ネコさん探しに行こう!
「森の奥から…なんか来るっす」
ウキがぴくッと耳を動かしながら、小声で言った。
鳥の声が消え、風が止まり、辺り一面を黒い霧が覆い始める。
「霧が濃くなってる・・・」
ナディアが矢筒に手をやりながら、低く呟いた。
「まさか・・・また“何か”が出るのか?」
セリナが身構え、剣を握りしめる。
突如、前方の茂みが音を立てて崩れた。
ズズズズズン・・・
地面を這うような唸り声と共に、木々の間から巨体を現した。
「う、うそぉ・・・」
ウキが声を詰まらせた。
全身に黒い縞模様を纏い、禍々しい赤光を目に宿し虎のような魔物が、森の奥からにじり寄ってきていた。
「なんて圧・・・!」
エリナが震える声で呟く。
「こいつはシャドウタイガー・・・」
セリナが呟いた。
「下がって!前は俺が受け持つ」
ゴルドが前に出た。重厚な黒銅の盾を構え、全身に緊張が走る。
ガアアアアーーーーーッ!!!
次の瞬間シャドウタイガーが爆発するような加速で襲いかかってきた。
ドンッ!!
「うぐ・・・っ!!」
圧倒的な一撃を、盾で受け止めたゴルドの足が地面にめり込むが、なんとか踏ん張った。
「今だぁーっ!」
ゴルドが叫ぶ。
「よしっ セリナは右から行ってっ!」
「まかせろっ!」
ノアは左から刀を構えて突っ込み、セリナは右から同時に魔獣の首に斬りかかった。
ガッ!!!
「なに?」
ノアの日本刀の斬撃と、セリナの剣の一撃を同時に喰らっても、全く刃が通らなかった。
「斬れない・・・・・・」
魔獣の体からは黒い瘴気が噴き出していた。
フィオナとナディアが同時に魔獣の目を狙って弓を放つ。
だが、当たる寸前ではじかれてしまった。
「ダメだ、矢も通らない・・・」
「クソ―ッ!どうなってる!?」
ナディアが叫ぶ。
「姐さぁーーーん!大変っすぅ!!」
「どうしたウキッ」
森の奥まで偵察に行っていたウキが大慌てで戻って来ていた。
「もう一体こっちに来るっすー!!」
「なんだって!?」
全員が驚愕の表情を浮かべる。
「マジか・・・こいつがもう一体・・・」
セリナが失意の声を上げる。
―――その時。
ギャイィィィィィンッ!!
耳をつんざく金属音のような咆哮が、森全体を震わせ、足元の地面までびりびりと揺れた。
鳥たちが一斉に飛び立ち、空を覆う。
「・・・二体同時とか、ふざけてんのか・・・」
ゴルドが低く唸る。
ノアは刀を握る手に力を籠め、視線を正面の魔獣から逸らさない。
木々を薙ぎ倒しながら現れたのは、先ほどの魔獣と瓜二つの漆黒の虎型魔獣だった。
その双眸は血のように赤く輝き、鼻息一つで地面の枯れ葉が舞い上がる。
「・・・二体目、来やがった・・・」
ゴルドが低く呟き、盾を構え直す。その腕がわずかに震えているのをノアは見逃さなかった。
「こいつら連携してくるぞ」
セリナが眉をひそめる。
最初の魔獣が低く唸り声を上げた瞬間、二体目が一気に間合いを詰めてきた。
---ズドンッ!
衝撃で地面が陥没し、飛び散った土が頬を叩く。
「くっ!」
ゴルドがその一撃を盾で受け止めるが、衝撃は凄まじく、後方に数メートル押し飛ばされた。
「ゴルドっ!」
ノアが叫ぶ。
「問題・・・ない・・・」
血を吐きながらも立ち上がり、再び盾を構えるゴルド。
「ナディア、フィオナ!動きを止めろ!」
「了解!」
二人の弓から連射される矢が魔獣の動線を制限するが、全て弾かれている。
「やっぱり通らないか・・・」
「防御結界に守られているようだ」
「姐さん!右から来るっす!」
「任せろ!」
ノアは刀を逆手に構え、突進してきた二体目の前脚を狙って跳躍した。
---ガキィィィンッ!
またも硬い音、刃は皮膚を裂けず腕ごと弾かれた。
セリナが動こうとした時、もう一体が割り込み、尾で二人を纏めて薙ぎ払った。
「ぐっ!」
空中で体制を崩しながらも、ノアは木を蹴って強引に着地する。
セリナも土煙の中から転がり出てきた。
「こいつら、本気で殺しに来てるな」
「上等だ・・・!」
ノアが刀を握り直す。その瞳に、戦意が帆脳のように燃え上がっていた。
二体の魔獣はお互いに死角を補い合うように動き、まるで訓練された兵士のような連携で攻め立ててくる。
どの一撃も重く、速い。
そして全く攻撃が通らない。
「クソッ!また弾かれた!」
ノアの刀が首元に入った瞬間、青白い光の膜が弾けるように広がり、斬撃を無効化する。
「この防御相当強力だ。普通の魔法使いが張れるものではないぞ」
セリナが息を呑む。
「くそぉーっ!どうにもならいのか・・・」
その時だった。
森の奥から静かに蒼白い光が広がってくる。
「け、結界が・・・消えていく・・・」
セリナが驚いて魔獣を見た。
魔獣を覆っていた黒い瘴気が、まるで霧が晴れるように剥がれ落ちていく。
そして木々の間から、黒のローブに金刺繍の装束を纏った女が姿を現した。
月光を思わせる銀髪、瞳はルビーのように赤く輝いている。
「全員、今のうちに仕留めなさい」
その声は低く、しかし揺るがぬ力を帯びていた。
ノアが思わず睨むように視線を向ける。
「誰だ・・・あんた・・・」
女は口元だけで笑った。
「あなたに会うのは、まだ早いわ」
次の瞬間、女が掲げた杖の先から雷鳴のような魔力が奔り、二体の魔獣の片目を焼き潰す。
魔獣が苦痛にのたうつ間に、ノアたちは一斉に攻撃を叩き込みついに撃破。
「やったーっ!」
全員が歓喜の声を上げ、ノアが「ありがとう・・・」と言いながら振り向くと、すでに女の姿はどこにもなかった。
「誰なんだ・・・・?」
ノアがポツリと零す。
「前にもどこからか突然現れて、知らない間に居なくなってたよね・・・」
ナディアが呟く。
「ま、今は深く考えてもしゃあないか・・・」
ノアは刀を軽く振って血を払い、鞘に収めた。
全員の視線が自然と交わり、互いに無事を確かめ合う。
「敵ではないんだろうけど・・・いつも助けてくれるし・・・ていうか、とりあえず帰ろう!森の空気ももう吸いたくないわ」
セリナが冗談めかして言うと、みんなが小さく笑った。
戦いの緊張から解放されたせいか、その笑みはどこか安堵の色を帯びていた。
ゴルドが盾を背に固定し、ウキは泥だらけになった服をパンパンと払いながら歩き出す。
「うう~姐さ~ん!次はもっと可愛い依頼にしましょうよぉ~。ネコ探しとか・・・」
「おぉー!いいねぇ、よしっ!ネコさん探しに行こう!!」
「この前やったばっかだろ!」
ナディアが即座にツッコミを入れ、場が少し和む。
森を抜けると、バルデックの城壁が遠くに見え始めた。
夕陽に照らされるそのシルエットは、まるで帰還者を迎える門のようだった。
ギルドの扉を押し開けると、中はちょうど酒場のような賑わいで、あちらこちらから笑い声やジョッキがぶつかる音が響いていた。
その喧騒の中、ノア達の姿を見つけた者たちが、次々と声を上げる。
「おい、帰ってきたぞ!」
「魔物退治に行ってたんだろ!? どうだった?」
ココネがカウンターの奥から出てきて、安堵と驚きの入り混じった顔で言った。
「あんた達・・・よく無事で戻ってきたね。詳しい報告は後でいいから、まずは休みな」
ノアは頷きながらも、心の中ではさっきの女の影が消えなかった。
あの魔力、あの眼差し・・・必ずまたどこかで会う。そう確信しながら。




