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「君を愛することはない」と言われた王女ですが、離婚して温泉地を経営します

作者: にしはじめ
掲載日:2026/03/03


「君を愛することはない」


 私はロンデリウス王国の第八王女、リリアーヌ・サクール・ロンデリウス。いえ、今はリリアーヌ・ラヴォアですね。

 この度、王家からラヴォア辺境伯家へと、嫁いで参りました元王女です。


 そして無事、結婚式も終わった夜。つまりは初夜で、旦那様となるカルロ・ラヴォアから、いきなりこんなセリフを吐かれました。


「これは契約ですから、愛なんて不要です」


 ラヴォア辺境伯家は昨今経営難に陥っており、王家から支援金を渡すこととなりました。

 ですが、当然タダで渡すわけにはいきません。

 そのため私の結婚と称して、支援金を辺境伯家へ渡すこととなったのですが……。

 いきなりこのセリフです。


 王家としても、辺境伯家が潰れてしまうのは困る。

 そのための契約婚ですから、愛だの親愛だのといった感情など、一切ありません。

 私も旦那様と初めて会ったのは一週間前、この地へ到着したときですからね。

 愛する以前の、「あ、初めまして」、という段階なのだ。


 しかし、私がそう返事をすると、なぜか旦那様は不満そうに口元をゆがめました。


「ふんっ、ならばもういい。既に支援金も貰ったし、君とは今後一切会う必要はないな」

「はい、おつかれさまでした。お元気で」

「……くっ、もういい」


 にこやかに返事をすると、何故だか怒って出て行ってしまいました。

 なぜ?

 もしかして、私が傷つくと思っていたのでしょうか?


 まあ、これも計画通りなんですけどね。


====


 まずこの結婚は五年前、辺境伯家から支援してほしいという申し出から始まりました。

 ただし、その時は先代辺境伯であり、旦那様ではありませんでした。


 ラヴォア辺境伯領は火山の近くに位置し、国内でも有数の鉄の産地でした。

 ただ、年々鉄の質が落ちており、このままでは立ち行かない。

 そのため、鉄の精錬技術を高める資金が欲しい、という申し出だったのです。


 王家としても、戦略物資に当たる鉄は必要であり、そのための資金を渡すことはやぶさかではありません。

 しかしタダで渡すと、他の貴族たちだって我も我もと言ってくるようになります。

 そのため、二つの条件を出しました。


 一つは領地の割譲。

 これは大して問題ではありません。辺境伯領は広大であり、使われていない土地もたくさんあったからです。


 もう一つが私の輿入れ。

 かつて我が国の情勢は不安定でした。そのため、王家は力を持った貴族の娘を次々と娶り、安定化を図ったのです。

 その結果、男児十一名、女児九名の子だくさんな王家となりました。

 王家としても、たくさんいる王子王女の将来を考えなければなりません。

 その中から白羽の矢が立ったのが、私でした。


 なんでや。


 それはともかく、この二つの条件を先代辺境伯は受けたのです。


 ここまでは良かったのですが、ここから浮き出てきた問題。

 旦那様には、婚約者がいたそうで……。

 元々、その二人は学生時代から婚約をしており、相思相愛だったらしいのです。

 ですが、先代辺境伯はそれを認めておらず、私という王女を迎えることにしたのです。

 先代の意図は分かります。

 いらない土地を割譲するだけで、お金を貰って、王家との縁が結べるのです。

 婚約者は辺境伯家の寄り子貴族出身ですから、比べられるものではありません。

 それに反発する旦那様。


 さあ波乱の幕開けだ。


 とは言っても、それは辺境伯家内の事情であり、私のところには情報が届く程度でしたが……。



 それはそうとして、私はこの時点で一つの計画を練り上げました。


 まず目を付けたのが、割譲された土地。ここは火山の近くである。

 そこから思いつくのは――温泉。

 これはもう、土地を貰うしかないでしょう。


 そしてお父さまと折衝し、無事拝領することが出来ました。さらに、男爵の爵位まで貰えるというおまけ付き。

 単に領地を治めるなら爵位が必要だから、という理由なんですけどね。

 それに王家としても、使われていない飛び地なんて、正直いらないでしょう。

 形式上、土地を貰ったってだけですからね。


 あとはお母さまの実家を頼って、人を出してもらい、割譲された土地の検分をしてもらいました。

 火山灰の影響か麦などは育たず、近くに鉱脈もない。でも温泉は発見した。

 この結果を聞いて、思わず小躍りしてしまいましたわ。


 温泉があれば、できることが増えます。


 まずは観光地でしょう。

 それに地熱……は無理だけど、源泉を使った温室はできそう。


 そして、火山灰の積もった土壌でも育てられるもの。それは根菜類です。

 桜島大根って有名ですよね?

 大根以外にもイモ類、人参、豆なんかも育てられます。

 これらを特産品として、温泉と合わせれば十分戦えるでしょう。


 第二の人生を歩む土台の完成です。


 こうして、五年の準備期間を経て、辺境伯家に嫁ぎました。

 問題は、五年の間に先代辺境伯が急死し、急遽旦那様が当主となられたところでしょうか。

 まあ、計画に支障はないでしょう。むしろ加速するかもしれません。


====


 こうして初夜に、愛することはない宣言を受けました。

 まあ事前に分かっていたことですけどね。

 でも、婚約者を愛してるんだ、といいつつ抱きにくるような人で無かったのは助かりました。

 そうなったらそうなったで、ぐーぱんしたあと、説教タイムに入りますけどね。


 さて、現状辺境伯領は正直やばい状況です。

 鉄の精錬技術を高める。

 言うは易し行うは難し。

 技術の革新は何十何百年とかけて行うものであり、数年で結果なんてそうそう出ません。

 初めて聞いた時、無茶なことを、と思ったものです。


 では、今後取れる方針はあるのか?


 鉄だけの一本から、他の産業を増やすこと。

 多角的に事業を行い、安定した収入を得ながら、のんびり技術革新を行うのです。


 でも旦那様は、鉄は誇りだ、と言わんばかりに他を見ていません。

 支援金は、かなり潤沢に貰ったはずなので、節約すれば当分持つとは思いますが、それはジリ貧とも言えます。

 どうするんでしょうかね。


 そして私の役目は……今のところありません。

 だって、もう二度と会わないとか言われまし他からね。


====


 定期的に、拝領した領地の進捗やら確認を取りながら、あっという間に三年が経過しました。


 まず、本当に一度も旦那様と顔を合わせませんでした。

 夜会も何度かあったらしいのですが、当然私は呼ばれておりません。

 まあ婚約者もいらっしゃいますし、私は不要だったのでしょう。


 それと、いつの間にか旦那様は婚約者とご結婚されて、今では子どもまでいらっしゃるらしい。

 私付きの侍女たちが、そういう話を聞いてきました。

 辺境伯家の領主であれば、側室を持つことも不思議じゃないですからね。


 なお、この侍女たちは王城から連れてきた使用人で、辺境伯家の使用人は一切使っていません。

 お給金は、お母さまが出してくれています。本当、助かります。


 さて、そろそろ手続きをしましょうか。

 王都から取り寄せた紙を数枚もって、旦那様のいる執務室へ向かいました。


「君とはもう会うことはないと言ったはずだが?」

「そうしたかったのですが、これはどうしても本人に署名していただく必要がありましたので」


 持ってきた紙を旦那様に手渡しました。


「……これは?」


 白い結婚。

 その証明書と、手続きの書類です。

 白い結婚という制度は三年間、一切夫婦の営みを行わなかった場合、離婚できるものです。


「ああ。つまり、離婚するということで間違いないか?」

「ええ、その通りです」

「ふんっ、わかった。サインしてやろう」


 内容を読まず、簡単にサインをする旦那様。

 いえ、もう元旦那様かな。

 乱雑に書かれた書類を、私へと突き出してきました。


「これで、二度と会うことはないな」

「はい、それではお元気で」


 にこやかに笑顔を振りまきながら、こうして私は無事離婚することとなりました。

 やったね。


====


 初めて自分の領地にやってきました。

 十一歳の時にここを調査してもらい、それ以降コツコツと開発してもらった。

 それから八年。すでに活気があふれていますね。


 ここで私の第二の人生が始まるのだ。


「リリアーヌ男爵、ようこそお越しくださいました」

「アベル、よろしくお願いいたしますわ」


 アベルは私の初恋の人でした。

 幼少の頃、お母さまの実家を訪れたとき、私の相手をしてくれたんですよね。

 ただ彼は子爵家の次男。王女と子爵家の次男では、到底家格が釣り合いません。

 このため、諦めたんですよね。


 ですが、今回の土地を検分する際、アベルが立候補してくれました。

 そしてお母さまの実家から当家に移籍し、代官として長年領地を運営してくれたのです。

 私の拙い文章と情報で、ここまで発展させたその手腕は、見事というしかありません。


「まずは、旅の疲れを癒しましょう」

「案内、よろしくお願いしますね」


 旅の疲れを癒す。つまりは温泉だ。


 ゆっくり温泉に浸かって、その後特産品を色々と試食しました。

 温泉卵に、大根のお漬物、サツマイモのスイートポテトやら、じゃがいもを茹でて塩をかけたもの。

 人参やきゃべつ、じゃがいものポトフなどもありました。


 すごい。よく八年で、これだけ作れるようになったものです。


「アベル、大義でした。これからも、よろしくお願いしますわ」

「お任せください、リリアーヌ男爵」


 もうアベルに全部丸投げで、いいんじゃないのかな?

 私みたいな素人が、余計なことを突っ込まないほうが、たぶん良いと思います。


 そして、私が来たことにより、いよいよ男爵領は本格始動しました。


====


 さらに五年が経過しました。

 領地は順調で、すでに黒字経営となり、さらに投資した金額分の回収も終わりました。

 お母さまの実家にも、投資した以上の何か返さないといけませんからね。


 そんなある日、私はアベルと今後の打合せをしていたときでした。


「たのむ! 支援してくれないか?」


 突如、元旦那様が我が領地を訪れたのです。

 聞けば、どうやら貰った支援金も底を尽き、精錬技術もあがらず、結果破産寸前となったらしい。


 対する我が領地は、潤沢……ではないものの、男爵領としては十分な余裕を持っていました。

 特に冬場の温泉が大人気であり、外を見れば火山の山頂に積もる雪化粧。

 また宿も源泉を使った、ちょっとした暖房機能もあり、部屋の中も寒くない。

 おいしい料理に舌鼓を打ちながら、綺麗な景色を眺める。

 これが、大ヒットしました。


 ですが、さすがに辺境伯領を支援できるほど、儲かっているわけではありません。


「すでに、ラヴォア辺境伯家とは何ら関係ありませんが?」

「何を言っている! 結婚していただろう?」

「五年前に離婚しております」


 今の私は王族籍を持っている男爵家当主であり、寄り親はお母さまの実家です。

 縁などとっくに切れています。


「それに、当家もまだ立ち上げたばかりで、他貴族へ支援などできる余裕はありません。王家を頼れば?」

「既に頼んだが、断られた」


 まあそうでしょうね。

 確かに潰れれば、困ることは困る。しかし、鉄はラヴォア辺境伯領以外でも採れるのだ。

 そして支援金を渡してから、すでに十数年が経過している。

 その間、王家も対策を練っていたとは思わないのでしょうか。


「とにかく、当家ではどうすることも出来ません。お帰りください」

「そうだ、結婚しよう!」

「……は?」


 何を言ってるのか、理解できません。


「そうすれば元通りだ。王家からの支援金だって期待できる」

「あの、既に私は結婚してますが」

「なに? 浮気か?」

「何を言っているのですか……ちゃんと離婚したあと、結婚したのです」


 私は三年前に、アベルと結婚しました。


 この計画は第二の人生として、初恋のアベルと結婚することを、目的にしたものでした。

 王女という立場では無理でしたが、今は男爵家当主であり、さらに離婚された身です。

 これでアベルと結ばれることが、可能となりました。


 ただ、十年も待ってもらえるか自信は無かったのですが、快諾してくれて、ものすごく嬉しかったです。


「おかーさま!」

「あらセシーリア、まだお母さまはお仕事中ですよ」

「うー……はい」

「あとでちゃんと遊んであげますからね」

「はい! 約束ですよ、おかーさま!」


 突然、娘のセシーリアが会議室に押しかけてきました。

 あの子は、割と自由なんですよね。ちょっと甘やかしすぎたかな。


「今の子は……」

「私の子どもですよ」

「そんな……」


 愕然となりながら、元旦那様はお帰りになられました。


 結局、辺境伯家は取り潰しとなりました。

 その後辺境伯領は、お母さまの実家に任される事となり、私もその寄り子貴族として関わることになりました。


 それでも温泉に娘といっしょに浸かりながら、広大な景色を眺める。

 温泉からあがれば、旦那様が新しい料理を考案して、作ってくれる。


 第二の人生、謳歌しています。




温泉入りたいですねー

そういえば、主人公は異世界転生なのに、本文に書いてなかったですね……




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― 新着の感想 ―
資金が潤沢にあったとしても、いつ火山が噴火するか解らないから、その為の復興資金を蓄えて置かないと行けないと考えると、何の計画性もない者に貸すなんてありえん。
あ、やっば転生でしたか。桜島大根の下りからそうかなと。 あと元旦那様、お金貰って初手から態度悪いって最悪では?金目当てに再婚要求するから婚約者への愛も貫けてないし。 というか、初対面で「愛すること…
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