アドルフたちに夢中な事を確認すると、カイも気配を消しつつベネディクトから離れた。
カイがある程度離れると、近くに生えていた草むらから何かが勢いよく飛び出した。
日頃の訓練のたまものか、それとも備えられた身体能力のお陰か、ベネディクトはそれに難なく反応でき、受け止めた。
「ソーフィヤ!久しぶりだな!」
「久しぶりねベネディクト!あと全然驚かないのね!」
「驚いてるぞ?何かいるのは分かってたけど、ソーフィヤが出て来るなんて思ってもみなかったからな!」
ソーフィヤ・ヴォールギナであった。カイはエーリカよりも小さな彼女がベネディクトに抱き着いている状況に何とも言えない顔になった。そこにフォルカーが近づいてきた。
「あれが僕らの日常だから、今のうちに慣れといた方が良いですよ?」
「ご忠告どうも。………で、俺たちはいつまでこの光景を見続ければ良いんだ?」
「そろそろだと思いますよ?」
「エーリカ!」
アドルフの大きな声が響く。
「何アドルフ?」
エーリカの目を見ながらアドルフは言った。
「今から、オーストリアに行かないか!?」
その問いにエーリカは
「準備はもう出来てるわ!今から駅へ行きましょう!」
と満面の笑みで答えた。
その後、みんなで駅まで移動した。
本当に長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
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更新はドン亀よりも遅いですが失踪は致しませんのでご安心ください!
読んで頂きありがとうございました!




