表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ture life  作者: ゆぅ
40/58

大晦日…の4日後

三が日も終わり、茜もやっと戻って来たことで、日常が動きつつあった。



「松太朗さま、織りさま。明けましておめでとうございます」



 上座に夫婦を座らせた茜は、恭しくこうべを垂れる。

 松太朗はその仰々しさに、尻がムズムズするのだが、織りはすっかり笑顔で頷くばかりだ。

 これが昔から茜と織りたちの年始であるのだから、いつものことだ、とお互い割り切って、そして場を楽しんでいる。



「また、此度は長の暇ありがとう存じます」

「ゆっくり出来ましたか?」

 いつになく、上品に言う織りの口調からも、本人らにってこれがただの『イベント』だと知れる。だが、慣れない松太朗は胡座をかき、腕組みしたままブルっと身震いしてみせた。



「つまらぬ物ですが、お年賀にどうぞ」


 そう言って茜が風呂敷から出したのは、上等な生菓子だった。


 松太朗は苦笑して、それを受け取る。

 こんな茶番でも、彼女らにしてみれば、伝統であり、そしてただの茶番だけではないのだと知れる。



「すまんな、気を遣わせて。正月はゆっくりできたか?」


 茜は風呂敷を畳ながら、「えぇ」と答えた。


「懐かしい方々と、再会できたのではない?」

 織りの何気ない言葉に、茜が目を丸くして

「そうなのでございますっ」

と鼻息を荒くした。


「なんと、2年ぶりに楊蔵さまに会ってしまいました!!!」


 興奮する茜に、織りはまぁっと目を剥き、松太朗は首を捻る。


「また、何で?」

「実はここに戻る道すがら、お稲荷さんに参ったのでございます」

「そこで、会った、と?」

「ま、そんなかんじですわね。あちら様は薬種問屋で大店の跡取りですから」

「ふぅん。焼けぼっ杭に火などはありませんの?」



 からかう様に目をニンマリと細める織りに、茜は即答で、否と言う。



「焼け………なんだ。そのヨウゾウ殿とは、茜のかつての思い人か何かか?」


 ははは、と新年も変わらず美しく笑う夫に、妻も袖で口元を隠しながら、無邪気に言う。


「違いますわ、松太朗さま。楊蔵殿は、茜の昔の旦那様ですわ」

「なっ……!?」

「2年前に暇を申しつけられましたの」


 無邪気な妻の言葉に目を剥き驚愕の表情で、口をパクパクさせながら一家の主は美しい使用人を見た。


 茜は松太朗の反応を楽しむようにコロコロと笑う。

「わたくしも、一応おなごの幸せを掴んではみたのですけれどもね」


 織りは、茜に気遣う風でもなく、実に無邪気に言う。

「茜は、奥方としても、わたくしの先輩なのです」

「まぁ、結局離縁致しましたけれども」

 まったく気に留めないのは茜も同じで、織りの言葉になんとも返答のしにくい言い回しをしてみせた。

 口元を歪にゆがめて、なんとか笑おうとする松太朗をよそに、織りは大きく頷きながら付け加える。


「武家でみっちり行儀見習いをしていた茜が、大店の女将など、務まりませんわよ」

「ほほほ。でも楊蔵様もお元気そうでした。なんでも去年の春には新しい奥方を迎えて、今年の夏前には待望のややも……」



 若い娘たちらしく、鈴を鳴らしたような爽やかな声で楽しげに話していたのだが、茜は意味ありげにニッコリと極上の笑みを浮かべた。




 本当は、あまりの茜の美しい笑みに、楊蔵は彼女を「妻」という女として見れなくなり離縁したのだが……。




 それはさて置き、その美しい笑みを顔面に貼り付けたまま、茜は松太朗を見てもう一度言う。




「待望の、ややもっ。産まれるそうです。おややがっ」



「えぇぇい!!!何だと申すのだ!!!小姑のようにやや、やや、と。我ら夫婦、ちゃんと年末にやや計画をしたわ!!!」

「えっ!!??はっ!!??」

「んっまぁ…!!!松太朗さま、それはそれは!!!誠におめでとうございます!!!念願叶いましたのね!?」




 松太朗は織りと過ごした大晦日を思い、一人で『織りとのややはしばらく待つ』と合点させていた。勿論、彼らに姫はじめなどあろうはずもない。


 そんな松太朗の気も知らず、織りが慌てて赤面しうろたえる。


 そんな二人を見て、忠義者の女中は目を爛々と輝かせる。








山田家(松太朗は姓を山田という)の賑やかな年明けであった。

 何とか奥さんとの接吻に成功した松太朗さまは、とりあえず目標達成。 ややは作らずとも、次は春までに『二』度めの『初』夜を迎えることが目標です。



 松太朗家の姓、茜の過去。

 微妙な新発見で、おままごと夫婦+忠義者の女中たちの生活は、また始まるのでした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ