【落葉】
葉っぱが色づき、山のあちらこちらも赤や黄色になり始めた頃。
松太朗の食欲には拍車がかかってきました。
「秋も深まったな~」
にゃ~
庭の大きな銀杏の木を見つめながら松太朗は目を細めた。
朝夕は冷えてきたが、日中の縁側は小春日和で心地よい。色付いた銀杏をしがない1日、ぼんやりと眺めているとそのままうたた寝をしてしまいそうだ。
「あの葉が落ちだしたら、焼き芋をしよう」
にゃ~
その為に、今は薩摩芋を栽培中だ。そろそろ収穫できるはずだ。
「芋を収穫したら、芋の炊き込み飯と味噌汁を茜に作ってもらおう」
にゃ~
膝の上に鎮座する愛猫の背を撫でながら松太朗は目が潰れてしまいそうなほど輝かしい微笑みを浮かべた。
この愛猫―メダカと名づけている―と、三度(と限らなくてよいのだが…)の食事をこよなく愛する絶世の美男子は、己の容姿には全く無頓着である。
そして、貧乏だった。
「そうだ。今年は水飴を買ってきて、大学芋を作ってもらおう」
パッと表情を明るくした松太朗は、「いい考えだ」と、独り満足げに頷く。
毎年、庭の落ち葉を集めて焚き火をし、そこで芋や栗を焼くのが、幼い頃から松太朗の家の恒例行事だ。
確か去年は兄がたくさんの銀杏を貰って来たので、義姉がそれを炊き込み飯にして、残りは茶碗蒸しにした。それでも余ったので、焚き火で焼いたのだ…。
「大学芋は甘いから、きっと織り殿も喜ぶだろう」
メダカと食事をこよなく愛する松太朗には、もう一つ愛するものが今年は増えた。
妻の織りである。
松太朗は、喜ぶ織りを想像し、目尻をトロンとゆるませ、口元には押さえがたい笑みをたたえた。
「そういえば織り殿は何が好きなんだろうな…。なぁメダカ」
顎をゴロゴロ鳴らせていたメダカは、突然キッと鋭い目を剥き、松太朗の指を軽く噛んだ。
「った!?何をするのだメダカ!!!」
現実に戻された松太朗は、慌てて手を引いた。
松太朗の細く、優雅な指には赤い噛み痕がしっかりと残っている。
幸い血は出ていないようだ。
驚く松太朗を後目に、メダカは優雅な仕草で松太朗を一瞥し目を閉じると、ふぁ~っと大きな欠伸をして、再び彼の膝の上で惰眠を貪る。
「まったく…。猫は気ままで楽な生き物だな…」
そよそよと風が吹き、松太朗の髪もメダカの毛も心地よく揺れる。
眠るメダカの背を撫でながら、今日の休日をいかに過ごそうかと松太朗は考えていた。
「お上が俺をもそっと働かせれば、俺ももう少し贅沢が出来るのだがなぁ…」
少なくても、三食違うおかずでご飯が食べられるだろう。