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絆再結集!そして初仕事

 黒鉄の塔の影が、夕陽に黒く伸びる。


 翔真はトラル王都から空間転移を使いマステルにやって来た。


 空気は金属の匂いと草の匂いが混ざり合い、僕の胸の奥をくすぐった。


 懐かしいな。マステル。


「遅かったじゃないの?」

「本当本当」


 振り返ると、そこにはイリーナとオルガが立っていた。


 服装は以前とは別世界――未来的なラインと機能美を備えた装束が、二人の身体に馴染んでいる。


 イリーナの瞳は以前より鋭く澄み、オルガは相変わらずのどや顔で胸を張っている。


 僕は一度息を吐いた。懐かしいやら、誇らしいやら、ちょっとだけ気恥ずかしいやら。


「よく──俺が来るって分かったな」

「当たり前よ。セレーネ師匠にかなり鍛えられたからね」


 イリーナは軽く微笑む。だが、その笑みの裏で、空気が静かに震えるのを僕は感じた。


「アイシェは?」

「んふふ──」


 その問いに合わせるように、空から一枚の紙がひらりと舞い、ページめくるトリックのように折りたたまれた紙の間から、アイシェがするすると現れた。


 まるで前世のマジシャンの如く、彼女はにこやかにひねり手を振る。


「やっほぉ、久しぶり翔真!!」


「おまえまでカッコつけるなよ」


 四人、再会の瞬間、時間が滑らかに伸びる。言葉は少なくていい。


 目線、呼吸、肩越しの小さな身振りが五年間を一瞬で埋める。


 ──で、話を聞いてわかった。


 三人とも、とんでもなく成長していた。



 ──

 イリーナは「観測機関の支配者」というコードネームがふさわしいほどの変貌を遂げていた。


 彼女が片手を掲げるだけで、空気の時間が微かにずれる。


 秒針の刻みが遅くなり、僕のまばたきが勝手に遅延する。世界の時間を弄るという感触が、皮膚の下で確かな実感となって返ってきた。


 イリーナはにやりと笑って見せる。


「ちょっと試してみる?」


 言葉は冗談めいているが、彼女の指先から漏れる波動は、冷静で確実だ。


 瞬間、僕の視界の端に並んだ過去の選択肢が滲み、分岐の可能性が薄くなっていく。


 相手の行動が起こる前にすでに封じられる――それを目の当たりにして、俺はただ喉の奥が熱くなった。



 ──

 アイシェは笑いながら、周囲の影を掴む。

 彼女の掌からするすると影が這い出し、薄闇の中に小さな兵団が現れる。


 だが、それは単なる影ではない。影は瞬時に具現化し、僕の靴の紐の結び目をほどく細工をしたかと思えば、次の瞬間には床に延びた罠を作り上げていた。


 彼女の能力は欺瞞と観察の極致だ。誰も、本体がどこにあるのか確信できない。


 ──

 オルガはにやにやと腕を組み、周囲にふわりと何かをイメージする。すると、世界の端っこから彼の発想が具現化する。


 小さな機械、奇妙な塔、空間に文字列が浮かび上がる――それは即席の兵装だ。


 彼の能力はまさに「空想具現」。


 思いついた瞬間にそれが現れる。理屈を超えた暴力的な創造力が、軽く振るっただけで戦場を大きく塗り替える。

 ──




 俺は3人を交互に見た。胸の奥が、言いようのない誇りで満たされる。


「……、すごいな。皆、本気で成長してる」


 オルガは胸元を叩いて「当たり前だろ」と言い、イリーナは淡く笑い、アイシェは紙吹雪を巻き起こしてから肩をすくめた。


 言葉にならない感情が、体の芯を温める。


 俺は知っている。仲間が強くなることほど、安心を与えてくれるものはない。


 特にこの世界では。


「戻るタイミングは良かったよ。そろそろ連れ戻す頃合いだ」


 僕は向こう側の未来を見据えるように言う。三人の顔が瞬間、引き締まる。


「早速だが、仕事がある」


 短く、けれど確固たる宣言だった。風が黒鉄の塔を撫で、四人の影が長く伸びる。


 夕陽は彼らの背に黄金を差し込み、世界はまた少し、変わらなければならないと囁いた。


 俺は心の奥で、静かに決める。仲間を連れていく。


 これから来る嵐に、三人の能力が必要だ。


「行くか」

「行こうぜ!」


 そう言って、僕たちは黒鉄の塔を背に歩き出した。夜は長い。


 世界はやっぱりめんどくさく、だから面白い──そんな確信が、僕の中で静かに膨らんでいった。



 ──


 トラル王都。


 路地裏の空気は、屋根の影に溶けるように濃厚だった。


 月明かりがすき間から差すだけの狭い広場に、三人の元暗殺者――短剣、火薬玉、毒針――と、イリーナ、アイシェ、オルガ、そしてナイトが並ぶ。


 彼らの表情は緊張と決意で固く、呼吸は静かに揃っている。


 イリーナが地図を広げ、指先で一点を示す。


「ここね。倉庫の帳簿と、夜の私室での録音を同時に押さえる。オルガ君は正面で演出を、とにかく人目を引く偽の混乱を作って。その間にアイシェちゃんが潜入。短剣たちは裏口を固めてちょうだい」


 アイシェは薄く笑って言う。


「擬態は完了。倉庫の見張りを一瞬で消えるようにしておく。奴らの金目の証拠だけを持ち帰る。心配いらない」


 短剣が軽くナイフの柄に触れ、低い声で答える。


「約束通りだ。今日で奴らの財布も血汗涙以外、空っぽになる」


 ナイトは無言で鎖を指で弄り、機械じみた精度で動きを確認する。


 オルガは既に簡易装置を弄り、周辺の照明を微妙に操作する装置を仕込んでいる。


 路地裏の温度が一段と下がるように感じられた。


 広場の向こうの大通りでは、まだ王城から戻った貴族たちの笑い声が残っている。


 だが、その笑いはもうすぐ終わりを迎える。


 ⸻


 翔真は王と向かい合って椅子に座っていた。


 トラル王の瞳がやわらかく揺れ、酒の香りがほのかに漂う。


 翔真は静かに地図を胸に抱くようにして、短く報告した。


「陛下、心配は要りません。二日も経たずに安定します。民の声は届き、腐敗は陽の下に晒されます。王国は強くなるでしょう」


 トラル王は笑い、しかしその眼には覚悟があった。


「お前は本当に、我が国を助けてくれる。だが、無駄な犠牲は避けてほしい」


「約束します。暴力は最小限に。だが、正義は示します」


 翔真の声に王は力なく頭を下げた。


「頼む」とだけ呟く。


 王の背後で、国旗が静かに揺れた。


 ──その時、王城の守衛から一報。


 翔真は目を閉じる。


 路地裏のチームが動いた知らせだ。


 翔真は静かに椅子を立つ。


「では、行きましょう」


 ⸻


 夜が割れるかのように、作戦は連鎖した。アイシェが変幻の影となり、倉庫の見張りの視界を撹乱する。


 短剣と毒針は屋敷裏口の通報器と扉を無音で制圧し、火薬玉は煙幕と小爆破で注意を引く。オルガは慌てた群衆役を演じ、通りに流れる噂を人工的に作り出す。


 イリーナは全体の時機を緻密に計り、必要な瞬間に証拠を「曝露」する。


 証拠は紙切れひとつ、耳に入った会話の録音、帳簿の写し、汚れた供物の受領書——どれも決定的だった。


 貴族の名が列挙され、鍵となる帳簿が公的な包袋に封じられる。


 ナイトは物理的な証拠と人の流れを封鎖し、逃走ルートを先回りして閉じた。


 朝が来る前、裁判所の執務官が駆け込み、王の御前で貴族たちが引きずり出される。王城の弁護士と翔真のチームが現場証拠を一つずつ提示する


 ——鑑定、履歴、金の流れ。民衆の耳に届くように、新聞屋が噂を撒き、噂は瞬く間に街を駆け巡る。


「不当な分配」「横領」「賄賂」——三行の見出しが、王城の広場に杭のように突き立つ。貴族たちは驚愕し、言い訳を探す暇もなく、王は毅然とした態度で裁きを宣言した。


 公開の場での迅速な手続き。だが、翔真はそこにも計算があった。


 彼は民衆に対して配給を約束し、すぐに実務部隊を動かして食料と金銭の一時補填を行わせる。


 オルガ手配の輸送隊が倉庫を開き、缶詰や穀物が民衆に配られる。これで「暴露=飢餓」の最悪の連鎖を断つ。見せしめではなく、再生の第一歩だ。


 ⸻


 公判はスピードを持って進む。証拠は揺るがず、貴族とその関係者たちは次々と裁かれた。


 王は不正を許さない姿勢を示し、だが同時に長年の制度の穴を認める声明を出す。


 翔真の案に沿った暫定的な再配分策と、旅師ギルドを介した透明監査の導入が即座に承認される。


 民衆は驚きと安堵で囁き合い、路地裏からはほのかな希望が芽生えた。


 路地裏の密会にいた全員が、朝日を浴びてゆっくりと顔を上げる。


 短剣は血のにおいを払い、毒針は鎖を外されて深呼吸し、火薬玉は手をポケットに突っ込んで笑った。


 イリーナは端正に微笑み、アイシェは袖を直す。オルガはヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめる。

 ナイトはただ静かに、人間らしい温度を宿していた。


 翔真は王と並び、庶民の列に目をやる。人々の顔は疲れているが、今朝は少しだけ色が違う。


 彼らからの「ありがとう」は、どんな勲章よりも重かった。


 トラル王は低く頭を下げ、しかしその目には確固たる決意が宿る。


「翔真よ、汝の力は国を救った。だが、我の目を光らせることも忘れぬであれ」


 翔真は静かに答えた。


「約束します。このトラル王国だけでなく、世界全体を必ず良い方向に変えていきます」


 夜が明け、街は新しい日常へと歩き出す。だが翔真の胸の奥には、まだ幾つもの影が潜んでいた。


 ——完全な解決ではない。


 腐敗の根は深く、種はまだ土の下で生きている。


 しかし、今はひとつの夜明けを迎えたのだ。


 路地裏の仲間たちが集い、翔真は小さく笑った。


 ほろ苦く、しかし確かな余韻が胸に残る。


 彼らの仕事は終わらない。


 だが、今日は祝える。


「よし、次の準備に入ろうか」オルガがすでに指示を出す。


「任せなさい、私たちの仕事はまだ続くわ」アイシェが返す。


 翔真は夜明けの光を受け、遠くを見る。街の向こうには、不穏な風がまだ吹いている。


 だが仲間がいる。策がある。歩みは止まらない。


 ──非常識なやり方かもしれない。


 だが、今この世界には、非常識が必要なのだ。



 ──


 王都での騒動を収めたあと、俺は仲間たちを呼び寄せ、別れを告げる時を作った。


 イリーナ、オルガ、アイシェ──彼らの顔は晴れやかだが、どこか寂しげだった。


「流石にアゼルの実家に帰らせてやらないとマズイよな」


 俺は少し肩を竦めながら言った。


「それに……お前ら、まだ学生だっただろ」


 イリーナは頬を膨らませる。


「修行は大事だったけど、学園の課題が山積みになってるのよね」


 アイシェも苦笑いしながら頷いた。


「戻ったら、また先生に説教されちゃうわ」


 オルガは腕を組んで、むすっとした表情。


「まあ、俺くらいになると何とかなるけどな」


 ──全然何とかならなさそうな顔だ。


 そんな彼らを見渡して、イリーナがぽつりと聞いてきた。


「翔真はどうするの?」


 俺は少しだけ空を仰いでから、言葉を返す。


「俺?賢者になるために、絶の試験を受けにセントラまで行くよ。君らは、かなり成長したけど、まだ旅師登録してないからな。ここで一区切りだ」


「えぇ〜っ!一緒に行きたかった〜!」

「久しぶりに会ったと思ったのに〜!」

「ケチ!」


 三人が同時に口を尖らせる。


 俺は思わず吹き出した。


「お前らは子供か」


 けれど、その笑いの裏に、少しだけ寂しさを隠したのは──俺の方だったのかもしれない。


「着いてきたかったら明日にでもアゼルで旅師登録して着いて来なさい。

 久しぶりの再会だし、しばらく王都観光しようぜ」


 みんなの表情が晴れやかになる。


 ──これでいい

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