ミレスタの町
夜が明けて、商人達の隊列はミレスタへ向けて出発した。
「次に行く町は・・・なんだっけ?」ナディアに聞くと「ミレスタだよ」とすぐに答えてくれた。
「そこはどんな町?ギルドとかもあるってリーダーも言ってたよね?」
「そうだね、そこそこ大きな町だよ」
こちらの世界のことがほぼわかってきた。魔物がいて、魔王がいて、剣と魔法があって、冒険者がいる、誰もが知る異世界そのものだ。
「あっ!」思わず声が出てしまった。
「どうしたの?」ナディアが不思議そうな顔でノアを見た。
「わたし、武器が無い」
「えっ?今頃気付いたの?ずっと素手でやり合っていたよね?」
「・・・」
持っている武器といえば、鎌だ。作業で使っていた物を、そのまま持ってきてしまった。でもこの鎌の切れ味は凄かった。あの熊の化け物の首を一撃で落とせるるのだから。
しかし、やはり今後のことを考えると武器らしいものは必要だろう。
町に着いたら武器屋に行ってみようかと思い、ナディアに聞いた。
「次に行く町に武器屋ってあるのかな?」
「うん、あるよ。ギルドがあるから冒険者もたくさんいるしね」
「そうなんだ、じゃあその武器屋に連れてってくれない?」
「いいよ何が欲しいの?」
「剣が欲しい」
陽が暮れ始め空が茜色に染まる頃、ミレスタの町がぼんやりと見えてきた。
「あれがミレスタの町?」
「そうだよ」
町に近づくにつれ、遠くに見えていた町の輪郭がようやくはっきりと形を成す。
石造りの城壁は夕陽に照らされて、ほのかに朱色を帯びている。
城門の前には旅人や商人が列を作り、門番が一人ひとり声をかけていた。
「ふう・・・ようやく着いたね」ナディアが空を見上げる。
沈みゆく太陽が、彼女の髪を淡く照らしていた。
城門を潜ると町の中からは、夕餉を告げる鐘の音がかすかに聞こえてくる。
焼き立てのパンの匂い、香ばしいスープの香りが風に乗って届いた。
ノアの視線の先、門の向こうの広がる通りは活気に満ちていた。
露店が明かりを灯しはじめ、行商人達が荷を下ろし、子供たちが走り回っている。
「ここがミレスタか・・・」
旅に疲れた身体にこの町の温かい空気が心地よく沁みてくる
一日の旅を終えた者たちを、まるで迎え入れてくれるかのようなそんな町だ。
「ほんとに大きな町だね」
「でしょう、この町好きなんだ~」
「バルデックよりも?」
「バルデックはもっと大きな町だよ、でもここはなんとなく落ち着くの」
「そうだね、なんかよさそうな所だね」
どこからともなく空腹を刺激する、よからぬいい匂いが漂ってきた。
「とにかく先に宿を探そう。お腹が空いて我慢できない!」
「商人のみんなはどこに泊まるんだろ?」と思ってリーダーのいる所に行ってみた。
荷物を下ろしたり別の荷物を積み込んだりと、せわしなく動いていた。
「ねえリーダーたちはどこに泊まるの?」
「俺らはリラの宿って所だ」
「リラの宿・・・まだ部屋はあるかなぁ」
「あるんじゃないか?ここは食事も出るからいいぞ」と宿の場所を教えてくれた。
ナディアと宿に向かって歩いていると、前方から見覚えのある男が近づいてきたかと思うと「姐さん!」と声を掛けてきたので、腹にパンチを見舞ってやった。
その男は「うっ!」とその場で蹲っていた.
「ひ、ひどい・・・」と言って。
リラの宿に着いて女将さんに部屋は空いているか聞くと、空いていたようで2泊分の料金を払い、すぐに晩御飯にしてもらった。
夕食を済ませた二人は、少し街を歩いてみることにした。
大通りに出てみると、通りの両側に露店が並び見て回るだけでも楽しかった。
かなりの冒険者も歩いており、とても賑わっていた。
どこからともなくおいしそうないい匂いが漂ってきた。
「なんか食べたいなぁ、ねぇナディア」
「さっき食べたのに、まだ食べるの?」とナディアが呆れ顔で言う。
「いや、デザートっぽいものが食べたいのよ」
「デザートかぁ」
――こっちの世界にそんなものがあるかどうかわからないが、とにかく食べたい!甘い物が。
「甘いものなんかあるのかなぁ・・・」ナディアは露店を眺めながら「さて?」といった顔をしていた。
「もっと奥のほうまで行ってみる?」
「そうだね、色々見てみたいし」
アクセサリーっぽい物やナイフなどの簡単な武具、服など。あとはやっぱり食べ物屋が多い印象だったが、変わったものもあった。魔道具だ、腕輪や指輪、ネックレスタイプのものなどが並べてあった、その中で一つ目に付いた物がある、腕輪だ。
「おじさんこれなんの腕輪?」と銀でできたその腕輪を手に取り聞いてみた。中央に一本の黒いラインが入っていた。
「それはなぁ断罪の腕輪だよ」
「断罪の腕輪?」なんとも恐ろしい名だ。てか、なんの断罪なのだ?
「近くに悪意を持つ存在がいると、わずかに熱を帯びるのさ。悪しき者の前でこいつは嘘をつけないぜ」とドヤ顔で言う。
「へぇおもしろそうだ、いくらなの?」
「300と言いたいところだが、280でいいぜ」
「280リラかぁ・・・」グレタさんの手伝いと選別でもらったお金が1000リラ、行商人の護衛兼便乗でナディアと500リラづつもらったので、金ならある。
「よし!これもらうよ」と代金を渡した。
――まだこのリラって日本円でいくらぐらいなのかが、わかってないんだよな。
「おぉありがとうよ、ついでにこれも持って行きな」と言って渡されたのは、シルバーの鈍い輝きのリングだった。
「これは?」
「魔力反応遮断効果のあるリングだ」
「魔力反応遮断?」
「これを着けてると、魔力の気配が消えるんだよ、だからどんな術師でも魔力を察知するのは難しくなる。ただの一般人としてしか感じないんだ。嬢ちゃんあんた只者じゃないよな」とニヤリとした。
「えっ!?いやぁわたしは普通の女の子ですよ」と笑った。
「まぁいいそういうことにしとおこう」わははははと豪快に笑いながら言った。
「ありがとうおじさん!」
早速、腕輪とリングを着けてみた。
――なかなか似合うじゃないか!フフフ。
「どう?」ナディアに腕を差し出す。
「うん、いいと思うけど」
「ん?けどなに?」
「ほんとにそんな効果があるのかな?と思って、280リラでしょう?」
「高いの?」
「ほんとにさっき言ってたような、効果があるんだったら高くはないよ、でも無かったら・・・んーわかんない」
「まぁいいよ記念品だと思えば」
「記念品にしては高すぎるでしょ!」
二人で腕輪とリングを交互に見ながら「ほんとに効果あるのかなぁ」と呟いた。
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