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崩落の騎士①


 危険地帯リタンに続く山道を馬で駆け巡る。


 森の木々は風にざわめき、遠くで小動物が逃げ惑う音がする。


「アステリアさん、馬はここに置いておきましょう。ここからは歩きでリタンまで行きましょう」


 2人は馬を太い木の枝に手網を括り付け、地面に足をつき、歩き出す。


「私もそう思っていたわ。なんだか、嫌な予感がするもの」


「同じくです」


 二人は馬を残し、足元の土を踏みしめながら歩き始めた。


 時折、山道の脇にある苔むした石碑や崩れた壁が、長い歴史と静寂を感じさせる。


 しばらく歩くと、視界が開け、リタンの街並みが遠くに見えてきた。


 しかしその景色は、予想とは違った。


「無いですね」


「異端者も居ない」


 街の入り口に広がる光景は、まるで土砂崩れの跡のように無秩序で荒れ果てている。


 瓦礫や崩れた建物が無造作に転がり、かつての街の形跡はかろうじて残るだけ。


 風に舞う砂塵が、二人の顔に当たり、耳を刺すように冷たい。


 何もいない──はずなのに、妙な気配が森の奥から、瓦礫の向こうから、絶えず漂ってくる。


「……嫌な予感、的中かもしれませんね」


 アステリアの声が低く震える。


 翔真も同じ感覚を共有していた。


 静寂の奥に潜む、異常な存在の予兆を、二人は肌で感じ取っていた。


 ──俺はほんの微弱な衝撃波を感じ取った。


 その波動は、人間の体が通常受け切れる範囲を明らかに超えていた。


 咄嗟に判断し、空間転移の力でアステリアを、さっきの星詠の堂の中心に送り込む。



 ──



「え……?」


 膝をついた冷たい石の地面に、アステリアの体が軽く衝撃を受ける。


 周囲を見渡すと、木の台に整然と並べられた天文

 観測器、精密に描かれた宇宙のドーム型天井。


 微かに香るキャンドルの匂いが、無意識の緊張をさらに引き立てる。


 心臓が高鳴り、額に汗が浮く。


 全身に輪郭の緊張が走る。


 ──なぜ、私はここに戻ってきているのか?


 ──何が起こったの?


 ──翔真君は……?


 自問自答が頭の中でぐるぐると回る。


 目の前の光景に、感覚に、脳が追いつけない。


 それでも、足は動かず、声は震え、身体は冷たい石に膝を突いたまま固まっていた。


 ──居ない、居ない、居ない……!!!


「翔真君!!!」


 叫び声が堂内に響き渡る。


 驚き、焦り、苛立ち、そして問いかけが渾然一体となった声。


 彼女の胸の奥にある――守られたことへのもどかしさ、信頼と責任感の葛藤、恐怖と緊張の渦が、一度に噴き出していた。


「なんで……?私じゃ、いけなかったの?」


 その震える声には、ただ恐怖しているだけではない。


 自分の力で何とかしたいという願い、守ることを望むプライド、そして守られたことへの複雑な感情が、折り重なって滲んでいた。



 ──



 俺は、遠くにいる彼女の声と心の声まで鮮明に感じ取った。


 その責任がある。


「ごめん、アステリアさん。コレは俺《人外》じゃないとダメだ」



 ──始まった



 森の静寂を切り裂くように、大地が突如として呻き始める。


 バキバキッ──石畳が裂け、土と岩が獣の背中のようにうねり、波打つ。


「なっ──!?」


 声より早く、足元の大地が狂ったように跳ね上がる。


 轟音が空を裂き、土と石が爆ぜ、樹木が根ごと吹き飛ぶ。


 宙に舞う瓦礫の雨が森を蹂躙し、動物たちは無慈悲な悲鳴をあげ、自然の肥やしとなる。


 そして、俺は強い衝撃で身体ごと、空へ叩き上げられる。


 視界が反転し、顔に雲の冷気が触れるほどの高度。


 地面はもはや遥か下、リタン残骸も森も、一瞬で小さく沈む。


「ぐっ──!」


 息を呑む間もなく、宙に影がせり上がる。


 そしてそれは現れた。




 ──砕け散る瓦礫を纏い、全身を崩れ落ちる城壁のような装甲で覆われた騎士。




「崩落の騎士だな」


 アトラーは少し間を置き、冷静に続けた。


「まず、見た目だが、鎧の内側は完全に空洞だ。崩れ落ちる瓦礫のような体を持っている」


「攻撃に関しては剣を振るだけで、衝撃波が発生する。壁や地面を容赦なく砕き、足場を一瞬で消し去る力を持っている」


象徴シンボルは、タワーの尖兵。つまり、足場を切り崩す存在だ」



 アトラーの声が鋭くなる。



「簡単に言えば、戦うだけで戦場全体を地獄に変える存在──それが崩落の騎士だ」



「流石アトラー!情報ありがとう!」



 呼吸も会話もなく、ただ破壊の衝動だけを宿す。


 理性の欠片もなく、空中で剣を振るう度、衝撃が空気を裂き、瓦礫の嵐が全方位に炸裂する。


 雲は裂け、風が狂ったように巻き上がる。


 翔真の身体は無重力に浮き、瓦礫の雨を受け、宙で翻弄される。


 空気の振動が骨を震わせ、耳鳴りが頭蓋を叩く。


 それはまるでヘビメタの爆音が全身を貫くかのようだ。


 ──逃げ場はない。逃げても追いつく。


 空は砕け散る瓦礫の墓場。


 戦いは、空中で、瓦礫と共鳴しながら──まさに狂気そのものだった。


 瓦礫の装甲の下に潜むその存在は、理性という概念を完全に超越している。


 振るう剣も、跳ね上がる衝撃も、もはや意思というより必然だ。


 まるで世界の破壊法則そのものが、空中に具現化したかのようだった。


 ──ここで臆せず立ち向かわねば、全てが吹き飛ばされる。


 翔真の身体が宙に漂う中、心臓が叫ぶ。


 視界に映る崩落の騎士は、ただの敵ではない。


 俺は宙に浮かび、まるで無重力空間で遊ぶかのように身をひねると、崩落の騎士は怒涛の蹴りを突き上げる。


 その衝撃は人間の体なら冗談抜きで粉砕されるレベル。


 背骨も細胞も、トンネルを作るように裂かれ、まるでロケットブースターの噴煙が体を貫くかのような激烈さ。


 しかし俺は冷静だった。


「──俺も君と同じで、生きた屍なんだ」


 意識と魂を研ぎ澄まし、空間の揺らぎを読み取る。


 次の攻撃が降り注ぐ瞬間──衝撃波の波形を正確に捉え、カウンターのタイミングに合わせて返す。


 瓦礫と衝撃の渦の中で、俺の手から放たれた波動が騎士の攻撃を弾き返し、ぶつかり合う衝撃で空気が裂ける。


 理性ではなく、反射と感覚、そして魂の共鳴だけが、俺と騎士を繋ぐ。


 ──同じ異質な存在として、己の力を測る相手だと瞬時に悟った。


 そして、この空中戦の狂気の中、ふと頭をよぎった。


 ──果たして、この戦いに終わりはあるのか?と。


 0.0何秒──その一瞬の思考の隙を突き、崩落の騎士は剣を抜いた。


 剣が空気を裂き、振り下ろされるたび、ミサイルのように爆裂的な衝撃が放たれる。


 俺は血を剣に変え、鋭く振るう。


 衝撃は体のあらゆる組織を押し潰そうとするが、俺は波動でそれを弾き返す。


 理解した。こいつには中身がない。魂も理性もなく、ただ命じられるままに破壊を繰り返す。


 生きているようで、生きていない──操られた存在、塔の手先に過ぎない。


 だが、だからこそ俺は──


 意識と魂を集中させ、この無慈悲な追撃を相殺する。


 空中に漂う瓦礫や地面の破片すら、戦場の一部として利用する。


 ──俺は叫ぶ。


「縁って凄いや。お前は俺が奪う!!それまで遊ぼう!!」


 感情のない、純粋な破壊衝動の戦いが始まる。


 崩落の騎士は無言で剣を振り下ろし、瓦礫と土砂を空中に叩き上げる。


 ──


 月と星、そして五星が、二人を静かに見つめる。


 その視線の下、衝撃波は地上にも容赦なく伝わり、森も無残に粉砕されていく。


 地形はもう、もはや土と埃の渦に変わるほどだ。


 空中戦は完全に理性を離れ、ただ「奪う」ための舞踏となった。


 音もなく、悲鳴もなく、ただ振動と破片が舞うのみ。


 ──この狂気の戦場で、俺の狙いはひとつ。

 塔の手の尖兵を、俺の手中に収めることだけだ。

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