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蒼碧に散った物語

 あぁ、これでよかったんだ。これ以上あなたに迷惑をかけるわけにはいかないんだ…

 こんな汚れた世界じゃなくても、こんな自分じゃなくても…ある、ならば…地獄か来世でまた会いたいな。

 そうして私は星空を見つめながら思い出す。⸻あの人の笑顔を。

 


 私たちはこの国で男女の双子として産まれた。(らん)とはとても仲が良く、毎日のように遊んでいた。

 「来年からは学校に行ってお勉強をしたり、たくさんのお友達もできるんだよ!」

 そう両親は言っていた。

 私はとても楽しみで、早く七歳にならないかなとワクワクしていた。

 でも、学校に行くことは叶わなかった。

 

 武器を持った知らない人たちが家に入ってきた瞬間から、私たちの当たり前は崩れてしまった。

 気づけば冷たくなった両親が床に倒れている。

 自分の息が荒くなるのに気づかないまま、私たちはその人たちに連れて行かれた。

 他国との戦争が始まり、何らかの形で巻き込まれたらしい。

「来年になったら学校に行けるよね?切り紙もまた母さんから教えてもらえるよね?」

「大丈夫だよ!お勉強もたくさんして、切り紙もみんなにあげて、笑顔にして人気者になろ!」

 私は狭い檻で安心するために、とにかく藍に話しかけていた。


 数日後、私たちはこの檻から出され、また知らない場所に連れて行かれた。

 そこには鎖で繋がれた見たこともない大きな生き物が二匹、唸って待っていた。

 私と藍はその圧倒的な存在感を目の前に、声も出ないまま恐怖で震えていた。

「この水龍たちは君たちと同じ双子なんだ。きっと仲良くできる。」

 白い服を着た人が不適な笑みを浮かべながら言った。

 そして、その瞬間から私たちの地獄の日々が始まった。


 道具がたくさん並ぶ場所に連れて行かれては体をいじられ、狭い檻に戻されては勉強を強いられる毎日だった。

 最初こそお互いに笑顔で励まし合っていたが、そんな余裕も消えていつの日か私たちはこの生活(ぜつぼう)に慣れてしまっていた。

 私が来年から楽しみにしていたお勉強ってこんなに嫌なものだったの?

 こんなに狭い場所で二人だけでやるものなの?

 そのうち、行ったこともない学校は辛いものだったんだと思い込むようになり、学校について教えてくれた両親を信用できなくなってしまった。

 

 この生活が繰り返されて、10年が経った頃も私たちは当たり前のように連れて行かれるのを待っていた。

 でも、その日はいつもと違った。

 警報音、怒鳴り声、銃声………とにかく騒がしかった。

 そして、迎えにきたのは武装した民間人だった。

 その時藍はまるで希望を見つけたような、これからの居場所に期待をしているような目をして泣いていた。

 私はまた訪れるかもしれない地獄の日々を想像して泣いていた。

 自分は、自分の性別がわからなくなっていた。一人称すらどうすればいいかわからなかった。

 何もわからない僕はこの先に居場所があるんだろうか?

 そして私たちは外に出て、教えてもらった施設で過ごすことになった。


 そこには、本当に僕たちの居場所はなかった。

 自分たちは施設の人たちから差別を受けたのだ。

 特に性別がわからない私は酷くいじめられた。

「本当は嘘ついてんじゃないの?どうせそんな可哀想な自分が可愛いとか思ってるんでしょ。」

「気味が悪いな。人体実験を受けて性別がわからないだなんて、お前は片割れよりも化け物だな。」

「まだここにいたのか、さっさと死んでくれんかな。その方が国のためにもなるのになぁ。」

 たくさんの罵倒、暴力を受け、何をやっても否定される毎日。

 そんな自分を藍は助けてくれなかった。きっと怖かったんだろう。

 僕はそんな藍を憎んだこともあったし、自殺する方法もたくさん考えた。

 「自分って誰だっけ。」

 気づけば考えることすら嫌になり、喋る気力も無くなっていた。

 

 月日が流れ、十八歳になった私たちは施設を出た。

 藍は新しい家で私に滞在するように言い、仕事を探していた。

 自分は時々、藍に嫌われて突き放される夢を見た。

 それは私にとって一番怖いことだった。起きたらひとりぼっちになっているんじゃないかと。

 だから、僕は悪夢を見るたびに藍にしがみついて泣いていた。

 藍はいつも笑顔で話しかけてくれた。

 でもそれは、私を心配させないように自分を隠そうとしているような笑顔だった。

 

 しばらくして藍は仕事が見つかったと嬉しそうに報告してくれた。

 藍は普通の事務作業だと言っていた。

 最初は僕もそう思っていたけど、何かがおかしかった。

 帰ってくるたびに藍が何か、だんだんと壊れていくような…そんな感じがした。

 

 ある夜のことだった。

 その日はうまく寝付けず、深夜に目が覚めてしまった。

 すると、隣で声が聞こえてきた。

 藍が、あの藍が…泣いていた。

「まただぁ…また、人を殺したんだっ…!!ごめん゙っ、ごめん゙なさい゙ぃ!!!あ゙ぁぁぁぁっ………」

 藍は静かに、うめくように言っていた。

 私は寝たふりをしながら聞いていて、藍の仕事が殺しだということを知った。

 

 次の日も藍は何事もなかったかのように微笑みかけて出かけて行った。

 自分は昨日のことが忘れられなかった。

 まさか私を支えるために殺しをしていたなんて思っていなかったからだ。

 こんなに考え事をしたのはいつぶりだろう。

 せめて、せめて私が頑張らないと…でも、私にできることが…?

 笑うことは、できない。喋ることも…いや、ダメだ!何か探すんだ!!

 そう考えていた時、紙が目に入った。

『切り紙もみんなにあげて、笑顔にして人気者になろ!』

 ふと、昔藍が言ってくれた言葉がよみがえった。

 切り紙でも、藍は喜んでくれるだろうか…

 気づけば私は紙に花を描いていた。切り取るにはハサミがいるがなかったので千切るしかなかった

 それに、久しぶりだったから何回も失敗を繰り返してしまった。

 そして満足するほど綺麗に花を作ることができた頃には、藍が帰ってきており私の様子に驚いていた。

 僕は作るのに夢中になっていて、どう渡すか考えていなかった。

 だから僕は出まかせで、

「ありがとう」と言ってしまった。

 喋ることができた驚きと同時に、藍は私を抱きしめて泣いていた。

 笑うことはできなかったけど、自分も心の底から嬉しかった。


 次の日、藍は僕のためにハサミを買ってきてくれた。

 私はそれを使って毎日のように切り絵をしては藍に渡していた。


 そして二十歳になる頃には、私は自分の考えを藍に伝えられるほどに回復した。

 それでも笑うことはできなかったけど、幸せだった。

 こんな毎日がずっと続いて欲しいとも願っていた。

 

 生活が安定した頃、藍は私たちについて調べてくれたことを教えてくれた。

 そうか、私たちはやっぱり人間じゃないんだな。

 そう思ってしまったのと同時に、いつかこの力で藍を守りたいとも思った。

 

 それから同じような日々を繰り返していたある日、藍が「旅行に行こう」と言った。

 僕は戸惑ったけど、それに承諾してすぐに家を出ることにした。

「どこに行くの?」

「海に行くよ!夕日が綺麗なんだ〜!」

 そう答えて笑っていたけれど、その笑顔は本心を隠しているようだった。

 それは、日が進むにつれて怯えているようにも見えた。

 私たちは周りを確認しながら隠れるように進んでいる。

 もしかしたら…と私は一つの可能性について考えていた。

 

 そして、数週間の移動の果てに私たちは海にたどり着いた。

 船を目の前にした時、藍はとても焦った様子で僕に海へ出てもらうように説得しようとしていた。

 藍が言葉に詰まった瞬間、銃声が聞こえた。

 そこで私は確信したのと同時に、ある決心をした。

「本当は白衡に追われていたの知ってたよ。一緒に逃げても生き残れないよね。」

 そう言って私はあのハサミで自分の髪の毛を切った。

「何…してるの?」

 藍は震えた声でそう聞いた。

 もう会うことはできないだろう。

 それでも、藍には私の事を忘れないでいてほしい。

 私はハサミを渡しながら、最後の言葉を伝えた。

「二卵性だけど似てるから大丈夫。ハサミをくれたこと、嬉しかった。藍の優しさが暖かかった。本当にありがとう。また、会えるなら…会えるなら今度は私が藍を支えるよ!」

 私はそう言って藍を海へ突き飛ばした。

 そして、振り返ると白衡の軍たちが銃口を向けていた。

赫衡(かくこう)の被験者である藍だな。戦争は終わったんだ、この国のために排除させてもらう。」

「そうだね、僕が藍だよ。戦争が終わったかは知らんが、殺されるぐらいなら最期に暴れてやるよ。」

 白衡の一人が引き金を引こうとした瞬間、

「ちょっと待て。」

 軍の後ろからそう声が聞こえた。

 そこには軍に似合わない和風なメイド服を着て、大きな刃物のような武器を持った男か女かわからない人が立っていた。

「あなたは水龍の力を持っているんだったな、最期に暴れたいなら私が相手になろう。」

 その人はそう勝負を仕掛けてきた。

「いいけど、お前は本当に白衡か?そんな動きづらい服で僕に挑もうとしてるんですか?」

「まさかそんなに心配されちゃうとは。安心しなさい、これでも幹部だ。」

 まさか幹部が来るほどの事態だったのか?

 でも、いいや。どうせ死ぬんだから思う存分暴れよう。

 夕日を背に、僕とその人との勝負が始まった。


 そしてあたりが完全に暗くなる頃...私は理性が戻り、完全に力尽きて仰向けになっていた。

「早かったなぁ、負けちゃったか。」

 出血がひどい、時間が経てば勝手に死ぬだろう。

「こんな力を持っていれば勝負する前に逃げれただろうに、どうして逃げなかった?」

 怪我がほとんど見当たらない白衡の幹部はそう静かに聞いてきた。

「大切な人がいたんだぁ、これ以上迷惑かけるわけにはいかないんだ…」

 敵なのにどうして答えてしまうんだろうか?

「じゃあ本当の名前を聞いていいか?藍じゃないだろ。大丈夫だ、君のことは藍として上に報告しておくから。」

 そうかぁ、この人は気味悪がってすぐに殺そうとしなかった。

 最期に暴れてやるという願いをそのまま受け止め、私が力尽きるまで相手をしてくれた。

「私の名前は、(みどり)。藍のことが大好きなんだぁ。」

 その瞬間、その人はそっと微笑んだ。

「教えてくれてありがとう。ゆっくりおやすみ。」

 私は笑顔でその人の言葉を聞き、自分の物語を終えた。



今回は碧の視点で作らせていただきました。

同じような話を別の視点で作ることは難しかったので、あまり綺麗な文章ではなかったかもしれません。

次は変わってまた新しい視点で作りたいと思っております。


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