フウカ
長らくお待たせしてしまって、
申し訳ありません。
翌朝、ノアはギルド長のココネと共に騎士団庁舎にいた。
「どんな感じ?」
騎士団長ゲイルと庁舎の応接室で話を聞いた。
「ああ、すっかりおとなしくなった。覚悟を決めたようだ」
「そう。手筈は?」
「悪い、それはまだ詰めてない。もう少し待ってくれちゃんとしておく」
「わかった。じゃあわたしらは準備しておくから」
「そうしてくれ」
ココネと共にギルドに戻ったノアは、メンバーを集め「近いうちに連邦国を襲撃に行く」と宣言した。
「いよいよだな」ユウトがグッと力を込めて拳を握った。
「うん、連邦国を潰しに行く」
「ところで、我々だけで行くのか?」
「いや、バルデックの騎士団と王都からも来るようだ」
「ノアお姉さま、それはいよいよ本格的な戦争になりますね」
オルフェリアが少し心配そうな表情でノアに言った。
「そうだね、でも大丈夫。わたしは負けないから」
「ああ、俺たち全員でかかれば何も怖くない」
ノアに続いてユウトもオルフェリアに声を掛けた。
メンバーがノアの周りに集まり、全員が頷く。
「うずうずしてきたっす!」
とウキが言うと、
「そうね、いよいよ始まるのね」
「あぁうずうずするぜ!」
とローズスパイラルのメンバーも血気立つ。
「落ち着けお前ら!」
セリナが制する。
「その気持ちわかるよ、わたしも今すぐ飛んで行きたいんだよ。でもまだ準備ができていないんだ」
騎士団では、捕らえた連邦国の指揮官を、スパイとして潜り込ませるための作戦を急いでいた。
「いつ頃準備できそうなんだ?」とセリナが聞いた。
「ちょっと時間は掛かるだろうね」
騎士団が準備中であること、捕らえた指揮官をこちらに取り込んだことなどを話した。
「なるほどな・・・例のあの男だな?」
「そう、あっちへの襲撃の時に手引きしてくれるはずだよ」
「なら、まだ動けないんだな?」
「そういう事。だからそれまで旅の準備をしたり、力を付けたりしていて欲しい」
「了解!」
セリナが力強く頷き、会議室の空気が少しだけ軽くなった。
だが、ノアだけは腕を組んだまま地図を見つめている。
「準備期間があるとはいえ、連邦国は黙っていないはずだ」
ユウトが地図の端を指でなぞる。
「補給路も長くなる。途中で妨害されたら厄介だ」
ゴルドが低く唸った。
「兵站が伸びれば、その分だけ危険も増える」
その時会議室の扉がコンコンコンと叩かれた。
「入るよ」
ギルド長ココネが顔を出した。
「ちょうどいいところだね」
後ろに一人の女が立っている。
黒髪。
無駄のない立ち姿。
黒い瞳が部屋の空気を一瞬で測る。
ざわり、と場の温度が変わる。
ナディアが小声で呟いた。
「・・・綺麗」
ウキが目を丸くする。
「なんか空気がピンとしてるっす」
ココネが腕を組んだ。
「ノア、連れて行ってやってくれ」
「は?」
ノアが眉を上げる。
「今回の遠征、あんたらだけじゃ回らない。兵站、情報整理、補給計算。全部ひっくるめて必要だ」
黒髪の女が一歩前へ出る。
「フウカです」
声は低く落ち着いている。
「東方より参りました。勇者の遠征と聞き、協力を申し出ました」
ユウトの視線が止まる。
勇者と言われても、フウカの表情は変わらない。
ノアがじっと見つめる。
「わたしが勇者だと知ってるの?」
「ええノア殿」
迷いがない。
「東方にも噂は届いております。一撃の必殺剣。そして、連邦国を討たんとする意思」
場が静まり返る。
ノアが問い返す。
「戦えるの?」
「フウカは小さく首を横に振る
「攻めは得意ではありません」
その瞬間、ふわりと空気が翡翠色に歪む。
部屋の隅で崩れかけていた椅子が、倒れる寸前で止まった。
透明な薄膜が、確かにそこにあった。
次の瞬間、消えた。
「守れます」
短い一言。
ゴルドがニヤリと笑う。
「悪くねえ」
ユウトは、ただ見つめている。
ノアは数秒黙ったまま、フウカの目を見返した。
対等な視線。
「わたしを止められる?」
フウカは即答した。
「止める必要があれば」
ココネが口角を上げる。
「決まりだね」
ノアはゆっくりと息を吐いた。
「付いて来て」
フウカは静かに一礼する。
「承知しました、ノア殿」
お読みいただきありがとうございます。




