ノア、キレる
「ナディア、何をそんなに悩んでるの?」
「これを買ってしまうと、所持金が・・・0・・・に・・・」
「えっ?もっとあるでしょ?何に使ったの??」
ノアは驚いた顔をした。なぜ所持金がないのだ?と。
「色々買い物してて・・・」
その時、ゴツゴツとした革エプロン姿の店主が近づいて来て、その眼差しはナディアではなく、弓に向けられていた。
「その弓はな、星紋の霊弓という伝説級の一張りだ。東の山岳民族が数百年前に編み出した精霊弓術の象徴で、普通の人間には持つことさえ許されん」
「じゃあナディアが触ったら光ったのって・・・」
「認められたってことだ。弓の方から選んだのだ、嬢ちゃんをな」
「えっ!私が・・・?」
ナディアは驚いてそっと胸元に手をやる。
心臓がまだドクンドクンと力強く脈打っていた。
「たまにいるのだよ。精霊と相性が合う本物の弓使いがな」
「すごいナディア・・・」
エリナが小声で呟いた。
「選ばれてる・・・か。そんなこと言われたの初めてなんだけど、悪くないなそれ」
ナディアは照れくさそうに微笑んだ
だけどその眼の奥は、いつもよりずっと真剣で、どこか決意を帯びていた。
「ん・・・そこまで言われたら買うしかない!えぇ~い持ってけ!」と、お金が入った巾着袋を差し出した。
ナディアが大事そうに新しい弓を抱えながら、みんなが武器屋を出ようとしていたところに、セリナ達が入って来て鉢合わせした。
「あれ、ここにいたのか。私たちも見に来たんだよ」
「剣でも買いに来たのか?」
「ああ、新しい剣が欲しくてな。明日調査に行くだろ?それに備えてな。何があるかわからんだろ?」
「私らも何か武器が欲しくてね」リズ達は入ってくるなり店内を探索し始めた。
「じゃあ私らはいくね」
ウキはナイフをエリナは短剣を買っていた。
店を出たノア達一行は一旦ギルドに戻ろうとしていた。
「ノアさんは何も買わなくてよかったの?」
「そうなのよね、短剣が欲しかったんだけど・・・ちょっと迷っちゃって、いいのが何本かあって・・・
「買ってくれば?」
「うん、そうしようかな・・・じゃあ買ってくるよ!」
そういって店に戻って行ったノア。ナディアは荷物を置きに一旦宿に戻って行き、エリナとウキはギルドへと向かった。
ギルドに到着したエリナとウキは、ちょうどカウンターから出てきたギルド長のココネに呼び止められ、頼みごとをされた。
「ちょっと頼まれてくれない?」
「ハイいいっすよ!」ウキは思わず直立不動になっていた。
「君にはこの依頼書の整理を頼みたい。そして、彼女にはちょっとめんどくさいけど、この帳簿をやって欲しんだよ。今日は人手が足りなくて作業が追い付かないんだ・・・」
「わかりました。あっちのテーブルを使ってもいいですか?」
「ああ構わない、頼んだよ」
ウキとエリナは一番奥のテーブルに座り、作業を始めた。
「ちょっと飲み物を買って来るっすよ」
「あぁありがと」
ウキが飲み物を買いにカウンターへと歩いていると、ギルドの扉が開きあるパーティーの一団が入って来た。
ギルド内にいた冒険者たちが一斉に注目する。
「おい、グランザイルだ」「なぜ今頃?」「嫌われてるけどあいつら強いからなぁ」
口々に言い合い、ギルド内がざわついた。
グランザイル、特1級のバルデックギルドの最高ランクパーティーだ。
実力はあるのだが、なぜか他の冒険者からは嫌われている。
リーダーのグレン・アルバレスト、魔剣を操る剣士が何かにつけて、人を見下す態度や言い方が嫌われる原因のようだ。
他に黒魔導士のザハド、アサシンのマリィ、タンクのゴルド、狙撃手のレーネがメンバーだ。
「フン、雑魚どもが・・・」グレンが毒つく。
カウンターで飲み物を受け取り、トレーに乗せてテーブルに戻ろうとしていたウキ。
その時、グランザイルのメンバーレーネがウキに足を引っかけた為、盛大に転倒した。
ドリンクは空中を舞い、床にガシャンと散る。
「おいおいお!なにやってんだよぉー!服が濡れたじゃん」
笑いが広がる中、ウキは唇を噛みしめて立ち上がる。エリナがすぐに駆け寄り、ドリンクのカップの破片を片付けようとした。
「おいお前!謝れよ!」
「えっ?なんでっすか?」少し文句があるというような言い方をした。
「ウキ逆らわない方がいい」とエリナがウキの耳元で囁く。
「お前ぇー逆らうんじゃあねえよ!」といきなりウキを殴った。
そのはずみで再び倒れたウキ。
倒れたウキの脇腹にさらにドスッと蹴りを入れる。
「ウッ!」とうめき声を上げ仰け反った。
「何するのよっ!」エリナが叫んだ。
アサシンのマリィがエリナの横に立ち、じろじろと見つめる。
「へぇ~あんた可愛い顔してるねぇ」
肩にそっと手を乗せる。
「ねぇグレンこの子どう?」
「ん?おぉー・・・いい女だなぁ連れて行くか・・・」
ニヤニヤしながらエリナに近づいてきた。
「やめてください!」
「なに?反応いいねぇ可愛いじゃん」
グレンがエリナの顎を持ち顔を上げた。
その場にいた他の冒険者隊は何も言えず、ただ見守るしかなかった。
そしてその時、ギルドの扉が開き、ノアとナディア、セリナ達が入って来た。
「なにやってんの?」ノアの声がギルド内に響く。
その声にギルド内が凍り付いた。
「ああん?誰だお前」グレンがノアを睨む。
「なんでウキが倒れてんの?顔に殴られた痕があるけど?それと、その子に触るな!!」
グレンを睨みつけながら怒鳴った。
「おまえら俺たちを誰だと思ってんの?逆らっていいと思ってんの?」
スナイパーのレーネがニヤつきながら言った。
「知るかよ。ただのクズだろ?」
「なんだと!誰がクズだ!!このヤローッ!!」
レーネがノアに殴りかかって来たが、それを軽く躱し、蹴り倒した。
「てめぇー!!」グレンが剣を抜き斬りかかって来た。
その腕を掴み、剣を叩き落すと髪を掴み後ろに引っ張ると、耳元で「いい加減にしろよお前、一回死にたいのか?」とドスの効いた声で言ったあと、離れ際に顔面にパンチを見舞った。
グレンはそのまま大の字に倒れ、気絶した。
その瞬間、ギルド中から「おぉぉぉ~っ」と声が上がった。
ウキに近寄り「しっかりしろよお前、ケガは?」と声を掛け、ウキは「大丈夫っす」と返した。
「なんなのこいつら?」とエリナに聞くと「ウキがわざと足を引っ掛けられて、倒れたところに蹴りを入れられたのよ」とエリナが説明する。
「一方的に?」
「そう・・・」
「ぶっ殺してやろうかこいつら」
ノアが怒りを露わにして言うと、ナディアが「落ち着いて!」と宥めた。
すると、タンクのゴルドが近づき「すまなかった・・・」と頭を下げた。
「ちょっと調子に乗りすぎていたんだ。このギルドで一番だと思い込んでいたんだな」
「いや、自信を持つのはいいけど、他人にちょっかい出すのは違うだろ」
「その通りだ。ほんとにすまない」
そうやってその場を収めようとしていたのに、それを全て台無しにするやつがいた。
リーダーのグレンだ。目を覚ましたこの男は懲りずにまたノアに食って掛かった。
「ちくしょうちくしょうちくしょう!!俺たちは一番なんだよ!一番じゃなきゃダメなんだよ!このクソあまぁーー!!」
そう叫びながらまたノアに斬りかかる。
今度は回し蹴りを食らわすと「グハッ」と呻き声を上げて吹っ飛んでいき、倒れたグレンに近づき、髪を掴むとさっき買ったばかりの短刀を口の中に差し入れた。
「てめぇいい加減にしろよ!マジでぶっ殺すぞ!」
すると先ほどのゴルドが駆け寄り「本当に申し訳ない!」とまた頭を下げた。
ノアが離してやると「グレン!いい加減にしろ!!」と強く叱責した。
そこに外出していたギルド長のココネが戻って来て、このギルド内の様子を見て「なんの騒ぎだい!」と一喝。
「ノア!どうしたの?」とノアを見つめた。
「こいつらがうちのウキに絡んできたんだ」
それを聞いたココネは「またお前たちか!」呆れた様子で言った。
「このノアにお前たちが適う訳ないだろ。そっちのセリナにしたってそうだ、お前たちじゃあ敵わないよ」
「ノアって・・・あの噂の・・・?」
ゴルドが思い出したように言う。
「噂ってなに?」
ノアがゴルドに向かって聞いた。
「いや、ドラゴンを一人で倒したっていう・・・」
「一人じゃないよ、このセリナと一緒にだよ」
「いや、止めを刺したのはノアだけどね」と笑った。
「まあとにかくお前たちグランザイルには暫く謹慎してもらう。当分活動禁止だ」
ココネがそう宣言するとグレンは「クソーーーッ」と言い残しギルドを飛び出して行った。




