バルデック帰還
翌日の朝早く出発した一行は、快調に街道を進んでいた。
小鳥のさえずりと風に揺れる木々の音に包まれ、のんびりとした空気が流れていた。
「気持ちいいですねぇ・・・ノア姉さま」
空を見上げながら大きく深呼吸をして、ノアににっこりとほほ笑む。
「うん、気持ちいい」
「姐さんちょっといいっすか」
ウキがノアに耳打ちしてきた。
「どうした?」
「さっきからちょっと気になってんすけど、あっちの山の上にかなりの数の馬に乗った人間がいるんすよ」
「どこ?」
「あっちの山の上の平らな所っす」
「あぁ・・・あの上は高原になってるのか」
「そうみたいっすね。今はあそこにいるんすけど、さっきは違う所にいたんすよ」
「なるほど、後をつけてるのか・・・」
「どうします?」
「次の休憩はもうすぐだよね?」
「そうっすね」
「よし!みんな聞いて!」
メンバーにウキとの会話を伝え、充分に警戒をするよう指示し、軽く打ち合わせをした。
暫く走ると街道沿いに小さな池があり、そこで休憩を取ることになった。
先ほどの話を領主に伝え、警戒をお願いした。
ユウト、ゴルド、ウキが周囲を偵察に走った。
「さて、どう出てくるかな?」
「お姉様、大丈夫ですか?なんかかなりの数だったような・・・」
「心配ないよ。10人だろうが100人だろうが、なんの問題もない」
「うん、心配ないよアルちゃん!ノアさんは一瞬で八人斬っちゃうくらいだから」
「えぇーっ!一瞬で八人!?」
ナディアの言葉に目を大きく見開いて、思わず叫んでしまったオルフェリアだった。
そんな話をしていたら,偵察に出ていたユウトたちが戻って来た。
「周りを見てきたが、動きは無いな」ユウトが息を切らしながら言う。
「オレの方も何もなかった」ゴルドが続く。
「こっちもっす」とウキ。
「ふ~ん・・・そうか・・・今は動く気がない、か・・・」
何かを考えるように腕を組み、ボーっと空を見上げた。
「領主に話してくる」とヴァルディスの元へ。
しばしの休息の後、一行は出発して行った。
昼下がり、街道をゆっくりと進む馬車の列。
小鳥のさえずりと風に揺れる木々の音に包まれ、のんびりとした空気が流れていたが、そんな中でも緊張感を持っていた。いつ襲撃が来てもいいように・・・。
――その時「ノアさん!・・・来ます」とナツメが構えた。
のんびりと走っていた馬車がゆっくりと停車した。
周囲が騒がしくなっていた。
「・・・降りろっ!」と怒号が響く。
騎士たちが一斉に領主を囲む。
「さて、さっさと片付けますか・・・」とゆっくり馬車を降りるノア達。
黒装束の男たちが、いつの間にか馬車を包囲していた。
「囲まれたか!」ゴルドが盾を構え、オルフェリアの前に立つ。
リーダーらしき男が一歩前へ出て「我々の目的は勇者と姫様の命のみ。他の者に用はない」と叫んだ。
「やっぱりバレてるのか・・・」
ノアは溜息をつき、腰の刀に手をかけた。
「おい、どスケベ、あのリーダーだけ捕らえてくれ」と男に指さし、ユウトに声をかけた。
「ど、どスケベ・・・わかった」
ユウトが前に出て剣を構え、リアナが詠唱を始める。
「オルちゃんは絶対にガルドから離れないように!」
「はい!」
「任せてくれ!」
オルフェリアはガルドの背後に回り、ガルドは剣を抜き盾を構える。
ナディアは弓を構え、周りにいた数人を射抜くと、すぐに木に登り上から弓を乱射した。
男たちはノアに狙いを定め、次々と襲いかかる。
しかし、その剣がノアに届くことは無かった。
一度も刃を交えることすらできず、ただ斬られていくだけだった。
「お姉さま・・・すごい・・・」オルフェリアが目を丸くして感嘆の声を上げる。
「お前ら!一人ずつはめんどくさいから、一気に来い!」
「クソぉー舐めやがって!・・・おいっ!」
男たちは目で合図を送りながら、一斉にノアに襲いかかってきた。
ノアは刀を構え直すと、向かってくる男たちの中へと突っ込んでいく。
そして「はぁーっ!」とノアが刀を大きく一振り。
一閃。
――ヒュンッ!
空気を切り裂く音だけが、その場に残る。
「あ、ああああ・・・・」
リーダーの男が口をあんぐりと開け、目を見開いていた。
15人ほどが同時に襲いかかったにもかかわらず、そこには胴体と頭が切り離された死体が転がっていただけ。
「これが・・・勇者の力・・・・か・・・」
リーダーの男が呟くと膝から崩れた。
ユウトが捕えていたリーダーの男を、騎士団が拘束し領主と共にノアが尋問した。
「さてと、色々聞きたいことがあるから、正直に答えてね。さもないと頭と胴体が離れるよ」
ノアが男の首に刀の刃先を押し当てながら、顔を近づけニコニコしながら問いかけていた。
そんな姿を見てウキが「姐さん・・・怖え・・・」と怯えていた。
リーダーの男は「わかった、正直に答えるよ」と完全に観念したようだった。
「どこからこちらの情報が洩れてるの?」首に当てている刃先に力を入れがら、問うた。
「あぁ…諜報員がいる・・・数名だ」
「まぁそうだろうね、それで勇者になった私と姫の命を奪おうと?だれの指示?」
「上からの指示だ」
「そりゃ上からだろ!その上は誰かって聞いてんの!」と言った後、バチッ!と音がした。
「んっっ・・・!」痛そうに顔をしかめたリーダーの男の額から、血が滲み出ている。
男の額にノアがデコピンをしたのだった。
「あら、ちょっと強すぎたかな?まぁこんな所で話てても仕方ないから、一緒にバルデックまで来てもらうよ。向こうでじっくり聞かせてね」
「わかった・・・」
捕虜としてリーダーの男を馬車に乗せ、再び走り出した一行。
捕らえられた黒装束のリーダーは縄で縛られ、護衛の騎士に挟まれて馬車の隅に押し込まれた。
ノアは刀を膝に置いたまま「やっと帰れる・・・」と小さく呟く。
「姐さん、どうするんすか?」
ウキが首をかしげる。
「今は情報を確かめるだけ。バルデックに戻ったらギルドに突き出す」
そう言ってノアはそれ以上追及しなかった。
馬車の揺れに身を任せながら、オルフェリアは落ち着かない様子でノアの袖を掴む。
「お姉さま、先ほどの襲撃はやっぱり私も狙われて・・・」
「そうだね、でも安心してていいよ。絶対に守るから」
その一言に、オルフェリアはようやく安堵の笑みを浮かべた。
五日間の道のりを経て、一行はようやくフェルザス領の中心都市バルデックに帰還した。
城壁の上から見張り兵が旗を振り、門がゆっくりと開かれる。
街の喧騒と人々の声が耳に届いた瞬間、仲間たちは思わず「帰って来た!」と笑みをかわす。
「はぁ・・・やっぱり落ち着く・・・」
ノアは深呼吸しながら街を見渡し、刀の柄を軽く叩いた。
その横でオルフェリアも目を輝かせていた。
「ここが冒険者たちの拠点、バルデック・・・!」
馬車の最後尾には依然として縛られたままの捕虜が揺れていた。
次なる舞台で、真実が少しずつ明かされようとしていた。
馬車をギルドの前で止め、全員で降り立つ。
「ノア!無事に戻ったのね!」
真っ先に飛び込んできたのはギルド長ココネの声だった。
その横でローズスパイラルのリーダー・セリナが腰に手を当てて笑った。
「まったく・・・あんたらがいない間にどれだけ退屈したことか!」
「ノアさん!お帰りなさい!」フィオナとアイナも手を振る。
リズは豪快に肉を齧りながら「おぉーおかえりー」と片手を上げた。
「わぁー!みなさんがお出迎えしてくれるなんて!」
オルフェリアは思わず目を輝かせ、ノアの手を引いた。
「お姉さま、やっぱりここが拠点なんですね!」
「そうここが私の拠点。さて色々話もあるし、捕虜もいるし・・・」
セリナが不思議そうな顔をして「なあノア、なんか増えてない?」とメンバーを見渡しながら言った。
「まぁとりあえず、奥に行こう。そこで話すよ」
「わかった」
そうして、ギルドの奥にある応接室に移動した。
領主のヴァルディスから王都での内容が話された。
そこで、ノアが真の勇者であること、勇者パーティーとしてユウト・ナツメ・リアナがメンバーになったこと、オルフェリア姫が冒険者になったこと、そして帰りの道中で襲撃に遭ったことを話した。
「やっぱり真の勇者だったんだね」とセリナは、うんうんと何度も頷いた。
「てか、姫様が冒険者に!?」
思わずローズスパイラルのメンバーが跪きそうになったのを慌ててオルフェリアが止めた。
「やめてください!私は今はただの冒険者ですから!」
「そうそう、オルちゃんはただの冒険者だよ」
ニコニコしながらノアが言うと「おいっ!姫様にオルちゃんは失礼だろ!」とセリナが窘めるが、オルフェリアは「いいんです!みなさんもオルちゃんって呼んでください」と笑顔で言った。
「わかりました・・・姫様がそう仰るのでしたら・・・」と胸に手を当て、オルフェリアに頭を下げた。
「まぁそういうことで、仲良くしてあげて!そして、こっちの三人は私と同じ向こうの世界から召喚されたのよ。なんでも私のファンだったらしいんだよね」
セリナたちメンバーが「ん?」と言う顔をした。
「ノアさん・・・ふぁんってなに?」とリズが聞いた。
「まぁわたしのことが大好き!って感じ?特にこのどスケベはね」ニタッとした顔をしながらユウトを見た。
ユウトは「はぁ・・・・」と声を漏らしながら頭を抱えた。
「えっ!?どスケベ??」ローズスパイラルのメンバーが一斉にユウトに注目する。
「こっちのメンバーは全員可愛い女の子だから変なことするなよ!!」
「するかよ!」ユウトが呆れながら言った。
「するとなに?こっちの三人は前の世界の時からノアを知っていたの?」
セリナがノアに聞く。
「そうみたい、わたしは知らないんだけど」
「へぇ~」
「その辺の話はまたゆっくりと話すよ。まぁ説明しても理解してくれないと思うけど」
「だろうね・・・」
そんな会話を笑顔で聞いていた、ヴァルディスとココネだった。




