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005 ファインド、ファニーニッチ(2)

■ケンシネコ(剣歯猫:Sabretooth cat)


 氷河期の終焉とともに、大東島以外の地域では絶滅したサーベルタイガーから進化した。

 直接的な祖先はスミロドンとみられている。

 大東に至ったスミロドンは、生物学上では珍しく、新大陸から旧大陸へと渡った種が存在する事を示している。

 

 体長約1.8m(尻尾含まず)。

 20cmもある鋭い牙を2本有し、牙の後縁は食事用ナイフのようにギザギザした形状である。

 これは、獲物の肉に牙を食い込ませるのに適応した結果である。

 

 素早く動き回るシカ、トナカイ、隠鼠人などを主な捕食対象としていたため、スミロドンに比べて前足が短くなっており、走行に適した体型をしている。

 同時に走行速度を上げるためにスミロドンに比べ体重は3割程度少ない。(130~200kg程度)

 新大東州北部の厳しい環境に耐えるために体毛の密度は濃く、縄文人は防寒着として剣歯猫の毛皮を利用していた。

 

 かつては旧大東州にも剣歯猫の亜種が生息していたが、社会性に劣ったため縄文人に狩られ、およそ5000年前に絶滅した。

 

 現生剣歯猫は群れで行動する性質があり、知能は高い。

 繭村式知能検査によると、他人性・社会性・自己認識性において4.5ポイントの成績をあげる個体もおり、これは霊長類のボノボの数値を超える。

 

 クジラやイルカに次ぐ知能指数だが、海生生物が人類とはかけ離れた知能形態を有する生物種である点を考慮すれば、剣歯猫は高等霊長類や象と並んで人類に最も近い知能を有する陸生生物種である。

 


 縄文時代中期にはマンモスの絶滅などの影響により個体数は激減していた。

 縄文時代後期以降紀元前1000年頃までは、毛皮と大きな牙が珍重されたが故にヒトに狩られ絶滅寸前に陥った。

 

 肉食性哺乳類は肉に臭気があることが多く、脂肪分が少ないため食用に適さない。

 剣歯猫も食用に適さなかったため、ただ毛皮のためだけに捕獲されてきた。

 

 紀元前1000年頃、採集・採猟を行う縄文人の移動性氏族バンドが剣歯猫を狩猟に同伴させるようになった。

 定住部族社会トライブに移行し、農耕の開始に伴い鼠害が深刻になるまでイエネコの飼育が行われなかった点とは大きな相違である。

 剣歯猫は狩猟採集民にとっての犬と同じ位置づけの益獣だったと言える。

 

 また、弥生時代前期から「戦闘兵器」として注目されるようになり、専門的に戦虎の飼育が行われていた形跡がある。

 

 日本・大東では西暦700年頃から、剣歯猫の優れた知覚力と外見の迫力から、騎馬隊に付属する戦虎として活用されはじめた。

 これと類似する動物兵器として、インドにみられた戦象が挙げられる(剣歯猫に騎乗はできないが)。

 

 日本には騎兵という兵種は存在せず、戦士の身分を示す飾りに過ぎなかった。

 武士たちは弓で武装した弓騎兵として、一族郎党を引き連れて戦いに赴いた。

 大陸の騎兵が機動力を生かした集団突撃戦法を採っていた一方、日本の騎兵は弓矢を用いた一騎打ちが主流であり、この戦法は蒙古襲来まで変化がなかった。

 

 農耕民族である日本人には、馬を大量に飼育する余力がなく、騎兵による集団突撃戦法を運用できるだけの資源もなかった。

 だがそこに、馬を保有して身分を示し、弓によって武芸を見せるという”虚仮脅しドクトリン”の内にこそ戦虎を採用する下地があったと言える。

 

 戦虎匠という職業が誕生し、剣歯猫の飼育と調教に取組んだ。

 戦虎狩りは鷹狩りと並び、武士の実益を兼ねた遊戯として支配階級に広まった。

 

 剣歯猫の保有は一つのステイタスであり、平安時代には位階を授けられた剣歯猫もいた。

 

 15世紀から17世紀にかけては戦闘兵器としても多用され、戦国時代最盛期には1000頭が集中使用された例も見られる。

 

 剣歯猫の飼育は主に給餌の面で困難が付きまとった為、有守州・新大東州での飼育が最も適していた。

 当時の先進地域であった本州西部-九州北部においては、新鮮な肉を常に入手するのは困難であった。

 

 瀬戸内の一部地域では、魚の干物が剣歯猫に与えられていた。

 また餌として与えれば、雑食的な食事でも食べることは可能となるが、その分大量の食事は必要となる。


 14世紀からの地球規模の寒冷化以降、新大東島を中心に牧畜が発達すると、大東島固有種のチャイロオオカミから牛馬・トナカイを護るための”牧畜猫”としての役割が見出された。

 17世紀以降には牧畜の進展に伴い大東産牧畜猫の需要が増加、剣歯猫の個体数も数万頭まで増加した。

 

 その後、大航海時代の中で世界中に紹介され、世界各地に「輸出」されていく事になる。

 現在でも、世界中の動物園の定番猛獣としてよく知られている。

 また現在でも、大東島の一部、北米、豪州など牧畜の盛んな地域の農場主の中には、牧畜猫として用いる者もかなりの数が確認されている。

 

 また、他の猫科の猛獣との交配も一部可能で、一代限りの亜種も存在する。

 

 なお、他の猫科の猛獣としては、かつては虎、豹などかなりの種が生息していたが、山猫の一部を除いて縄文時代に絶滅している。

 

挿絵(By みてみん)


fig.1 剣歯猫



■チャイロオオカミ(Daitou great wolf)


 大東島のみに生息する大型の狼。

 

 一般の狼(灰色または大陸狼の亜種の大東狼)よりも大柄で、その体毛から茶色狼と呼ばれてきた。

 その大きさから恐狼きょうろうと呼ばれることもある。

 

 氷河期の末期に、スミロドンの後を追いかけるように新大陸からやってきたダイアウルフの末裔。

 スミロドン同様に、新大陸から旧大陸へと渡った種が存在する事を示す珍しい事例。


 もともと新大陸のダイアウルフは、スミロドンなどの食べ残した腐肉を食べていた。

 だが、大東に至ると新大陸ほど獲物が多くないスミロドンの末裔の剣歯猫の食べ残しは少なく、また剣歯猫以外に食べ残しをするような肉食動物が少なかったため、自らも積極的に狩猟をするように変化していった。

 

 また、別方向から大東に至った大陸狼と混血化する事で種として大きく変化した。

 さらに島での生活の中で小型化していった。

 このため元のダイアウルフと比べると少し小柄で軽量であり、四肢の形状などもより狩猟向きに進化している。

 また脳幹の発達も見られ、他の狼同様の高い知能を有している。


 変化しても通常の狼よりも大型で、ユーラシア大陸などに住む大陸狼よりも大きく、現在では史上最大の狼となっている。

 主に寒くて人口密度の低い新大東州でのみ生息するが、縄文時代頃は旧大東州にも生息していた。


 人の生存圏の拡大と発展に伴い生存範囲を狭められ、個体数も減る一方となった。

 現在では絶滅危惧種一歩手前で、野生種は北部のツンドラ地帯か針葉樹林帯にしか生息していない。

 


 なお、犬と混ざった亜種も存在しており、橇の犬としても使われる駒城犬はかなりの大型犬である。

 



■アルキナマコ(Walking sea slug)


 大東島にのみ生息する珍しい生物。

 

 古くは「蛭子海鼠エビスナマコ」との名で古事記に記されている生物である。

 

 コナマコの近縁種であるオンナナマコ科に属するアルキナマコは、無脊椎動物だが体壁の内部に石灰質の骨片を棒状に配した体軸を有し、海水から離れて海岸近くの陸上に進出した珍しいナマコである。

 

 比較的寒冷な浅い海の、それも親潮-黒潮境界の栄養豊富な海域付近にしか生息しない。

 全体に肉白色をしており、頂部に鮮紅色の微細な触手(毛髪様触手)を有す。

 陸上では、管足が変形した4本の筋肉肢のうち2本を器用に動かして前進する。

 水中では全長2メートル以上にもなるが、陸上では体内の水分を排出して体長1.3-1.4mほどに縮まり、シリコンゴムほどの硬さになる。

 

 肛門の下20cm程度の部分に、ご飯茶碗程度の大きさで左右対称の体液瘤が隆起し、重力下での血流と酸素交換機能を担っている。

 組織は弾力に富む海綿状組織より成り、アルキナマコの個体により大きさが比較的ばらついている。

 

 消化器官は単純で口から肛門まで直線状につながっている。

 肛門は頂部の毛髪様触手付近に位置し、口は陸上を移動する時に使う管足の股の部分に位置する。

 肛門には肛歯と呼ばれる5本の歯が生えており、かなり硬いものでも齧り取ることができる。

 

 消化管口付近にはキュビエ器官と呼ばれる糸状の器官が格納されており、指で触れると微小な吸盤で吸い付いてくる。

 皮膚呼吸が発達しており、陸上でも体表からある程度の酸素を吸収できる。

 

 毛髪様触手付近には顔様紋と呼ばれるヒトの顔に酷似した模様が見られ、アルキナマコの個体識別を容易にする一因となっている。

 

 1543年に大東島をはじめて訪れたスペイン船サン・ファン・デ・レトランは船上からアルキナマコを観察していて大東島の原住民と誤認し、「その島の原住民は小柄で白人のごとき白い肌を持ち、長い赤髪を頭上にまとめている。

 動きは緩慢にして性質は怠惰である」と報告している。


 1653年、イギリス商船が大東島東岸に寄航した際に2匹のアルキナマコが捕獲され、初めてヨーロッパに持ち帰られた。

 アルキナマコは長時間空気中におかれると休眠状態に入り、数ヶ月は生存できる。

 消化管に若干量のタンパク質を継続的に与えればより長時間生存できる。

 当時オランダと交戦中だったためか、イギリス人はアルキナマコを「オランダ人の妻」と名付け、以後ヨーロッパではこの名称が定着した。


 古くから食用にもされ、乾物として大東、西日本ばかりか、中華地域にまで輸出された。

 しかし個体数が限られているので、昔から現地の領主によって厳しく狩猟制限が行われた。

 また、精力剤として高い効果があるとされ、珍味でもあることから、高級食材、薬として珍重された。

 野生種は狩猟禁止となっているが、現在でも養殖されたアルキナマコが市場で流通している。


 また現在でも日本(大東)一部水族館で展示されているが、野生種は絶滅危惧種で国際条約の保護対象に当たるため、国際的な売買は禁止されている。

 よって日本国内の一部水族館でしか見ることの出来ない希少な生き物と言える。

 


挿絵(By みてみん)



a.毛髪様触手 b.顔様紋 c.肛門

d.体液瘤 e.消化管口 f.管足



fig.2 アルキナマコ (食用目的以外の用法はお控えくださいww)


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