ネコ探し専門!?
「なんかでかいぞ!」
ユウトが叫ぶ。
黒い影がゆっくりゆっくりこちらへと向かって来る。
ドスン。
またひとつ地面が揺れた。
木々の奥から、黒い巨影がゆっくりと姿を現す。
幹を押しのけるように、枝をへし折りながら前へ出て来たそれは・・・。
「なんじゃこりゃ!でかすぎるだろ!!」
ユウトの声が低く漏れた。
体高は3メートルいや、優に4メートルはある。
全身を覆う黒褐色の毛は、泥と血で固まり、所々が裂けている。
片腕だけが異様に肥大し、岩の塊のような筋肉が隆起していた。
その胸元には爪痕のような古い傷。
だが、塞がったはずの傷口からは、村紗がかった瘴気が薄く立ち上っている。
「グリムベア・・・森の主だ」
セリナが呟く。
グリムベアはゆっくりと首を巡らせ、地面に転がるシャドウウルフの死骸を一瞥した。
そして低く、腹の底から響く咆哮を上げる。
――ゴォォォォォッ!!
空気が震え、木の葉が一斉に舞い上がる。
新人三人の足が思わずすくんだ。
その時、巨体が地面を蹴った。
ドォォォォン!!
信じられない速度で間合いを詰め、肥大した右腕を振り上げる。
「盾構えろ!」
ゴルドが前に出る。
だが、振り下ろされた一撃は、盾ごと彼を吹き飛ばした。
「ゴルド!」
地面を転がりながらも、辛うじて受け身を取る。
だが、盾はひしゃげ、腕が痺れて動かない。
フェリナの矢が放たれる。
ティリアが雷撃魔法を撃つ。
だが、分厚い毛皮と筋肉に弾かれ、わずかに焦げ跡を残すだけだった。
「硬い!」
エルナが歯を食いしばる。
グリムベアの赤く濁った瞳が、ゆっくりとノアを捉えた。
その視線には、本能だけではない。
どこか異様な意思が宿っている。
地面を踏み鳴らし、再び突進の構えをとる。
森の空気が完全に変わった。
ただ、ノアだけをじっと見つめている。
グリムベアが再び地面を蹴る。
巨体とは思えぬ速度で迫り、肥大した右腕を振り上げた。
「エルナ下がれ!!」
だが間に合わない。
振り下ろされる一撃、空気が裂ける音が耳を打つ。
その瞬間、ノアの姿が視界から消えた。
――ヒュンッ
空気を切り裂く音だけが残る。
グリムベアの腕が空中で止まっていた。
だが、次の瞬間右腕は、地面にぼとりと落ちた。
遅れて血が吹き出す。
「はっ?」
誰かが茫然と呟く。
グリムベアは絶叫し暴れようとする。
ノアは大きくジャンプし、体を逸らせて刀を大きく振りかぶり、その巨体の首を目がけ、一気に振り下ろした。
閃光が走り胴体から切り離された頭がドサッと地面に落ち、巨体は仰向けにドォォォォンと地響きを立て倒れた。
地面が揺れ、森が静まり返る。
ノアは背を向けたまま刀を納める。
「今のが本気の敵」
振り返らずに言う。
「覚えておいて」
静寂の中、新人三人はただ立ち尽くしていた。
圧倒的な力、絶望と希望が同時に胸を打つ。
「すごい・・・」 エリナが呟く。
この時、この人にずっとついて行こうと固く心に誓った。
「みんな怪我はない?」
「大丈夫だよぉ~」
ノアの問いかけにリズがおどけて応える。
「もういないかな?」
「たぶんこいつで最後じゃないかな?」
「うん、じゃあ戻ろうか。お腹も空いたし、みんなお疲れー!」
さっきまでの緊張感はどこに行った?少し呆気にとられた三人の新人だった。
ギルドに戻った一行は、ギルド長ココネに報告をした後、ギルド内の食堂に入り、それぞれがカウンターで注文して席についた。
「あぁーお腹空いたぁー」
リズが大きく背伸びをしながら吐いた。
「しかし、こうして見るとうちらも大所帯になったなぁ・・・」
みんなを見てしみじみとノアは言った。
「そうだねぇ、最初はわたしとノアさんの二人で始めたパーティーだもんねぇ」
「そうだよ、ナディアに誘われたんだよ。その後にウキが勝手に付いて来たんだな」
「勝手にってひどいっす!」
プクッとふくれっ面で、思わず大きな声が出た。
「そうなんですね、最初は二人から始まったのですね」
オルフェリアがカウンターからお茶をもらって、ひとつをノアの前に置き自分も座った。
「それがどう?今は何人いる?うちだけで9人だよ?協力してくれてるメンバーも合わせると16人だ」
ノアがそう言うと、ゴルドがビール片手にまるで新人の三人娘に語り掛けるように喋った。
「俺もこのパーティーに参加させておらって、すごく感謝しているんだ。元居たパーティーが最悪だったからな。それにこっちに移ってから、間違いなく実力もアップした。だから本当に感謝しているし、信頼もしてる」
「やっぱりゴルドさんも特訓されたんですか?」
「そんなことしなくてもここにいたら、勝手に特訓してるようなもんだよ。なんせうちのリーダーの受ける依頼は、とんでもないものばかりだからな」
「ええ・・・そうなんですかぁ・・・?」
「そうだよ~ほんとにとんでもないものばかり、例えばネコ探しとか」
「は?ネコ探し?」
ナディアの言葉にエルナは目をパチクリさせていた。
「ん?あれ?あんたらにはまだ言ってなかったっけ?うちのパーティーは、ネコさん探し専門だよ?」
「えっ?」「はっ?」「おぉ?」
ノアがあまりにも真剣な顔をして言うものだから、三人は顔を見合わせたまま、どう反応すべきか本気で迷っていた。
お読みいただきありがとうございます。




