ムーンシェル亭 ②
部屋に戻ったノア達、ナディアとウキは眠いと言って、すぐにベッドに潜って寝てしまった。
ノアとエリナはまだ起きていて、二人は向かい合うようにベッドの淵に腰を掛けている。
「今日はありがとうね。受け入れてくれて」
エリナが小さな声で呟いた。
「なに改まって・・・」
「ううん…ただ嬉しかったから」
エリナは微笑んだが、その眼の奥にどこか不安の影があった。
「まだ慣れてないよね、この世界」
「うん・・・、怖いって程じゃないけど、どこか現実味がなくて、歩いてても話してても、本当にここにいるのかな…って思う」
「わかるよ・・・その気持ち」
ノアは静かに答えた。
「私も最初はずっとそうだった。全部が夢みたいで。だけど、痛みだけはやけにリアルだった」
「ノアさんは何があってこっちに?」
「家族が殺された・・・一緒に私も殺されたんだけどね。でもその犯人は私が殺したんだけど」
「えっ!?」
エリナの眼が大きく見開かれる。
「死んだ瞬間にこっちに飛ばされたみたい。」
どこか遠くを見るような目をするノア。
「そうなんだ・・・」
「エリナは何があったの?」
「それがわからないの・・・」
「どういうこと?」
「普通にテレビを観てたのよ、そしたら好きだったyoutuberが殺害されたってニュースが流れて、そしたら急に目の前が真っ暗になって・・・気が付いたらこっちに・・・って、あれ?ノアって・・・??」
「うん・・・それわたし・・・」
「ええーーーー!!あのノアさんなの?」
思わず大きな声が出てしまったので、慌てて口を押えた。
「そう、あのノア」
「でもなんか雰囲気が違うような・・・」
「うん、なぜか髪の色も黒からピンクになってるし、全体的にパワーアップしたって感じ?」
ハハハと笑う。
「配信をしてた時はすごく可愛い女の子って感じだったけど、今は逞しい?って感じかな?でも面影はあるよ」
「自分で言うのもなんだけど、可愛い女の子はやめて強い女でありたいの、実際向こうの世界でも格闘技やってたし」
「そうなんだ・・・」
「エリナは向こうで何やってたの?」
「えっと・・・軽蔑しないでね・・・」
「なんで?」
「実は・・・風俗で働いてたの」
「そうなんだ・・・べつに軽蔑なんかしないよ。どんな仕事でも仕事だし」
「ありがとう・・・」
「ところでどうして私の配信を?」
「馴染みのお客さんがいてね、よく指名で来てくれててその人に聞いたのよ、面白いから観てって。それで観たら色んな所に行っててすごく楽しそうで。いっぺんにファンになったの」
「そうなんだ・・・ありがとう」
ノアは微笑んだ。
「さてと、そろそろ寝よう」
「うん」
翌朝、食堂に集合したノアとセリナの二つのパーティー。
ムーンシェル亭の食堂は温かい香りに包まれていた。
パンが焼ける香ばしい匂いと、ハーブの効いたスープの香りが鼻をくすぐる。
ノア達は窓際の大きなテーブルを囲んで座っていた。
テーブルには、炙りベーコン、焼き野菜、チーズ入りオムレツ、そして厚切りのライ麦パンがずらっと並んでいる。
「うわっーめちゃうまそー!」
ナディアが目を輝かせてパンを手に取る。
「これが都会の宿の朝ごはん・・・最高♪」
リズもベーコンに齧りついて感動していた。
超絶美人のセリナ、妖艶な色気のあるエリナ。この二人は、宿に泊っていた冒険者たちの注目の的だった。
ノアがハーブ入りのスープを口に含む。
優しい塩気と、しみこむ温かさが胃に染みる
戦場では味わえない静かな朝の味だった。
他のテーブルでは、常連らしき冒険者たちが談笑していた。
「昨日の依頼、あの蜘蛛マジで速すぎたわ~」
「やっぱバルデックは依頼のレベルがちげーな」
そんな声を聞きながら、ノア達のテーブルもまた静かな活気に包まれていた。
「そういえば今日は何するの?」
ナディアがパンをもぐもぐしながら聞いてくる。
「とりあえずギルドに行って簡単な依頼を受けてみようと思うけど、サリナ達はどうする?」
「私らも一緒に行くよ。とにかく金を稼がないと」
「うん、そだね」
「その後に武器屋にも行ってみたいし」
「いいねぇ!よしギルドに行こう!」




