王都の夜
ギルドを出て宿に戻ったノア達。
王都の宿は、外観からして上品で、廊下も磨かれた石造り。
宿の主人が次々に鍵を渡しながら告げる。
「ヴァルディス様にはこちらの貴賓室を。執事殿はお隣の部屋を。護衛の方々には二階奥の大部屋を、メイドのお二人には中庭沿いの部屋を。そして冒険者の方々はこちらへ」
ノア達が案内された部屋は広々とした三人部屋。
ウキとゴルドは向かいの二人部屋、騎士たちは奥で鎧を外して談笑していた。
メイドたちは「まあ…なんて素敵なお部屋」と微笑みながら荷を解く。
廊下にはそれぞれの部屋から声が漏れ、賑やかな夜が始まろうとしていた。
その夜、宿の大広間はノア達の一行で貸し切りになっていた。
長いテーブルには料理が並び、煌びやかな燭台が灯る。
普段は貴族が使うような場所だが、今夜は冒険者や騎士たちの笑い声で満ちていた。
「うわぁ~!見てこれ、肉が山盛りだぁ~!」
ノアが目を輝かせる横で、ウキはもう手づかみで齧りついていた。
「テーブルマナーって言葉知ってる?」ナディアが額に手を当てる。
騎士たちは肩の力を抜き、ワイン片手に語り合っていた。
「まさか魔獣の群れを一人で片づけるとはな・・・」
「ほんとにな・・・俺たちはいらないくらいだった・・・」
と、ノアの戦いぶりに感心しきりだった。
エリナはグラスを両手で包みながら、微笑んでみんなの様子を眺めている。
「なんだか、家族みたいね」
その一言に、場が少し和みノアも照れ臭そうに笑った。
そして領主ヴァルディスも、珍しく口元を緩める。
「ふむ、悪くない夜だな」
こうして大広間の夜は、笑い声と杯の音に包まれて更けていった。
杯を重ね、料理もひと段落した頃、ノアの頬はほんのり赤く染まり瞳がいつもより潤んでいた。
「ねぇねぇニャンコさ~ン♪」
隣に立っていたギルド長の肩に身を寄せ、ノアはニャンコポーズをとって見せる。
「名前可愛すぎ~!ほんとに大好き~!」
「ちょっとノアさん!落ち着いて!」
ナディアが慌てて止めようとするが、すでに遅い。
ノアは何度も「にゃんこ~♪」と繰り返しながら、豪快に笑うギルド長の腕に絡みついていた。
「はっはっは!お前おもしろいな!」
ニャンコは酒を片手に大笑い。
「ここまで名前で懐かれたのは初めてだ!」
エリナは頬に手を当て、くすっと笑う。
「ノアさん可愛い・・・」
そして今度はふらふらと歩きだし、メイドたちの所へ。
「お姉さんたちも飲もう~! ほらほらかんぱーい!」
グラスを差し出しながらニコニコ顔で絡んでいく。
「えっ、あ、あの・・・」
まじめなメイド二人は困惑しつつも笑顔を崩せず、目を泳がせていた。
ナディアは思わずため息。
「ノアさんって・・・こんなに酒癖悪かった?」
「ぶははは!おもしろいっすよぉ!姐さん!」
ウキは大喜びしていた。
さらにノアは酔いが回って来たのか、完全に目がトロンとなっていた。
そんな時いきなり大きな声で喋り出した。
「ハーイ、みんな~元気~! 今日も来てくれてありがとぉぉぉ♪」
「・・・は?」
ナディアが目を瞬かせる。
騎士たちはきょとんとし、メイドはグラスを持ったまま固まっていた。
「いやいやいや、ノアさん!なに始めてるの!?」
ナディアが慌てて止めるが、ノアは止まらない。
「今日は王都からお届けしてまーす!わたし今日はめっちゃ楽しいの~!にゃんこ大すき~!!」
大広間は爆笑の渦に包まれる。
ウキは「ぎゃははは!なんすかこれ、新しい芸っすか!」と床を転げまわり、エリナは頬を押さえて「かわいいけど、ちょっと恥ずかしい・・・」と小声で呟いた。
ナディアはついに頭を抱え「ノアさんは酒癖悪すぎっ!」と叫んで、腕をしっかりと掴んだ。
「ほら、もう部屋に戻るよ!」
「えぇぇぇ~?まだ配信終わってないのに~!」
ノアはふにゃふにゃ笑いながら引きずられていく。
「配信ってなんだ?」ゴルドが呟き「異国の芸っすかね?」とウキが適当に解釈して大笑いしていた。
エリナは頬を赤らめながら「・・・可愛い・・・」と小声で漏らす。
騎士やメイドたちも苦笑を隠せず、大広間はさらにどっと笑いに包まれた。
こうしてノアはナディアに肩を貸され、よろよろと部屋へと連れていかれるのだった。
部屋に連れて戻されてきたノアは、ベッドに倒れこんだ瞬間――。
「ぐう・・・すぅ・・・」とまるでスイッチが切れたように寝息を立て始めた。
「速すぎるだろ!」ナディアが呆れつつも毛布を掛ける。
エリナは小さく笑いながら「おやすみなさい」と囁いた。
翌朝。
窓から差し込む光でノアが目を覚ます。
「・・・うぅ・・・頭いてぇ~~」
額を押さえながら起き上がるノアに、ナディアがすかさずツッコむ。
「ほらみなさいよ!あれだけ飲んだらそうなるよ!」
「えへへ・・・でも楽しかった」
にへらっと笑うノアに、ナディアは思わずため息を漏らした、
エリナは心配そうにお茶を差し出して「少し楽になるかも」と微笑んだ。




