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ture life  作者: ゆぅ
26/58

深夜

深夜、みんなが寝静まった頃。



ぱちっと松太朗は目を覚ました。

頭だけを動かすと、見慣れない天井が目に入った。普段より高い位置にあり、一瞬考える。そしてそのまま目だけを動かすと、隣の布団には織りが寝ていた。



…そうだった…。

と思う。

美味しい酒で、ついつい飲んでしまったのだった。


松太朗はゴソゴソ起き上がると、厠へ行く。その帰りには、また湯呑み一杯分の水を飲んだ。


「飲みすぎたな…」


口を拭いながら、独りごちる。


もともと、そんなに強い方ではない。

織りと夫婦になる前から晩酌することも、友人と飲みに出て行くことはあまりなかったのだ。


徳暁との酒が進んだのも、一重に織りの存在があったからだ。

彼女の幼少の頃の様子や、育ちについて聞いて、純粋に嬉しかった。

それと同時に、子を思う親の姿を勉強した。



(まぁ…いつかは俺にも分かるんだろう…)



そんなことを考えて、自嘲ぎみに頭をかきながら、部屋へ戻った。




部屋に戻り、織りの枕元に腰を下ろす。

そして、ぼんやりと眺めた。




夫婦の契りを交わして3ヶ月。

織りはあっと言う間だったと言う。

松太朗にとっても「早いなあ」という感覚は変わらないが、しかし、時はのんびり過ぎていったようにも思う。

もう、随分と織りと暮らしているような気さえする。




松太朗は、織りの頬に触れた。

思いの外冷たい。

織りに触れる時は、いつも彼女が頬を紅潮させているため、熱持っている。

そう言えばもう霜月半ば。


やはり、あっと言う間の3ヶ月だったかも知れない。



松太朗は、織りの布団をしっかり肩までかけてやった。

松太朗がこうも側にいてゴソゴソやっているのに、一向に目覚める気配がない。


「うむ…」




最近はそうでもないが、婚儀から暫くは、織りはなかなか眠れなかったようだった。

布団も、最初のうちは一緒だったが、それではいつまでも経っても織りが眠る様子がない。

なかなか寝付けず、松太朗に背を向けたまま落ち着かずにいる気配がいつまでもしていた。


その後布団を別にしたのだが…。

それでも、やはり暫くはなかなか寝付かなかった。

本当に最近だ。


お休みなさい、と声かけたのち、暫く後には規則正しい寝息が聞こえるようになったのは。




「何かと気苦労が耐えんなぁ…お互い」


眠る織りに、松太朗は言う。

「ん…」

小さく織りを身を捩る。



松太朗は、そんな織りを見ながら再び布団に戻った。

とは言え、松太朗の布団ではなく、織りの布団にだ。


別にイヤらしい気持ちはなかった。

皆無とは言わないが、なかった。


織りの布団の中は暖かい。

自然と織りに足を絡めた。

直に伝わる織りの体温は、心地よく眠気を誘う。「ふぁ…」

松太朗は、欠伸をしてゴソゴソ布団に潜り込む。


「うむ…邪魔だな」



そう小さく呟くと、織りの枕をどけた。



「ん゛うぅ…」



さすがに織りが迷惑そうに眉根を寄せる。しかし松太朗は構わない。



「たまには俺の腕枕を貸してやろう」



そんな独り言を言いながら、松太朗は織りに腕枕をしてやりながら、その身を抱き寄せた。

小さな織りの体は柔らかく暖かい。

酒を飲んで眠気に襲われていなければ、間違いなくこのまま抱いていただろう。



「ふぁ~…」



再び欠伸をした松太朗は、「お休み」と小さく織りに声をかけ、軽く口づけた。

そして抱き枕のようにして、ぎゅうっと抱きしめる。





「…うぅん…」



織りは何やら夢を見ているらしく、言葉にならない声をあげると、きゅっと松太朗の背に腕を回した。



「…織り?」



起きたのか?と薄めを開けてみるが、聞こえるのは規則的な寝息。

織りは、居心地良さげに松太朗にすり寄った。




松太朗は自然と、ポンポンと織りの頭を叩いてやる。





そしていつの間にか、眠りの淵に落ちていた。













翌朝。

織りは、心地よい暖かさと重さにゆっくりと目を開けた。


障子の奥からは小鳥の鳴き声と明るい光が洩れてくる。



体を起こそうとしたが叶わない。


「あら?」



パッと振り返って、織りは自分の置かれた状況を理解するのに暫くかかった。



振り向いた先には、長い睫に縁取られた瞳を、しっかりと閉じた松太朗の顔。

寝ていても分かる鼻筋の通った美しい顔。

そして…自分の体はしっかりとその麗人が抱きしめている。












「朝っぱらから姉上の(叫び)声で目が覚めたので…何だか気分が重い」


朝餉の席でそう呟く晴暁に、織りは言い返す元気もなかった。


「朝っぱらから、本当に騒がしい娘ですこと」


眉根を寄せる利玖は、頭を振る。

もちろん、織りはそれに言い返す元気はない。


「松太朗殿、大丈夫だったか?」


気遣わしげに松太朗に尋ねる徳暁に、松太朗は苦笑する。


「ええ」



織りは誰とも目を合わさずに、いろいろな恥ずかしさに頬を赤くして、さっさと朝餉を済ませたのだった。

織りたち3人は、朝餉を済ませると、お土産をどっさり抱えて帰って行った。

もちろん織りは、朝からご機嫌ナナメなので、家族への挨拶もそこそこに、だ。





嵐がさったような織りの家には、一家3人が揃っていた。


「そもそも母上は、何故姉上を呼んだのです?」


足を放り出して両親と共にいる晴暁が尋ねる。

利玖は、あぁ、と言うと、苦笑気味に答えた。


「あの子たちに綿入れを渡したかったの。使いをやってもよかったのだけれども…。どんなしているかも気になって。まさか夫婦で来るとは思わなかったけれど」


「ふうん…」


結局、嫁に出した織りが心配だったのだろう。

織りのあの性格だ。

松太朗とうまくやっているか。松太朗に早くも愛想を尽かされていないか。ワガママ三昧していないか。


「母上も、相変わらず心配性ですね」


少年はクスクス笑った。そして天井に目をやり続ける。



「でも、松太朗殿。かっこいい殿方だったなぁ。姉上にはもったいないくらいだ」


そう言ってケラケラ笑う。

しかし、その松太朗が、あの姉を気に入って可愛がっているというのも、また面白かった。


「松太朗殿って変!」



そう言って笑い続ける晴暁、利玖が窘めた。



そして、それまで黙っていた徳暁が利玖に声をかける。



「そう言えば、絹のことは伝えたのか?」

「あっ!そうでした」


利玖が目を丸くする。

徳暁は、はぁっと小さくため息を吐いた。


「おまえ…。その為に茜も呼んだのだろう」


呆れたように言う徳暁に、利玖は織りとそっくりの表情でぷいっと顔を背ける。



「ま、まだ時間はありますわよ」





そんな母を見ながら、晴暁は胸中で



(やっぱり姉上の母親だ)


と呟く。








こうして、長い1日だった織りの里帰りは終わった。

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