ミュンヘン編 第5話
時が立つのは本当に早いですね……。いつの間にか四月になってました……。
こんな長い期間待たせてしまい誠に申し訳ありません。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、どうぞ!
「ふむ、少し足をひねっただけだが、軽い捻挫になっているから。足を冷やして二、三日安静にしていなさい」
「ありがとうございました」
小さな病院の主である医師がそう言うとヒムラーはお礼の言葉を述べると部屋から出て行った。
そして部屋の外に待っていた一人の青年に報告した。
「軽い捻挫だそうなので、二、三日は足を冷やして安静にしていなさい、と言われました」
「そうか。あんまり重症じゃなくて良かった」
ヒムラーの言葉に安堵した表情となったアドルフ。
「はい。ここまで着いてきてくださってありがとうございます。ここからは僕一人で……」
「いや、家まで送って行くよ。それに今さっき安静にしてなさいって言われたんだろ?」
「でも……」
「こういう時は素直に頼っておいた方が良いぞ。人の善意を無視する奴は痛い目に遭うからな」
そうアドルフは柔やかに答え、ヒムラーもしぶしぶ受け入れた。
アドルフがヒムラーをおぶり、病院から出ると、皆が待っていた。
エーリカ、ヤーコブ、フォルカー、ベネディクト、ソーフィヤ、ソーフィヤの父親であるセルゲイが道端でそれぞれ話をしていた。
その中で最も目立つ二人がいた。ベネディクトとソーフィヤである。
凄く仲が良さそうに笑顔で楽しく会話をしていた。そしてそれを少し離れた所で見守るセルゲイの姿が目に入った。
セルゲイの顔の表情は、怒りや不機嫌な不愉快な表情………ではなく、優しい表情はだった。
エーリカの父であるのハインツさんなら鬼の形相みたいな顔になるんじゃないかな、などと考えながらアドルフは彼らに近づいていった。
「終わりましたよ。あまり大したことは無かったようです」
「おお、それは何よりだ」
厳つい見た目に反して物腰が柔らかなセルゲイは、笑顔でアドルフと背負られているヒムラーを見た。パッと見た印象は強面の親バカだったが、極めて紳士的な人物であり、とても穏やかな性格をしていることがこの短い時間で分かった。
「いいんですか?あのままで?」
「あのままとは?」
「ベネディクトとソーフィヤちゃんの事ですよ。もしハインツさんなら激怒してますよ。『私の天使に悪い虫が付く!』みたいなことを言って」
「あの人はそう言う人だ。仕方がないさ。私はむしろ嬉しいよ」
「嬉しい?」
そうアドルフが聞き返すと、セルゲイは一層穏やかな顔になり頷いた。
「そうだ。ソーフィヤは少々キツイ性格をしていてね。あまり友達がいないんだ。特に男にはめっぽうきつく当たるので、男友達が一人もいないんだ……。悪い虫が付かない事に関しては良いのだが、いずれあの子も大人になり恋やら恋愛やら結婚やら駆け落ちやらを経験するかもしれないし、男に慣れていて欲しかったのだが……」
セルゲイはそこで言葉を止め、ベネディクトとソーフィヤを見た。アドルフも背おられているヒムラーもそれに倣い二人を見た。やはり先ほどと変わらず楽しそうに会話をしている。今日、しかも数時間ほど前に出会ったとは思えないほど仲が良いように見える。
「ベネディクト君はとても良い子だ。故郷にいる男子とはまるで違う。媚びを売らず、それでいて女性を見下したりもしない、嘘もつかない、元気が良い、それに腕も立つ。まあ見ているとあまり深く考えていないようだが、純粋という事だね」
セルゲイの話を聞いていたアドルフは、たった数時間でここまでベネディクトの事を理解していることに驚いていたが、それ以上にベネディクトがここまで好意的に捉えられている事に対しての驚きの方が大きかった。幼い頃からの付き合いだが、ベネディクトは口よりも手の方が先に出てしまうため問題を起こすことが多かった。その為友人はいてもベネディクトの事を恐れて深く関わろうとする人間はいなかった。
アドルフの場合は喧嘩から関係が始まり、ひたすらベネディクトから関わってきたためいつの間にか友達になっていたため、ベネディクトに対して恐れという感情は無い。
そのためセルゲイの言葉はアドルフにとっても驚きと嬉しさが内から沸き起こった。
「ベネディクトに聞かせてあげてください。とても喜びますよ」
「そうかい?それはまた今度にしておこう。……まぁ、ソーフィヤを泣かせたら容赦しないけどね」
最後の言葉を聞いた瞬間、「やっぱりこの人は親バカだ」と改めて確認したアドルフだった。
ヒムラーを家まで送っていくために、アドルフ達はヒルデガルト通りに向かっていた。
ヒムラーの家はミュンヘンのヒルデガルト通り二番地にある高級アパート二階に在住する。
ヒルデガルト通りには多くの高級マンションなどが立ち並んでおり、それ相応の身分の者達が生活を営んでいる。
「ここがヒルデガルト通りか?」
「はい、そうです。ここからもう少し進んだら家が見えてきます」
ヒムラーを背負いながらアドルフは歩みを進めていく。先頭を歩くアドルフ達に対して、先程から仲良く話をしている。それを後ろから着いてきているヤーコブ、フォルカー、エーリカ、そしてセルゲイが後をついていた。
「本当に仲良いなあの二人は……」
「そうだね。仲が良いのは良いことだと思うけど………何であんなに仲が良いんだろう」
「フッフッフ……二人ともそんなの決まってるじゃない」
ヤーコブ、フォルカーの二人の疑問にエーリカが不敵な笑いをしながら自信ありげに言った。
「きっと両想いなのよ!」
「ええっ!?両想い!?」
「……そうなのか?」
エーリカの答えにフォルカーは驚くが、ヤーコブはあまり信じていない様子、そしてセルゲイは笑顔で見守る。
「きっとそうよ!だって今日初めて出会ったのに、あんなに仲良く話をしてるのよ?それにソーフィヤは男のこと好きじゃないのに男であるベネディクトとあんなに話してるし、何より楽しそうに笑っているのが証拠!ベネディクトもベネディクトで私はあんなに楽しそうに女の子と話している姿なんて見たことない!よって!あの二人は、運命の赤い糸的な何かが繋がってて今日出会ったのは必然!だから両想いなのよ!」
「そ、そうなのか………」
納得していなかったヤーコブだったがもの凄い勢いで力説するエーリカに少し引きながらも渋々納得した。
そして当の本人達は、一体何の話をしているのかというと………
「男と喧嘩になったら、やっぱり真っ先に狙った方がいい部分は金的だな!あそこやられると男はどうにもならないからその隙に逃げるのもよし、追い打ちを掛けるのもよし!」
「へえ~!やっぱりあそこ弱いんだ!今度やってみよ!」
「オレもアドルフから教わったからな。間違いない!」
両想いをしているような男女の話では、到底なかった。しかし二人とも楽しそうに話していた。
「ここです」
「ここか……。立派なアパートとだなぁ……」
ヒムラーの家の前で立ち止まるとアドルフはそれを見上げた。いかにも高級そうな外見をしており、思わず呟きを漏らしたが躊躇することなくアパートの中へと入って行った。
「いや~良いことするって良いな!」
ベネディクトが身体を伸ばしながら機嫌よく言う。
「お前は、もう二度といきなり赤の他人を殴るな!」
「はいは~い」
「ちゃんと話を聞け!」
アドルフの言葉もあまり耳に入ってきていないようで、適当な答えを返していた。
その浮かれているようにも見て取れるベネディクトを見て、エーリカは恋に浮かれていると確信し、ヤーコブは呆れ、フォルカーは苦笑いをしていた。
そのことには気づくはずもなく、ベネディクトは今にもスキップしそうな軽い足取りで我が家へと向かって行った。
こうしてとても内容が濃い一日が終わった。
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読んで頂きありがとうございました!




