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ture life  作者: ゆぅ
35/58

雪降り

「っくしっ」


いつまでも吹き曝しの縁側で見つめ合っていたので、すっかり冷えてしまった織りが小さくくしゃみをする。


松太朗は弾かれたように我に返ると同時に、ギュウゥ~と腹が大きく鳴ったので、一気に空腹を覚えた。

思えば、昼食をとらずに帰宅したのだった。

なぜなら…


「織り殿、昼飯は外に食べに行かないか?」

「え?」


鼻をズズッといわせた織りが、眉を顰めながら聞き返す。


「どうせ今日は二人なのだし、織り殿も忙しいだろうし明日は大晦日で店も開いてないからな。せっかくだから」


な、とニッコリ微笑む松太朗に、織りはフニャリと目尻を下げてしまう。


松太朗さまと外でお食事だなんて…ステキ…。


先ほどの松太朗の爆弾発言なんてスッカリ飛んでしまった織りは、松太朗と初めての外食デートに、完全に浮かれていた。

茜がいたなら、目をつりあげ、算盤を弾いたに違いない。



「じゃあ早速行こう」

「はいぃ」


地に足が着いていない織りは、フワフワとした足取りで雑巾を片付けて、もちろん手も洗って着替えた。


「襟巻きは?」

玄関で待っていた松太朗は、とりあえず着込んで来た織りを見て、尋ねる。

織りは草履に履き替えながら、

「わたくし、襟巻きは持っておりませんの」

と答えた。


娘時代は、父からもらった襟口にファーの付いたマントを着ていた。

しかし、嫁入りした自分には少し可愛らしすぎて、実家に残して来たのだ。

「うむ…。ついでに買いに行くか」

腕組みして言う松太朗に、織りはふんわり笑って首を振った。

「いいえ、お気持ちだけ。そんなにわたくしも出歩きませんし」

茜ではないが、織りも少しだけ算盤を弾いてみた。そこまで必要でないものを買うのは無駄遣いだ。茜に怒られてしまう。

「じゃあ男物だが…」

言いながら松太朗は自分の襟巻きを織りに巻きなおしてやる。


ふわりと松太朗が使う香の香りが鼻をくすぐる。

「でも松太朗さまが…」


「よいよい。俺はアホだから風邪をひかないんだ」

「それを言うならバカですわ」

「俺はバカか?」

「い…いえっ!そういう意味では……」

真面目な顔をして冗談を言う松太朗に、織りは案の定アタフタする。

松太朗はやはり軽やかに笑いながら外に出た。


まだチラチラと雪が降っている。


「ほら、まだ雪も降っているのだから。気をつけなければ、風邪をひいて寝正月を迎えることになるぞ」

そう言いながら松太朗は手を差し出す。

織りは玄関の戸を閉めると、くるりと振り返った。

そして、出された手をパチクリと見ると、おずおずとその手を取る。


「こ…このまま歩くのですか?」


しっかりと繋がれた手を見ながら織りが尋ねる。松太朗も同じように見下ろしながら、小さく小首を傾げた。


「別に構わんだろう?」

「松太朗さまのお知り合いに会っても…」

「『妻だ』と言えばよいではないか」

織りは恥ずかしい半分嬉しさで顔を上げる。


「積もらないかしら。わたくし毎年、弟と雪遊びするのが恒例でしたの」

「風邪をひくだろうに…」

呆れたように言う松太朗に、織りはクスクス笑う。

「二人で走り回りますもの。でもたがらでしょうけど、母に怒られてました」

「うむ…まぁ…元気があってよいが…」


少なくとも、松太朗の回りにはそんな女は居なかった。清少納言ではないが、雪の日は戸を開けた部屋で、雪を愛でる。気が向けば歌を詠んでみるのだ。

だから、織りに返す言葉に苦心する。



「何を食べに行くのですか?」

雪の降る中、大好きな松太朗とお出かけとあって頗る機嫌のよい織りが尋ねる。

松太朗は、ん?と柔らかく微笑みか返した。


「うどんだ」





大晦日を明日に控えた市井は大勢の人で賑わっていた。

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