ニャンコ!?
王都に到着したノア達。
物語はいよいよ大きく動きます。
門の上には衛兵が二人、槍を持って立っている。
彼らの視線は鋭く、旅人の顔よりも、その沈黙を見ているようだった。
石造りの門を抜けた瞬間、空気が変わった。
喧噪ではなく、静けさが街を支配している。
だが、それは沈黙ではない。
洗練された暮らしの音--靴音、カップの触れる音、絹の衣擦れーーが通りに優雅なリズムを刻んでいた。
大通りは広く、左右には白壁の建物が整然と並ぶ。
窓辺には季節の花が飾られ、店先には金縁の看板が控えめに揺れている。
ブティックでは、貴族向けのドレスや外套が並び、店員が丁寧に布地を広げて見せていた。
その隣には香水専門店。ガラス瓶に詰められた香りが通りを歩く者の記憶をくすぐる。
カフェのテラス席では、銀食器に紅茶を注ぐ音が響く。
若い貴族たちが談笑し、時折馬車の車輪が石畳を滑る音が遠くから聞こえてくる。
通りの端には楽器を奏でる青年がいて、彼の音色に足を止める者もいる。
街の中心に向かうほど、建物は高く、装飾は細かくなっていく。
だが、どこか過剰ではない。
この街は“見せつける”のではなく“見せるべきものにだけ見せる”美学で成り立っている。
「やっぱり大きいねぇ、さすが王様のいる街だ」
ノアが大きく伸びをしながら呟く。
「うん、雰囲気がバルデックとは全然違うね」
今夜泊まる宿に馬車を入れて、大通りに出てきたブレイズリンクのメンバーと、領主とそのおつき達。
警護の騎士たちはそのまま宿屋で待機となった。
ノア達がいれば警護など必要ないということだった。
「ここは政治の中心だ、商業はバルデックに任せている。王都は貴族の街・・・そう言った方が正しいだろう」
街の喧騒はあるが、どこか洗練され活気よりも秩序と気品が勝っていた。
庶民の屋台や大道芸人で賑わうバルデックに比べれば、王都はまるで舞踏会の会場のようだった。
やがて一行は、広場の奥に建つ堂々たる建物の前に着く。
それが王都の冒険者ギルドだった。
バルデックの巨大なギルドに比べれば規模は少し小さい。だが、外壁には王家の紋章が刻まれ、冒険者というより貴族に仕える者たちの社交場のような威厳があった。
「ここが王都のギルドか」
ノアは静かに呟き、その佇まいを見上げた。
ギルドの扉を押し開くと、内部はバルデックの喧騒とはまるで違う。
掲示板やらカウンターこそ同じだが、冒険者たちは控えめに声を落とし、どこか格式ばった雰囲気が漂っていた。
まるで社交場の一角に紛れ込んだかのようだった。
領主ヴァルディスの姿が見えると、受付嬢がすぐに奥へと走る。
程なくして、落ち着いた声が響いた。
「ようこそ、王都ギルドへ」
姿を現したのは、王都ギルドの長。
壮年の男で、鋭い眼光に威厳を宿している。だがその立ち居振る舞いは、ただの役人にはない実戦経験を感じさせた。
彼こそが、王都ギルドのみならず全ギルドを統括する人物――そして、かつてココネの弟子でもあった。
「堅っ苦しい挨拶は無し!ヴァルディス卿、久しぶり!わざわざ王都までご足労とは恐れ入るな」
ギルド長は豪快に笑いながら歩み寄る。
「こいつが噂の、あのブレイズリンクのノアか・・・?」
目を見開いて、ノアを見つめていた。
「ん?知ってるの?」
「知ってるも何も、お前たちの事を知らないなんて、もぐりだぜ」
「そんなに有名なの?私」
「あぁこうやって直に会えるなんてっ感激だぜ」
「ほぉほぉ、やっぱり可愛いからね、わたし」
「ぶあっはっはっは!」
豪快に笑って、何事?と言った感じで、ギルドにいた冒険者達が一斉に見ていた。
「ところでこの人だれ?」
急にマジな顔をしてヴァルディスに聞いた。
「えっ? あっ!紹介してなかったか・・・?」
領主のヴァルディスが慌てて「改めて紹介しよう」とギルド長の横に立った。
「ここ王都のギルド長ニャンコだ。彼はこの国の全ギルドの統括でもある」
ヴァルディスの言葉に、ノアは目を丸くする。
「・・・ニャンコ!? にゃ、にゃんこ・・・♪」
ノアが思わず嬉しそうな声を上げた。
エリナも「可愛い・・・♪」とニコッとした。
ノアとエリナ以外は「???」と首を傾げる。
「ねぇノアさん、なんでそんなに嬉しそうなの?」とナディア。
「いや・・・ニャンコってネコちゃんって意味で・・・」
「うん」とエリナも頷く。
「はっはっはっはっ!」
ニャンコ本人は豪快に笑い飛ばし、「なるほど、お前らの国じゃ猫の事をそう呼ぶのか。おもしれぇ!」
なぜかノアはニコニコしていた。
「まあ今日は長旅で疲れてるだろうから宿でゆっくりしてくれ。明日は王都を案内させよう。そして明後日は王宮で、王との謁見がある」
「いよいよだねノアさん」
ナディアがノアの耳元で囁く。
みんなの顔を見てみると、緊張しているのが分かった。




