討伐隊 ④
「ふぅ~」
戦いの後、彼女の姿はどこにもなかった。
「あの人いったい誰なの?」ナディアが呟いた。
「誰だか知らないけど、ありがとう助かったよ」誰に言う訳でもなく呟いた。
森の奥、焼け焦げた地面に戦いの余韻だけが残っていた。
ノアは倒木にもたれながら、肩で息をしていた。
刀を膝の上に置き、血の滲む掌をじっと見つめる。
「・・・なんとか、終わった・・・けど」
近くではナディアが、仲間に水を配っていた。
ウキは地面に寝転びながら、大の字になって空を見上げている。
「姐さん、マジで死ぬかと思ったっす・・・なんなんすかあの黒竜・・・」
「ほんと・・・でもノアさんがいなかったら誰かが死んでたよ」
ナディアがそう言ってそっとノアに水筒を差し出した。
ノアは受け取り、軽く口を湿らすだけにとどめた。
一方少し離れた場所では、カイとセリナが言葉を交わしていた。
「正直、今のままじゃあ厳しい、一度村に戻って立て直した方がいいかもしれない」
カイが低くしかし確かに言った。
「全員消耗がはげしいわね・・・。補給もいるしアイナの脚のケガも放っておけない」
「ノアはどうすると思う?」
「たぶん進むって言うわよ」
セリナが苦笑した。その視線の先に刀を抱えるノアの姿があった。
――その時。
ズズズン・・・ッ!!
地面が避けるような衝撃。
土煙の中に黒鉄色の巨影。
その場にいた全員の背筋が凍り付いた。
ノアが静かに立ち上がる。
「戻る時間も、余裕もなかったってわけか・・・」
彼女の目に再び覚悟の光が灯る。
ドォォォォン!!
爆風が吹き荒れ土煙が晴れた瞬間、そこにいたのは。
全身を黒鉄色の鱗に覆われた空の支配者。
深紅の双眸が、静かにノア達を捉えた。
「な、な、な、なん、なんすかあれ!!」ウキが震えながら叫ぶ。
深紅の眼がまるで見下ろすように、敵意も感情もなくただ覗き込む。
その瞬間、背筋を撫でるような悪寒が走った。
「な、なにあの目・・・ッ!」
セリナがわずかに後退する。
ゴォォォォン!!!
咆哮が放たれた。
それは音というよりも質量だった。
衝撃波が地を這い、木々が何本も薙ぎ倒される。
ウキが転がりながら避け、フィオナが即座に防壁を張った。
「クッ・・・ッこの威圧感…ナイトメア・ドレイクなんか比じゃないッ!」
「こいつはとんでもない大物だっ!絶対に油断するなぁぁっ!!」カイが全員に喝を入れる。
「こいつは無慈悲な堕竜、ヴァルグレイドだ!!」セリナが叫んだ。
「なんてことだ!!こんな奴がいやがったとは・・・・!!!」
カイが剣を構えて後ずさる。
ヴァルグレイドが口を開いた。
カイが叫ぶ「来るぞぉーーーー!!!下がれぇーーーーーーっ!!!」
次の瞬間、漆黒のブレスが轟恩と共に解き放たれた。
爆炎――否、これは漆黒の焼き尽くす霧――地面を抉り空気を焦がす。
リアードが盾で防ぎながら、セリナがリズとアイナを庇う。
ノアが前に出た。
既に刀は抜かれている。
「――私が行く。止めないで、これは私の戦いなんだ!」
ナディアが一歩前に出かけて、拳を握ったが・・・何も言えなかった。
その背中には、もう覚悟が宿っていた。
ノアが駆けた。
重力すら捻じれるような圧の中を、風のように駆け、ヴァルグレイドの翼の付け根、弱点へと斬りかかる!
だがーー
ガキィィィィン!!!
刀が鱗に弾かれる。
ノアの動きが止まり、そこに巨尾が振るまわれた。
「--ッ!!」
逃げきれない!刹那セリナの剣が間に割って入り、ノアを庇った。
だが衝撃波で二人とも吹き飛ばされた。
「ノアさん!」「姐さああああん!!」
ノアが地面に転がり、腹部を抑えて呻く。
血が滲み、息が荒れる。
――ぐっ・・・ちくしょう・・・っ!!
「ノア!大丈夫?」セリナが駆け寄ってきた。
「少しやられた・・・けど、まだ大丈夫・・・あんたは?」
「私は大丈夫だけど、足が痛い」サリナの脚から血が流れていた。
「大丈夫か?」カイが駆け寄る。
「二人とも少し離れていろ。ここはなんとか俺たちで食い止める」
カイは剣を構えたまま仲間たちの状況を見極めていた。
しかし、ブレイブフォースの陣形はすでに崩れ、リアードの盾も限界に達している。
「このままじゃ全滅だ・・・」
カイが一歩前に出た。
左腕に魔力を集め剣に流し込む。
――閃撃陣・フェルセリア!
中距離の魔法剣技を発動。
「そこだ・・・!」
ヴァルグレイドの脇腹に向けて一気に踏み込み、閃光と共に剣を振るう。
――が、その瞬間。
ヴァルグレイドの尾が回り込むように襲いかかった。
「――っ!」
回避が間に合わない!
ドゴォォォォォォン!!!!
強烈な一撃がカイの腹部を抉るように直撃し、体が地面を何度も転がり吹き飛ぶ。
「カイっ!!!!」
ミレイの悲鳴が響く。
リアードが駆け寄るが、カイは倒れたまま動かない。
カイは吐血しながらも立ち上がろうとしていた。
「ま…まだ…おわ‥ってない…」
「無理よ!!動かないで!!!」
「クソッ!」
ゼインが無言で周囲の援護に回る。
リアードが叫ぶ、
「だれか・・・だれか回復を・・・!!」
その時、ウキが必死に駆け寄ってきた。
「ちょっとくらいなら回復できるっす」
懸命に詠唱を始める。が、ウキのヒール魔法は応急処置が限界だった。
「くっそ・・!全然たりねぇーーっ!!
「ありがとう・・・大丈夫だ・・・オレはまだやれる・・・」
カイは立ち上がり、ヴァルグレイドに向かおうとするが、その足元はふらつきとても戦える状態ではなかった。




