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vol.1
向田信二という男は日本を、いや世界を代表する映画監督だ。これまでに何十もの作品を世に送り出し、それと同じ数のヒットを飛ばしてきた。僕が映画に傾倒するきっかけとなったのも彼の作品だった。
彼はある点において風変わりな男だ。それというのは、映画という虚構的娯楽に現実を求める姿勢のことだ。『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」に材をとる芥川龍之介の小説で、『地獄変』という作品がある。主人公良秀は「実際に見たものしか描けない」絵師であったが、向田もまさにそうだった。彼はどんな名優の演技にも魅力を感じることはなかった。彼が描きたかったのはそうした虚構ではなく、生の人間の燃えるような魂だったのだ。簡単に言えば、「ホント」のような「ウソ」ではなく、「ウソ」のような「ホント」を愛したということだ。




