引っ越し
黒い霧の一件から数日が経ち、町はすっかり平穏を取り戻していた。
ノア達も危険度の高い討伐から離れ、荷物運びや商隊の護衛といった一般クエストをこなす日々を送っていた。
「あの緊張感はどこへやら・・・だな」
ゴルドが肩に大きな荷物を担ぎながらぼやく。
「たまにはこういうのもいいっすよね、命の危険もないし給料もそこそこっすし」
ウキは商隊の馬車にちょこんと乗って、ひまそうにあくびをしていた。
そんなある日の昼下がり、ギルドで依頼掲示板を眺めていたノアの背後から、聞き覚えのあるイヤな声がした。
「おやおやぁ? また可愛いパーティーがお揃いだなぁ」
振り向くと、以前ノアに絡んで返り討ちにあった冒険者三人組がニヤつきながら立っていた。
「お前らまだ活動停止中じゃなかったか?」
ナディアが呆れ顔で言う。
「謹慎は明けたんでね。挨拶くらいしとかないとなぁ?」
そう言って一歩近づいてきた瞬間、ゴルドがスッと前に立ちはだかった。
「要件はそれだけか?」
低く唸るような声に三人は一瞬たじろいだ。
「ま、まぁ今はやめといてやるよ」
言葉とは裏腹に、名残惜しそうにノアを一瞥し、足早に立ち去って行った。
「はぁ・・・ほんと懲りない連中だな」
「次絡んできたら、今度は本気で首を飛ばす」
ノアの呟きにセリナが笑って肩を竦めた。
その日も夕暮れまで軽めの依頼をこなし、ギルドに戻ったブレイズリンクとローズスパイラルは、笑い声の絶えない酒場の一角で小さな宴を開いた。
ギルドの朝は、いつもより静かだった。
依頼掲示板の前で、ノアは腕を組みながらずらっと並ぶ紙を眺めていた。
「あった!」
指さした先にあったのは・・・。
『急募! 迷い猫探して』
「またかよ・・・」
ナディアが額を押さえる。
「ノアさん・・・まさかまたそれやる気?」
「うん♪だってネコさん可愛いし」
「いやあんた強さランク的に、もっと危険な魔物討伐とか受けた方がいいだろ」
「そういうのは他の人がやればいいの!ネコさんがお家に帰れなくて泣いているんだよ?ほっとけないでしょ!だから私はネコさんを救う!!」
そんなやり取りをしているうちに、後ろからクスクスと笑いが漏れた。
「おい、あれがネコ探しのノアじゃねえのか?」
「マジで?この前黒い霧の森で化け物ぶっ倒したって噂の・・・」
「信じられねえな。あんなに強いのにやってるのはネコ探しとか・・・」
ノアはその囁きを聞いても全く気にせず、依頼表を剥がして受付へ。
いつしかノアは“ネコ探しのノア”と言われるほど、ネコに関する依頼ばかりを受けていた。
「この依頼受けます!」
「またですか・・・」受付嬢が少し困ったように笑う。
「はい、全力で見つけます!」
こうして今日もまたネコ探しのノアが街へ繰り出していく。
ネコ探しからギルドに帰って来たノアたち。
飲食スペースでくつろいでいると、ギルド長のココネが近づいてきた。
「あんたらってネコ探しばかりやってるらしいね」
「困っているネコさんを助けるのが私らの仕事!」
胸を張って、すかさず答えるノア。
「なんだそれ・・・」呆れた顔で言い放ち、続けて「それと、あんたらの家が見つかったから」と言って、鍵を渡した。
「おぉーやっと・・・」
「ここが場所だよ」とメモを渡す。
「よし、早速見に行こう!近くなの?」
「ああ、このギルドのすぐ近くさ。そして、斜め前がセリナ達の家だ」
「おおっ!それはいいねぇ。ところでそのセリナ達は?」
「あんたらがネコ探ししてる間に害獣の駆除に行ってるよ」
「なるほど・・・」消え入りそうな声だった。
「さてっ」とメンバーを促し、家を見に行くことにした。
その家はギルドのある大通りから一本入った所にあった。
二階建ての屋根に煙突のある茜色を基調にした、瀟洒な家だった。
家の周りには庭もあり、少し離れた隣には食堂がある。
「おぉぉぉぉ・・・いいねぇ!」
「わぁー素敵な家♪」ナディアが感嘆の声を上げる。
「さぁ中に入るぞ!」
玄関から入るとそこには20畳ほどの広さのリビングがあり、その横に階段がある。
2階には4部屋あり階段を上がると真ん中に廊下があって、両側に2部屋ずつになっている。
リビングの奥にキッチンがあり充分な広さがる。
そのキッチンの奥にも、もう一部屋あってこれは客間に使えそうだ。
「ここからギルドの裏口がよく見えるね。それと・・・斜め前がセリナたちの家っと・・・ん?どっちだ? まあいいか・・・」
「部屋は勝手に決めていい?」
ナディアは既にどこにするかを決めているようだ。
「て言うか、ゴルドはどうするの?」
「オレは自分のアパートがあるから大丈夫だ」
「そうか・・・それじゃあ早速部屋を決めよう!あっウキはキッチンの奥の部屋ね」
「えっ?」
「早く起きて私らの朝ごはんの用意をするんだよ」
「えぇぇー毎朝っすか?」
「そう!ウキは男なんだから、下にいて不審者を撃退する!私らか弱い女子を守るのよ!」
「だからどこがか弱いんすか・・・」
ウキがブツブツと呟いていると「文句ある?」とノアが睨んだ。
「なんもないっす!!」
ガタガタと震えながら直立不動になった。
翌日、宿屋から荷物を移し、必要な物を買い揃えて引っ越しは完了した。
そしてセリナ達の家はノアたちの家の左斜め前だと判明した。




