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ミュンヘン編 第1話

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

遅れて申し訳ありません。

1907年1月


リンツから汽車でウィーンに行き、そこからまた汽車でドイツのミュンヘンに目指していた。

日はすっかり昇り、腕時計を見るとちょうど11時を示していた。


「あと一時間か……」


アドルフは周りを見渡した。

隣に座っているベネディクト、ベネディクトの前に座っているヤーコブは寝ており、起きているのはフォルカーとアドルフだけだった。


「フォルカー、これからどうするんだ?」

「父さんの知り合いがやっている時計屋さんがあるんだ。そこで修行するよ」

「そうか……」


フォルカーの答えにアドルフは安心した。

無理やりフォルカーを連れてきたという罪悪感があったらしい。


「アドルフ君はどうするの?」

「オレは……どうしようかな……まだ決めてないんだ」

「そうなの?てっきりまた絵を描いて売るのかなと思ってたけど……」

「絵は……もういいかな……」

「そっか……」


そこから暫く二人は外の景色を見ていた。

その沈黙に耐えれなくなったフォルカーがアドルフに質問した。


「アドルフ君はいつドイツ人になるの?」

「………住むところが見つかってからかな?と言ってもエーリカが探してくれてるみたいだし……案外早いかもな……」

「そう……」


フォルカーの反応を見たアドルフは言った。


「……フォルカー」

「何?アドルフ君?」

「オレたちに無理に会わせなくていいんだからな?」

「えっ……?」

「オレやベネディクト、ヤーコブは進んでドイツ人になるんだ。ドイツ人になるのが嫌ならならなくてもいいんだぞ?」


アドルフの言葉にフォルカーは戸惑いを見せたがすぐに答えた。


「僕だって自分の意志でここまで着たんだ。だから大丈夫だよ」

「そうか……変なこと聞いて、ごめんな……」

「いいよ、それより……そろそろ起こした方がいいんじゃない?」


フォルカーに言われたアドルフは時計を見ると12時を指していた。


「そうだな……フォルカーはヤーコブを起こしてくれ、ベネディクト!起きろ!そろそろ着くぞ!」


アドルフはベネディクトの肩を揺すったがなかなか起きない。


「ふんっ!」

「おふっ!?」


ベネディクトが起きなかったのでアドルフはベネディクトの頬目掛けてビンタをしたところベネディクトは起きた。


「な、なんだ?何が起きた!?」

「そろそろ着くぞ。降りる準備をしとけよ」

「お、おう……」


ベネディクトは首を傾げながらも降りる準備を始めた。


「ヤーコブは起きたか?」

「起きてるぞ、殿」


ヤーコブを見るともう降りる準備を済ませていた。


「……早いね」

「兵は神速を尊ぶと言うからな」

「そ、そっか……」


アドルフは思わず苦笑いになった。







ミュンヘン駅




「やっと着いた……」

「さすがに座り疲れたな……」

「俺は寝違えて首が痛い」

「三人とも鍛えが足りないぞ?」


汽車から降り駅の外にあるベンチに座りながら話をしていた。


「ヤーコブは元気で良いな……」

「毎日鍛えているからな」

「そっか……俺も鍛えないとな」


今年で18歳になるし、20歳になったら徴兵制で兵役に就くかなら……オレもそろそろ体を鍛えないとな……


「なあアドルフ?」

「どうしたベネディクト?」

「いつまでここに居るんだ?腹減ってきたんだけど?」

「エーリカが迎えに来るまで我慢しろ。オレだって腹減ってるんだから」


ミュンヘンに着いたらエーリカが迎えに来ることになっていたが少し遅れているみたいだな……


「あれじゃないかな?」

「噂をすればなんとやら、だな」


四人の視線の先にはこの時代ではまだ珍しい自動車があり、その上に立って手を振っているエーリカの姿があった。


「あれが自動車か……何か地味だな」

「ベネディクト、エーリカの前では言うなよ。あれ一台で家が買えるんだぞ?」

「本当か!?あんなちっこいのに!?」

「声がでかいって!」





「久しぶりだね!アドルフ君!」

「お久しぶりです。ハインツさん」


何故かエーリカの父親であるハインツも居た。


「なんでハインツさんが居るんですか?」

「ふっ……アドルフ君たちがドイツ人となる記念すべき日に立ち会おうと思ってね!」


そんなドヤ顔しながら言わないでください………あれっ?


「ハインツさん今、なんて言いました?」

「『ふっ……アドルフ君たちがドイツ人となる記念すべき日に立ち会おうと思ってね!』っと言ったが?」

「つまり……今日、僕たちの国籍をオーストリアからドイツに変えるってことですか?」

「そのつもりだが?」

「今から?」

「今から。あぁ、安心したまえ。手続きはすぐに終わるよ!長くても30分だ!さあ車に乗りたまえ!」


車を見ると、どう見ても四人乗りの車で全員乗れない。ハインツが運転席に乗り後部座席にはエーリカがすでに乗っていた。


「…………二人乗れないな」

「じゃあ体力がないフォルカーは乗るの確定だろ」

「僕が乗っていいの!?」


真っ先に乗ることが決まったフォルカーは驚きの声を上げた。いつもなら嫌な事を押し付けられるので非常に驚いていた。


「いいよ。ベネディクトもヤーコブも良いだろ?」

「俺は構わないぜ」

「俺もそれでいい」

「みんなありがとう!」


そう言ってフォルカーは車の助手席に乗った。


「最後は……誰が乗る?」

「アドルフだな」

「殿だな」

「……オレ?」


アドルフが言うと二人は頷いた。そしてベネディクトが近づいてきて耳元で言った。


「エーリカを見てみろ。バレないように」

「エーリカ……?」


アドルフがチラリと横目でエーリカを見ると、顔を赤らめながらチラッチラッとこちらを、正確に言えばアドルフをうかがう様に見ているエーリカが居た。

それを確認した後ベネディクトに向き直ると、ベネディクトはニヤニヤしながら言った。


「行ってこい!」


ヤーコブを見ると、ヤーコブはゆっくりと頷いた。つまり「行け」ということらしい。


「………わかったよ………オレが行くよ」

「よし行け!」


渋々……というよりも自分の事を好きと思っている人の隣に座るのは恥ずかしのかアドルフの足取りはぎこちないようにも見える。

ようやく後部座席のエーリカの隣に座った。


「………」

「………」


二人は無言だったが、けして険悪な空気ではなくむしろ、甘いような空気が流れていた。


アドルフは、母クララからエーリカが自分に好意を持っているというの聞かされ、前世も含めて恋愛の経験が全くないアドルフにとってはどうエーリカに接していいか分からずにいるため目も合わせられずにいる。


エーリカは、ただ単にアドルフと肩が触れ合うほどに密着しているため緊張しているだけである。


しかし傍から見れば初々しい恋人に見えているのは、二人は知るよしもなかった。


「では、出発するぞ!」


その二人の姿をサイドミラーで確認したハインツは、今にも泣きそうな顔をしながらアクセルを踏んだ。


「わっ!?」

「きゃっ!?」


勢いよく急発進したため後部座席に座るアドルフとエーリカが驚いた声が上がるが、ハインツにはその声は届かず、そのまま目的地までアクセルをべた踏みさせて車を走らせ続けた。


「………置いて行かれたな、俺たち」

「………そのようだな」


車が去った後に残されたベネディクトとヤーコブの二人は、車の跡を追うように走り出した。




「さあ着いたぞ!早く降りるんだ!フォルカー君!なに伸びているんだね!さあ早く降りるんだ!」

「アドルフ大丈夫?」

「エーリカこそ大丈夫か?結構スピードが出てたけど……」

「うん私は大丈夫、心配してくれてありがとう」


ハインツが完全に伸びているフォルカーに大声で声をかけている後ろで、お互いを心配し合うアドルフとエーリカ。

二人ともハインツの激しい運転により酔ってしまったので、少し顔色が悪い。


「さあ行くぞアドルフ君!フォルカー君!ベネディクト君!ヤーコブ君!今からドイツ人になるために!」

「あれ?ベネディクトとヤーコブは?」

「ホントだ。二人ともいない………」


ベネディクトとヤーコブが居ないことに今更気づいたアドルフ、エーリカ、ハインツであったがすぐにこの問題は解決した。


「あ、来た」

「どこ?」

「あっちから来るよ」


アドルフが指を指した方を向くと凄まじい速さで走ってきている二人の青年がいた。

そのまま迫って来るのを眺めていると、やはりベネディクトとヤーコブだった。


「やっと追いついた!」

「……さすがに辛かったぞ」

「二人ともお疲れさま………というかなぜ追いつけたし」

「車を見失わないように走ってたんだよ!」

「そ、そっか………」


アドルフの顔は何とも言えない顔になった。


「そんなことよりさっさとドイツ人になる手続きを済ませようぜ!」


そう言うとベネディクトは一人で建物の中に入って行った。


「行きますか。ハインツさん」

「そうだな。アドルフ君」


そう言うとアドルフとハインツがベネディクトに続くように建物の中へ入って行き、それを追うようにエーリカと未だに伸びているフォルカーを見かねて、おぶっていくヤーコブが入って行った。





数十分後、手続きを済ませたアドルフ、ベネディクト、ヤーコブ、フォルカーの四人は、今日、この日にオーストリア・ハンガリー帝国人からドイツ帝国人としての国籍を手に入れ、晴れてドイツ人となった。










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