グロウ・ワーム
ギルド長に出発することを伝え、一行はまた行商隊と同行することにした。
「またよろしくね、リーダー」
「おう!こちらこそだ!」
今回の馬車列は5台。
ルーヴェル村までの4日間の旅の始まりだ。
途中でレナークという小さな町に立ち寄り、そこで一泊する予定だった。
「ナディア、ハヤブサちゃんに手紙を持たせてリアナの所まで飛ばせて」
「了解」
ヒューッと指笛を吹くとバサバサとハヤブサちゃんが降りてきた。
「なんて書けばいい?」
「ルーヴェル村で合流しようって」
「わかった」
ササっと小さな紙片に書くとハヤブサちゃんの脚に付いている筒に紙片を詰めると「リアナの所へ行け!」」とハヤブサちゃんが乗っていた腕を大きく振りぬいた。
空高くまで上昇するとボンッと空気を叩くような音を残したと思ったら、一瞬で姿が消えた。
「すごい・・・・!」
「なんですか!あれはっ!!」
ハヤブサを初めてみたセレスティアの3人は、目を見開いて驚愕の表情で空を見上げていた。
出発してから暫く走った頃、空からハヤブサが馬車の隊列めがけて降りてきた。
「おぉハヤブサちゃん!速かったね。お帰り!」
「もう帰って来たんですか?」
驚き顔でノアの腕に止まるハヤブサを見つめるエルナ。
「この子たちの速度は音速越えだからね」
エルナの顔の前で人差し指を立て、軽く振ってみせた。
「お、ん、そ、く、ご、え?」
エルナの頭の上に、はてなマークが浮かんでいるのが見えた気がした。
「まぁわかりやすく言うと、雷ってピカッと光って後からゴロゴロって鳴るでしょ?」
「そうですね・・・」
「それは光の方が速いから、先にピカッが見える。そして音の方が遅いから少し遅れてゴロゴロが聞こえるの」
「なるほどぉ・・・」
「その光の速さが光速、音の速さが音速、その音速より速いのがこのハヤブサちゃん達ってわけ」
「えっ?音より速い??」
「そっ!それをマッハというの」
「まっは・・・」
「すごいでしょ、普通の鳥に見えるけど、こう見えて魔物だからねこの子たちは」
「魔物・・・・」
ハヤブサちゃんの脚に付けられた筒の中から紙片取り出し、広げてエルナに見せた。
「あっ了解って書いてます」
「ねっ!ちゃんと行って帰ってきてるでしょ」
「すごいんですね!かっこいい♪」
フェリナがハヤブサをジ――ッと見つめ、ホントにかっこいい・・・と再び口にした。
日も暮れかかった頃、順調に走行を続ける馬車の隊列。
その時、前方に大きな影が立ちはだかり、馬車の隊列は急停止した。
「なんだ?」
ノア達は慌てて馬車を降りたところで、隊商のリーダーがノアの所に走ってきた。
「どうしたの?」
「ノアさん、何か大きな影がこっちに向かって来てる」
「大きな影?」
前方を見てみると、確かに何やらゆらゆらと蠢くものがあった。
「なんだあれ?」
体調は15メートルほどか。
全身が半透明の外皮に覆われ、内部を淡く赤黒い光が流れている。
「なんか透けてるぞ?気持ち悪いな・・・」
ゴルドが先頭に立ち、盾を構える。
ノアは腰の日本刀に手を掛け、セレスティアの三人とオルフェリアを後ろへ下げさせた。
ズズゥ・・・ンッ。
地面が震え木々が軋み、土煙が舞い上がる。
「これは竜か・・・?」
闇の中から姿を姿を現したそれは、竜のようで竜ではなかった。
半透明の皮膚の下を赤黒い光が、血管のように脈打っている。
光は体内を巡りながら、まるで生きた溶岩のように波打っていた。
「な、なんなんですか・・・これ・・・?」
オルフェリアが呟く。
「こいつ、グロウ・ワームだ!」
ナディアの声が震えた。
「ナディア知ってるの?」
「昔、連邦国が禁術で作ったって噂の兵器魔獣・・・!」
ノアは前に出て、腰の刀を抜く。
シュッと鞘鳴りが夜気を裂いた。
「なるほど・・・もう動き出してるってわけか・・・」
「姐さん、どうするっす?」ウキが喉を鳴らす。
「決まってるじゃん!ぶった斬る!」
ノアが微笑んだ瞬間、グロウ・ワームの体内が一際強く光り、咆哮が夜空を揺るがした。
ドオオオオオォン!!
大気が爆ぜ、馬たちが怯えて後退る。
ノアは地を蹴った。
「全員下がって!!」
彼女の姿が残光を残して疾走する。
瞬間、白刃が閃光のように輝いた。
一閃
その巨体の一部が吹き飛ぶ。
だが切断面が赤黒く光り、再生していく。
「なっ・・・!再生した!?」エリナが叫ぶ。
「魔石が核にある!そこを斬らないと倒せない!」
ノアはその声に頷き、持っていた刀を鞘に納め背中に掛けている勇者の剣を抜いた。
剣を構えると、刀身が金色に光る。
「いいわ、見せてあげる。本物の勇者の剣の力を!」
ノアが地面を蹴り跳ねると、両手で持った剣をバットを振るように大きく引きつけ、そのまま振りぬくと夜空を裂く光の弧を描いた。
ズガアアアアアアアアアンッ!!
轟音と共に、グロウ・ワームの頭部が吹き飛ぶ。
赤黒い光が霧散し、巨体が崩れ落ちた。
「やったーっ!」ナディアが叫ぶ。
その死骸の中から、拳大の黒い魔石が転がり出る。
ノアはそれを見下ろしながら、低く呟いた。
「やっぱり連邦の仕業か」
オルフェリアが小さく震えた声で問う。
「お姉さま、これって・・・戦争が始まるってことですか?」
「もう始まっているのよ、オルちゃん」
夜風が吹き抜け、焦げた匂いを運んで行った。




