ギルド長ザリオ
その時、近くで「キャーーーーーーっ!!」と悲鳴が上がった。
「なに?」と悲鳴がする方を見てみるとブゥゥゥーーーーーーンと微かに羽音が聞こえる。
「何の音?」とナディアに聞くと「あっあれ!」と上に向かって指さす。
「なんだあれ!!」見上げると、人間よりも巨大なスズメバチが飛んでいる。
「さすが異世界だな」と感心していると・・・いやそんな事を言っている場合じゃない、早く片付けないと、と思いハチを追いかけた。
逃げ惑う町の人々、そんな中で立ち向かおうとする人も何人かいた。
「さすが冒険者だな・・・」
と感心していたが、攻撃しようにも飛び回っているので捉えられないでいた。弓矢を放つ者もいたが、動きが素早く軽くかわされていた。
しかしあんな巨大なハチに追いかけられたら、恐怖でしかないだろう。と言っている間に、怪物バチの射程に入ったようだ。
狙いを定めたようでジっとこちらを見ている、そして凄い勢いでこちらに向かってきた。
近づくにつれ羽音が大きくなるのと同時に風圧も凄かった。
ナディアは、宿に弓を置いてきていたから丸腰だった。なので見守るしかなかった。
「バケモノめ来い!」ノアは身構えた。
巨大バチは明らかに“獲物”だと認定したようで、刺そうと突っ込んできた。
「すぅぅぅ・・・」とゆっくり息を吸い、気合を入れ「はぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」と綺麗に回し蹴りを決めると、バキッ!!と重たく響く音とともに、巨大バチの針が砕け飛んだ。
そしてすかさず大きな目に右ストレートを見舞うと、腕が目の中にめり込んでしまった。
そのまま地面に叩きつけると頭だけが腕に残り、体だけがグシャッと潰れた。
「ふぅぅ・・・」と息を吐き精神を落ち着かせ、ゆっくりと目を開けると、そこには呆気にとられた人々の顔があった。
「えっ?」唖然とするノア。
するとナディアが駆け寄り「凄いよノアさん!」と抱き着いてきた。
その瞬間周りで見ていた人々から「わぁぁぁーーー!!!」と歓声が上がった。
「凄いよあんた!」「メチャクチャかっこいい!」「何者だあんた!」と口々に言っていた。
すると一人の男が近づいて来て「ちょっといいか?」と「私はこの町のギルドの長をやっているザリオという者だ」と言いながら、手を差し出してきた。
--手が汚れてるけどいいのかな。
汚い手を差し出し、軽く握手を交わし「ギルド長さんが私に何か用?」と聞いてみた。
「いやあ先程の君の戦いぶりは素晴らしかった、どこかの町の冒険者なのか?」と聞いてきたので「まだ冒険者にはなっていない」と答えた。
「そうなのか、ならうちのギルドで登録してくれんか」
「いや、冒険者登録はバルデックの町でしたいの。この子と同じ所でしたいんだ」とナディアを指さした。
「そうか、残念だが諦めよう、だが討伐隊にはぜひ参加して欲しい。魔物退治だ」
--討伐隊?魔物退治?これは血が騒ぐ・・・。
「この町に留まる気はないのですが・・・でも、その討伐隊とやらには参加させてもらえませんか?」
「いいのか?」
「私とこのナディアでぜひ参加させてください。この子も相当腕が立つので」
「ならば明日にでもギルドに来てくれ、仮登録をしよう」
「わかりました」
翌日ナディアとともにギルドを訪ねた。
「ここがこの町のギルドか・・・」
石造りの大きな建物だった。屋根は少し丸みを帯びていて、全体的に派手さはない。入口の上にはギルドの紋章が掲げられていた。
中に入ると受付正面にカウンターがあり、左にはいくつかのテーブル席が並び飲食ができるようだ。右の壁にはクエスの掲示板があった。そして中央の広場には長テーブルやベンチなどがあり、全体的に落ち着いた雰囲気だった。
仕事がないのか朝から酒を飲んでいる者もいたり、クエストの掲示板をじっと見つめている者など、中には子連れで来ている冒険者もいた。
ノア達が入って来たのに気づくと「あっ」と声をあげる者が何人かいたから、昨日の騒ぎの場にいたのだろう。
中には「えっあんな女の子が?」と驚く声も聞こえた。
受付に行き、ギルド長に呼ばれて来たと告げると「ハイ聞いてますよ」と少し待つように笑顔で言われた。
「愛想のいいおねーさんだね」とナディアがノアの耳元で囁いた。
10分ほど待たされてギルド長が2階から降りてきた。
「おぉ二人ともよく来てくれた。早速だがまず仮登録を済ませよう」
再び受付カウンターに行き先程のお姉さんが「ではこちらに記入してください」と用紙を出された。
――こっちの世界に来て文字を書いたことが無い・・・。
「えっと・・・」戸惑いながら羽ペンを持つと、不思議だが問題なく文字が書けたので、ちょっとうれしかった。
「書けた!」とうれしそうにナディアに言うと「よかったねぇ~」と満面の笑顔で返された。
――こいつバカにしてやがる!
記入を終えると、ギルド職員から軽く説明を聞き、仮登録証を渡された。
「これで仮登録は完了です」
その時ギルド長のザリオが手招きした。
「じゃあこっちに来てくれ」
とギルド長のザリオに呼ばれ、カウンターの奥の応接室に通された。
中に入ると、そこにはすでに一人の男が座っていた。雰囲気からして冒険者らしい。
「座ってくれ、紹介しよう、こいつは“ブレイヴフォース”というパーティーのリーダーカイだ。今回の討伐隊でもリーダーを任せている」
「カイだ、カイ・クレイバーよろしく」
短く自己紹介を済ませた後、静かに続けた。
「うちのパーティーは俺の他にあと三人がいる」
「このカイは実力も申し分ないが、リーダーとしての信頼も厚い人物なのだよ」
――このブレイヴフォースのリーダーとかいう男は、優しそうな雰囲気だけど、どこか芯の強さを感じる。
ノアはそう思いながら静かに観察していた。
「私はノア、こっちはナディアよろしく。今は二人だけ」
「ブレイヴフォース・・・かっこいい・・」ナディアが呟いた。
「ノアってのか、昨夜のことは聞いたよ、あんた凄いんだってな」
「そんなことないよ普通だよ」ノアは肩をすくめる。
「さて討伐隊の話に戻ろう。出発はあさっての朝だ、準備も必要だろうからな。君たちの他にあと3パーティーが参加する予定だ」
「なるほど、そんなに魔物が多いの?」
「かなりの数の魔物が発生しているようだ。それも凶悪なやつがな」
――そうなのか・・・これは気合を入れないと・・・。
「それとノアよ、これは昨日のナイトスティンガー討伐の報酬だ」
巾着袋に入ったお金を渡された。
「・・・?ナイトスティンガーってなに?」
「お前さんがきのう倒したハチの魔物だ」
「あぁあれね。こんなの出るの?でも、昨日の時点ではまだ登録してないよ」
「何も問題ない。討伐してくれたのはおまえさんなんだから、受け取る権利はある」
「ありがとう遠慮なくもらっとく。これで武器が買える」
「そう言えばあんたあれを素手で倒したらしいな」と身を乗り出し、感心した顔でカイが言う。
「まぁ・・・武器持ってないし・・・」
「えっ!!武器がないから素手でやったのか?とんでもない奴だな」はははと笑っていた。
「とりあえず、顔合わせはみんなが揃った時でいいだろ、じゃあ頼むぞ!」
ギルド長のザリオが言ってお開きとなった。
「それじゃあ」と言って二人は出て行った。
ギルド内を見渡してみると、先ほどよりも冒険者の数が増えていた。
ノアとナディアは注目を集め、居心地の悪さを感じながらギルドを出た。
「なんであんなにジロジロ見るんだ?」
「きっとノアさんが可愛いからよ」とニタっとした。
――やっぱりこいつバカにしているな・・・。




