策略
バルデックのギルドは朝からざわついていた。
「おい聞いたか?森の奥で首の無い死体が八つも転がってたらしいぞ」
「なんだそれ…冒険者なのか?」
ざわつく冒険者たちの声が広間に飛び交う。中には顔を青ざめさせている者もいた。
その片隅でノアはパンをちぎって口に放り込みながら静かに耳を傾けていた。
ナディアが横でスープをかき混ぜながら小声で聞いてきた。
「ノアさん・・・もしかしてきのうの・・・」
「だろうね、8人だし。あいつら連邦国に始末されたようだ」
「だが、なぜ連邦国がノアさんを?」
ガルドもパンを齧っている。
「ん・・・私がいたらまずいのかな・・・? 私が可愛いから?」
「は?」全員の声が揃った。
「なんなんだよ!お前らっ!ノアちゃんは可愛いだろ!!」
「自分で言うな!」また揃った。
ギルドの飲食スペースで、ワイワイやっているとそこに、ギルド長のココネがやって来た。
「朝から賑やかだねぇ」
ココネと一緒にセリナ達、ローズスパイラルのメンバーも揃っていた。
「昨日のことでちょっと話を聞かせてくれる?」
「うん、うちらも話があったんだ」
「じゃあ応接室に来て」
応接室に集まったブレイズリンクとローズスパイラルの面々。
そこに見慣れない男性が一人、すでにソファーに座っていた。
「紹介しよう」ココネが口を開く。
「ここフェルザス領を治める、領主のヴァルディス様だ」
年の頃は40代半ば、威圧感は無く、むしろ穏やかな笑みを浮かべている。
だが背筋の伸びたその姿勢と、決して貧弱ではない体格の良さが、只者ではない事を物語っていた。
――この人が領主・・・。
「こっちがノアをリーダーとするブレイズリンク。そして入口の方にいるのがセリナ率いるローズスパイラルです」
「おぉ~、あなた方のお噂は聞いています。ぜひお会いしたかったのですよ」
物腰の柔らかな話し方だった。
「特にノアさん、あなたはこの国で一番の冒険者だと聞いています」
「はい?一番?ネコさん探しがですか?」
「何を言ってるんだお前!」ココネが烈火のごとく怒る。
「ハハハハハハ!…想像していた以上の人だ…愉快愉快…うん素晴らしい!」
「??? 何か変なこと言った?」
隣のエリナに聞いてみたら「うん、変」と返された。
ゴルドは頭を抱えていた。
「ま、まあとにかく、今日来てもらったのは、最近連邦国の動きが活発になってきている。そして昨日ブレイズリンクが襲撃された。それもノアを狙ってのことらしいじゃないか」
ココネが気を取り直して一気に言った。
「それなんだけど、襲ってきた連中は連邦国から私を消せと言われたらしいんだよ。なんで私が狙われるんだ?」
ブレイズリンクのメンバー達は、ノアがまた変な事を言わないか、ドキドキしていたのだった。
「やっぱり私が・・・」メンバーの視線がノアに集まる。
「そんなに邪魔なのか?」みんなホッとした。
「詳しい話は私からしよう」領主のヴァルディスが口を開く。
「我がゼルフェリア王国と連邦国とは、遥か昔から紛争が絶えなかった。この世界を支配しようと企んでいるのだ。連邦国の後ろで魔王国が手を貸しているということもわかっている」
「魔王!?この世界には魔王がいるの?」
ノアが驚いたような顔をした。
「ああ、魔王の国があるのだよ。ただ、想像するような怪物ではないぞ、見た目は我々と変わらない。しかし、中身は冷酷非道な正に怪物で、魔族と呼ばれる者たちだ」
「なるほど・・・魔族ね」
セリナ達と自分のメンバーと目を合わせ頷いた。
「でもどうして私が狙われるの?はっきり私を消せと言われたと、あいつグレンが言ってたのよ」
「グレンだと!?襲撃犯はグレンなのか?」
ココネは驚いて、つい声が大きくなってしまったことに気づき、口に手を当てた。
「ああ俺の元仲間のグレンだった」
「あれ知らなかったの?」
「なんせ頭が無かったからな」
「そうか、あとはチンピラのような奴が5人いた」
「そうなると、今後も命を狙いに襲撃してくるだろうから、充分気を付けて欲しい」
「わかってるよ。でもなんで私?さっきから聞いてるのに・・・」
泣きそう顔をしながら訴えるノア。
「そんなに私が可愛いのが気にいらないのか!!」
「えっ・・・? あぁぁ…言っちゃった・・・」
ナディアが呆れ顔で呟く。
「いや、まぁノア君の存在は十分敵の脅威に成り得るからな。君の強さは桁違いだからね」
「そうなの?そんなことで?私が可愛いからじゃなくて?」
「まだ言ってる…」応接室にいた全員が呆れた。
「コホン・・・」軽く咳払いをしてから、ヴァルディスが語り始める。
「今後、連邦国の出方が気になるが、今までよりもさらに大きく出てくることが予想される。この事は王都でも問題にされているのだ。直接王都には手出しはしないだろうが、ここバルデックは経済の中心だ。まず最初にここを叩くだろう。なので、騎士団の警戒も強化する」
その言葉に続けてココネが「お前たち二つのパーティーは特に狙われやすい。細心の注意を払っていてくれ。まぁお前らがやられるとは思っていないがね」
ノアは怒りに震えていた。
連邦国が他国に侵略しようと策略しているからだ。
――ふざけるなよ・・・戦争なんて自分達の欲を満たす為だけだろうが。ぶっ潰してやる!




