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ミュンヘン編 第7話

楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、どうぞ!

「フランツ!勝負だ!」


 突然の声に驚き、振り向くと、いかにもきつそうな目付きをしている黒髪の青年が立っていた。そしてその後ろに何人もの青年が立っていた。

 アドルフは咄嗟に警戒態勢になるが、呼ばれた本人は相変わらずの笑顔で返した。


「あ、マイヤー君!こんにちは!」

「あ、うん、こんにちは…………じゃなくて!」


 勝負を求めてきた割には、素直に挨拶を返すマイヤーと言う青年は、改めて述べた。

 

「フランツ!勝負だ!今日こそ決着をつけてやる!」

「またかよ……いい加減諦めろってマイヤー。お前じゃフランツに勝てねえよ」


 マイヤーの言葉に返事をしたのはフランツではなく、面倒臭そうな顔をしているクルトだった。その口調から何度も勝負を求められていることが分かった。


「黙れクルト!私は貴様には言っていない。フランツに言っているんだ!」

「何だと……?オレがせっかくお前のために忠告してやってるのにそう言うのか?毎回毎回フランツにぼこぼこにされるお前の姿を見て楽しんでいるオレに言うのか!フランツ!やっちまえ!」


 一触即発な雰囲気と成ってきたが、アドルフ達には突然の出来事で何が起きているのかが理解できずにいた。


「何が、どうなってるんだ……」

「教えてやろうか?」

「えっ?」


 一人呟いた声に、後ろから答える声があった。振り向くと、いつの間にか立っていたヤーコブとハンスがいた。


「二人とも、いつの間にここに?」

「ついさっきだ。それより教えてやろうか?アイツのことを」


 アドルフの質問に答えつつ、いつものように不機嫌そうで目付きが悪い顔をしているハンスがマイヤーに視線を向けながら改めて問う。そしてアドルフが頷くと、ハンスは語り始めた。


「アイツの名前は、ミヒャエル・マイヤー。フランツの近所に住んでいる馬鹿だ。ことある事に俺たちにちょっかいをかけて来る、とは言っても大体狙われるのはフランツだがな」

「何でちょっかいをかけて来るのよ?」

「お嬢さん、その答えは至極簡単で面倒臭いものだ。アイツはフランツと友達になりたいんだよ。どうだ面倒臭いだろう?」


 哀れみ呆れた表情になったハンスだったが、アドルフ達には何が面倒臭いのかが分からずにいる。


「友達になりたいなら成ってあげれば良いじゃ無い」

「オレもそう思う」

「俺も」

「私も」

「俺も」

「僕もそう思う」


 エーリカの答えに、アドルフ、ベネディクト、ソーフィヤ、ヤーコブ、フォルカーの順に同調していく。

が、その反応にハンスはため息をついた。


「お前らは正しい。その通りだ、友達になりたいなら成ってあげれば良い。俺達も最初はそう思った。だがアイツは、口を開けば勝負だ、勝負だ、勝負だとうるさい上に、いざ負ければ次の日には徒党を組んで勝負だと言ってくる。面倒なことこの上ない」


 そう肩をすくめながら言うハンスだったが、アドルフには何でマイヤーがそんな事するのかがなんとなく分かった。


「それはたぶん友達の作り方を知らないんじゃないか?知らないからああやってかまって欲しくて、けんか腰になってるんだと思う」

「そうか?」


 アドルフは前世の経験を素にマイヤーの行動を推測するが、ハンスは信じていない様子。その態度に、ムッとした表情となり強い口調で言う。


「よしわかった!俺がアイツを説得する!」


 そう言うとアドルフはズンズンと大股でクルトを睨み合っているマイヤーの下へ向かって行った。その後ろ姿を見ていたエーリカ、ベネディクト、フォルカーの三人は面白いものを見る目つきに変わっていた。


「久しぶりに血が頭に上ってるな」

「そうみたいね、カッとなって後先考えずに飛び出してるみたいね」

「まあ、アドルフ君なら何とかするよ」


 何をするのか、どうするのか、一体どんなことをするのだろう?

 と、三人の気持ちはワクワクしていた。対してハンスは、いまだに信じていないようである。ソーフィヤは普段見せないアドルフの行動に驚き、そしてヤーコブは黙っているが心配そうな眼差しをしている。


「下がれクルト!」


 後ろから突然大声に驚き振り向くと、さらに驚いた。


「ど、どうしたアドルフ……そんなに顔真っ赤にして……」

「どけろと言った。少し退けてくれ」

「お、おう」


 尋常ではない様子のアドルフを前に、クルトは素直にマイヤーから素直に離れる。そして入れ替わるようにアドルフがマイヤーと対峙した。


「だ、誰だ!」

「俺はアドルフ・ヒトラー、フランツの友人だ。よろしくマイヤー君」

「………で、そのフランツの友人が私に何のようだ?」

「そんなに警戒しないでくれ。別に君に何かしようとは思っていないよ」


 そう言うとアドルフは、耳を貸せと、マイヤーに言う。マイヤーは警戒心を強めていたが恐る恐る耳を近づける。そしてそれを取り囲むように見守るマイヤーの取り巻き達。


「俺はただお前と友達になりに来たんだ」

「なにぃ!?」

「静かに」


 明らかな動揺を見せるマイヤーの姿にアドルフは、己の考えが正しかったと強めていく。


「そしてお前はフランツと友達になりたい。そうだろ?」

「っ!?」


 開いた口が塞がらない、といった様子のマイヤーに確信したアドルフ。


「俺が手伝ってやる」

「な、何を?」


 アドルフはマイヤーの肩を掴み目を覗き込むように見る。そこからは、期待、恐怖、不安、希望……そんな感情が読み取れた。何故かそのことが目を見ただけで分かったがアドルフ自身は気にすることは無かった。

そして言葉を続ける。


「マイヤーとフランツが友達になれるようにな」

「ほ、本当か?」

「ああ本当だ。俺はお前の友達だ。友達が困っているなら助けてやるのが友達ってもんだ」

「そ……そうだな」


 笑顔で話し、そして友達という単語を何度も呟くアドルフに、嬉しそうに頷くマイヤー。しかしもし今のアドルフの笑顔をベネディクト、エーリカ、ヤーコブ、フォルカーが見たのならこう言うであろう。

「すっごい悪い顔してる」と。


「でもどうやってフランツと友達になるんだ?」

「そんなの簡単だ。だが協力が必要だな」


 そこまで言うとアドルフはマイヤーから手を放し、周りを取り囲んでいるマイヤーの取り巻きを見た。

一人ひとり見ていくと、その度、見られた青年は肩を震わせたり、警戒する眼つきで見てきた。だがそれを気にも留めることなく言った。


「君たちの力が必要だ。手伝ってくれ」

「オレたちの力?」

「そうだ、今言う事をやってもらえればいい。そんなに警戒しなくても簡単なことだから安心してくれ」


 そうやさしい口調で語りかけるが、それでも警戒心を解かない。そこでアドルフは彼らにも利益になる理由を提示した。


「君たちもいい加減こんなことはしたくないんじゃないか?」

「というと……?」

「いちいちマイヤーに呼び出され、来てみれば喧嘩やら威圧行為やらをやらされる。多数で徒党を組んで少数に喧嘩を売る……世間的に見てもあまりよろしくないし、あまつさえ喧嘩を売った側が負けるのはあまりにも惨めで格好が悪いと思うんだが?」

『………』


 アドルフは前世からの経験と介入する前にクルトとマイヤーの様子からそして後ろに居た彼らの様子を観察し、勘で話し始めたが様子を見る限り大体のことが当たったらしい。


「そんな不幸な連鎖を断ち切るために君たちの力が必要だ!」


 そう一層大きく言うと、しばらくの沈黙が訪れた。


「俺は協力する」

「オレも……」


 そうぽつぽつと賛同する者が現れ、次第に人数を増していき、ついには全員が賛同した。アドルフは、素直にありがとう、と呟いた。それと同時に高揚した。何故か知らないがしたのだ。大勢の人前で話すことに恥ずかしさよりも、気分の高まりが感じられた。


「では諸君!近くに集まってくれ。もっと近づいて!」


 三十人ほどの男達がぎゅうぎゅう詰めの円陣になっている光景は端から見れば奇妙なものに見えた。しかし、当事者達は皆真剣にアドルフの声に耳を傾けていた。そしてやって欲しいことを言い終わると円陣が崩れていき、一人がアドルフに聞いた。


「たったそれだけか?」

「そう、それだけだ。それだけ故に大事だからな。皆、しっかり頼むぞ!」

『オォォ!』


 アドルフの言葉に応じて威勢の良い声で答える。そしてついにベンチに座りのんびりとしているフランツの下へ向かった。


「フランツ、ちょっと良いか?」

「何、ヒトラーさん?」

「ちょっとやってほしい事があるんだけど、頼めるか?」

「いいよ~」


 笑顔で承諾するフランツ、そしてアドルフはマイヤーを呼ぶ。


「マイヤー、こっちに来い」

「う、うむ」


 若干震える足取りで近づくマイヤー、顔の表情は強張り相当な緊張をしていることが分かる。そしてフランツとマイヤーが向かい合った。


「じゃあ二人とも右手を前に出して」

「こうかい?」

「そうそう、ではお互いの手を握ってください」


 フランツは何の躊躇もすること無く、マイヤーは震えながらお互いの手を握った。

 すなわち握手を交わした。

 それを見届けるとアドルフはこの場にいる全員に聞こえるように言った。


「たった今!フランツ君とマイヤー君はお友達になりました!異論は認めん!賛成する者は大きな返事をしながら挙手!」

『ハァァァァァァイ!!!』


 三十人あまりの青年たちが大きな声を上げながら、天に向かって右手を突き上げた。

 こうして、フランツとマイヤーは友達となり不毛な争いが終わった。

 しかし邪魔する者が現れた。


「どういうことだアドルフ!?」

「いくら何でも無理矢理過ぎるだろ……」

「ハンスとクルトか。どうした何が問題なんだ?」


 怒り心頭なハンスと引きつった表情のクルトが異議を唱えた。


「どうしたもこうしたも握手一つで、しかもやらせで握手させて友達だと?ふざけるな!」

「ハンスみたいに否定はしないけど、あんなので友達になったとはオレも思えねえ……」


「なるほど、感情的な反論だな。友達になったかどうかは本人たちが決めるべきだと思うがな」

「その通りだ!フランツだって嫌々握手したのだから友達とは認めてないはずだ!」

「ところがどっこい!アレを見ろ!」


 指さした先には仲睦まじく会話をするフランツとマイヤーの姿があった。しかもフランツから積極的に喋り掛けているので、無理矢理会話しているとは言えない。

 その光景を目にしたハンスはこの世の終わりのような顔になっており、クルトは素直に驚いた顔になっていた。


「だ、だがアイツに脅されて……!」

「くどいぞハンス!潔く認めろ!さらに言うと俺は異論は認めないと言ったはずだ。それに反したということで罰を下します!」


 そういった瞬間、アドルフは前へ踏み込みハンスの懐に入った。ハンスは無防備。そして思いっきり右腕をすくい上げるようにハンスの顎に向かって放った。


「フンゴッ!?」


 変な奇声を上げながらハンスは倒れた。はんすのいしきが吹っ飛んでいることを確認するとアドルフはクルトに目を向ける。


「お、落ち着けアドルフ……オレはただ意見を述べただけで……」

「意見は異論に当たるので罰を与えます!」

「ちょっちょっと待って!?」

「問答無用!」


 アドルフから離れようと走り出したクルトだったが、アドルフが逃がすはずもなく、飛んだ。

 そしてそのままクルトの背中に飛び蹴りを食らわした。


「ガァッ!?」


 そう叫びながら吹き飛んだクルト。そしてうまく受け身をとったアドルフは何事もなかったかのようにエーリカやベネディクトたちの下へ歩み寄っていった。


「これにて一件落着だな!」

「派手にやり過ぎよ!」

「灸を据えてやったと考えれば、何とかなるだろう」

「きゅう……?ヤーコブ、きゅうって何だ?」


 エーリカは怒り、ヤーコブはことわざを話し、ベネディクトは疑問を言う。特にハンスとクルトを心配する様子は見せない。


 そしてそんな光景を一人で見ていたヒムラーは……




「みなさん、とても元気で頑丈ですね……ぼくも頑張らなきゃ!」




 賞賛と憧れをいだいていた。




 今日のミュンヘンは平和であった。




これから自動車学校に免許取りに行ったり、就活のインターンシップなどの活動などが数多く入ってきます。その為、更新が遅くなります。申し訳ありません。でも失踪はしませんので気長にお待ちください。


励みになるので、ご意見ご感想ご批判等を首を長くしてお待ちしております。お暇があればまた読んでみてください。

読んで頂きありがとうございました!


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