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5. ルームメイトの妹

(ロバート目線)


俺の名前はロバート・フェルノ。貧乏な子爵家の3男である。

俺は2つの魔法を持って生まれてきた。左の眼は赤で火の魔法、右の目は黒で闇魔法だ。

2つの魔法を持って生まれてくる事は稀にあるが、この組み合わせが不吉であると子供の頃から家族にでさえ避けられてきた。

というのも闇魔法はもう一つの魔法を増幅させる事ができて、時には自分でさえもコントロールを失ってしまう。


6歳の頃、上の兄たちに揶揄われて、感情を爆発させたところ、兄達に酷い火傷を負わせてしまった。幸いすぐに魔法薬で治療する事ができたが、薬が効きすぎたのか兄たちはこの世の終わりのような叫び声をあげていて、それがトラウマになり魔法薬には良い思い出がない。


兄達は俺を見ると怯える様になってしまい、その後王都にある、叔母の家に行く事になり。そこから15歳で王立学校の騎士科の寮に入るまで、1回も実家には帰らなかった。


叔母夫婦はとても優しくしてくれたが、同時に彼らの目に映る恐怖心も見えた。なるべく怒らせない様に感情を爆発させない様に気を遣われているのがわかる。


なので騎士科に合格した時は、今までの礼を言ってすぐに寮に引っ越した。


叔母夫婦の顔に安堵感が広がったのを見て、これで良かったんだと思う事にした。


15歳にもなれば感情のコントロールも出来るので、魔力が暴走する事もなかったが、学校は念の為俺の魔力を制御する腕輪を俺に付けさせた。それでも俺にはなかなかルームメイトが見つからなかった。

来ても俺の顔を見た瞬間、すぐに部屋の変更を申請されてしまうのだ。


エバン・ガーディナーは3人目のルームメイトだった。諸事情で入学が遅れたらしいが、またすぐにこいつも部屋の変更を申し出るのだと思っていた。


「ガーディナー伯爵家の長男エバン・ガーディナーだ。今日からルームメイトとしてよろしくな、エバンと呼んでくれ」と明るく言われた。


俺の眼を見ても、なんの表情の変化もない。


「俺の事が怖くないか?ルームメイトの変更を申請するなら早い方がいいぞ」と言ってみたが。


「いや、この部屋は角部屋でうちの屋敷に一番近い位置にあるから、ここが良い。俺は毎週末実家に帰るから、君も週末は1人でゆっく過ごせるぞ」とエバンはゴソゴソ何かをバックから出しながら言った。


それは金髪で緑の眼を持った可愛い女の子の姿絵だった。


来ていきなりホームシックなんだろうか?



家族の写真も欲しくなるよな、妹思いの兄なんだなと思っていたが、出てくる出てくる大中小の様々な姿絵が、全て妹の物だけ。

洋服とか必要なものは一切無く、妹の姿絵と妹からもらったものだけが荷物から出て来た。(洋服等の生活必需品は後から執事が届けに来た)


あとで分かった事だが、入学が遅れたのも妹と離れたくないとごねたから、騎士科に進んだのも寮が一番実家に近いから、俺が怖くないのも妹以外の人間に興味がないからだった。


そして毎晩送られてくる魔道メールから聞こえる妹の声にニヤニヤして悶えている、重度のシスコンだった。


「俺は魔法薬剤師の才能もないし、緑の眼も持っていない。将来は領地に引きこもって、水の魔法でアリシアの為に薬草畑に水撒きして過ごすんだ。後継者もアリシアの子供を養子に貰えば良いし。アリシア似の子がいいなあ。」とうっとりしながら言う。


王都内を巡回練習するときに、エバンは女性たちから熱い視線を向けられるほどの美形なのに。勿体無いなとちょっと思ってしまう。


それと同時に妹の話をする時は本当に幸せそうな顔をするので羨ましいと思ってしまう。


騎士科に入学して半年、初めての実技試験が後1週間に迫った時だった。


半年に1回の実技試験は卒業後に騎士団に入れるかの評価に重要視されている。実家に帰る選択肢が無い俺には全ての実技試験でも好成績を残さなくてはいけない。1年目の実技試験は魔法を使わずに剣術だけで試験が行われる。


授業の後、演習場に残り木剣で素振りをしていると、後ろから声をかけられた。


「今日はあの水色の眼のルームメイトはいないのか?俺たちが練習相手になってやろうか?」と言ってきたのは、白に近い水色の眼を持つ、ブリザード伯爵家の次男ブライスとその取り巻きだった。

彼の家は氷魔法を使い、長男のユリウスは第一騎士団の副団長なはずだ。


その為か、彼は自分より下位の貴族をバカにする傾向がある。そして自分より剣の腕が立つとなれば、尚更目の敵にされる。


先ほどの授業ではエバンが彼と対戦していたが、エバンは騎士になるつもりは無いと言いつつ、妹の身を守る為に小さい頃からかなり厳しい訓練を重ねてきた為、1年生の中ではトップクラスの剣術の実力を持つ。そのおかげで1分も経たないうちにエバンが勝利を収めた。


恐らくその練習の時の腹いせに、エバンを探していたのだろうが。エバンは来月の妹の誕生日の為に最高のプレゼントを探すととっとと帰ってしまった。


「あいつが居ないなら、ルームメイトのお前でいいや。どうせお前の魔法はその腕輪で制御されているからな」

ニヤリとブライスは笑って、俺の上にみぞれを降らせた。


肌寒いこの季節にみぞれ、すっかり体が濡れて凍えてきた所に、氷で足を固められて、木剣で3人がかりでかかってこられた為、避けきれずに右腕を打たれてしまった。


あまりの痛さに思わず持っていた木剣を落とすと、


「大したことねーな」と言いながら、ブライスと取り巻きたちが帰っていく。


寒いなか、足元の氷がある程度溶けるまで動けず、俺は急いで寮に帰ってシャワーを浴びたが、次の日の朝起きた時には喉がイガイガして、腕の腫れもますます大きくなっている。今日は実技はなく座学のみ、明日は週末で休みだからその間に安静にしていれば治るだろうと思っていたのだが、反対にどんどん体調は悪くなっていった。


学校も先生から言われて早退して帰って来た。エバンがじっとこちらを見ていたが、心配してくれいるのであろうか?


週末の朝、いつもなら朝ごはんも食べずに実家に飛び帰るエバンが、俺の様子を見て一緒に俺の家に帰ろうと言ってきた。


「俺の妹はすごく腕の良い魔法薬剤師なんだ。そんな風邪はすぐに治してもらえるぞ」とウキウキしながら言われた。


妹ってあの写真の?幾つだよ?


まさか俺を妹へのプレゼント(生贄)にしようとしているとは思いもよらず、迷惑をかけたく無いとずっと断っていたが、ほぼ引きずられる様に伯爵邸に連れて行かれたのだった。


エバンの妹のアリシアは絵姿や毎晩の魔道メールの声を聞いているせいか、初めて会った気がしない。


絵姿では伯爵家令嬢らしく、すまして座っていた。


だからベットに乗って仁王立ちをして叱りつけてくるとは思わなかった。


10歳は思えないほどの凛とした表情で、


「見た目だけで判断される悔しさは、あなたが一番わかっているでしょう。」


その通りだ、こんな眼に生まれてこなければよかったとずっと思っていた。でも世の中にはどうしようもできない事があるんだ。


彼女の素晴らしい才能も子供だからと言う理由で受け入れられなかっただろう。それでも、彼女は自分の努力で自分の才能を大人たちに受け入れてもらったのだ。さっきの医者だってそうだ。


俺は恥ずかしくなった。

5歳も下の女の子に、薬が嫌だとわがままを言って。


そして、違う感情も出て来た。


毎晩の様にエバンが聞いている魔道メールの声の主に、部屋にある無数の絵姿に写るこの子に幻滅されたくない、もっとかっこいい所を見せたいって。


そうしてアリシアは俺の初恋の子になった。




エバンは妹が中心の世界で生きています。


初めての投稿なので短編にするつもりが、10話になってしまったので、後半は週末に投稿します。

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