討伐隊 ➀
宿に戻ると、行商人達も戻っていた。リーダーに声を掛け、明日一緒に行けなくなったことを伝えると「おぉちょうどいい、実は俺たちもしばらくここに滞在することになったんだよ」
「え?そうなの?私たちもギルドから討伐隊に参加してくれって言われたので、2、3日はこっちにいることになると思う」
「あぁ聞いたぜ、魔物が大量に発生してるらしいな」
「うん、そうらしい」
「嬢ちゃん達なら、なんの心配もないが、まぁせいぜい名を上げて来いよ」
「もちろん、そうするよ」とお互いに笑った。
翌日、朝早くからギルドに集合した冒険者パーティー達。
ノアとナディア、ウキの姿もそこにあった。
「あんたがノアさん?」
一人の女性が後ろから声を掛けてきた。
「私はローズスパイラルで、リーダーをやってるセリナって言うの、よろしくね」
振り向くと、そこにいたのは・・・この世の者とは思えないほどの超絶美人が立っていた。
女の私でも惚れてしまうほどの美しさだ。男どもは浮足立っていた。特にウキは目が点になっている。
――こんな綺麗な人が冒険者をやっているなんて。
「あっ・・・ノアです、よろしく・・」緊張してしまった。
「あなたの噂は聞いてるわ。一緒に戦えるのを楽しみにしていたの」
「ありがとう・・・でもそんなに大したことないよ?」
「そんなことないよ、ノアさんの武勇伝はいっぱい聞いたし」
横から入って来たのは・・・だれ?なんかギャルっぽい子だ。
「あぁうちのメンバーを紹介するね」
リーダーの超絶美人のセリナがメンバー全員を集めて横一列に並ばせて、一人ひとり紹介していった。
「まず私はリーダーのセリナ、剣士よ。こっちが魔法使いのフィオナ、その隣が大太刀使いのリズ、最後が弓使いのアイナ以上よ」
それぞれと握手して、ナディアとウキを紹介した。
相変わらずウキは目が点になったままで挙動不審だ。
「そちらは3人だけなの?その男は何するの?」とギャルのリズが聞いてきた。
「こいつは元盗賊なんだよ」
「えーー!姐さんなんてこと言うんですか!」
「まぁ足を洗ったとか言ってるけど、下着とか盗まれないように気を付けてね」とニカっとした。
みんなの軽蔑の眼差しがウキに刺さる。
「ひどい・・・」
「変な事したらあたしの剣でぶった切ってやるよ」フフフとギャルのリズが笑う。
他の二人もうんうんと頷いている。
――さっきのギャルは大太刀使いなのか・・・なんか顔に似合わず怪力なのかな・・・?
その正反対なのが、魔法使いのフィオナか、なんかふんわりした癒し系って感じだな。弓の子は気配を消しているのか?単に大人しいだけ?存在感が無いような気がする。
「おぉ?もう仲良くなっているのか?さすが女同士だな」
ギルド長のザリオがこちらにやって来て、ウキの背中をバシッと叩いた。
すかさずナディアが「また折れた?」とウキの背中をさすっている。
そうこうしているうちにこの討伐隊のリーダーでもある、ブレイヴフォースのカイがみんなの前に出て大声で話し始めた。
「みんな、こちらに注目してくれ!」
ギルド長のザリオも騎士団らしき男達と前に出た。
「今日はみんな集まってくれてありがとう。すでに知ってるとは思うが、この討伐隊でリーダーを任されたブレイヴフォースのカイだ。よろしく頼む。ギルド長から話があるらしいので聞いてくれ」
「みんな今日はありがとう。ちょっと聞いてくれ、今回の討伐はかなり厳しいものになる」
その言葉に、空気がわずかに引き締まる。
「ここに集まってくれた五つのパーティー、それに加えて・・・今回騎士団の協力も得ることができた」
その言葉とともに、奥から鎧をまとった男たちが現れる。
10人の騎士たちが無言で前に出てザリオの隣に整列した。
――騎士団まで出てくるのか・・・
ノアは心の中で唸った。
ここまでの布陣になるとは、ただ事じゃない。
これから魔物との戦いが始まると思うと、いやでも気分が高まってきた。
――やってやる!
胸の奥で何かが静かに燃え上がる。
「では、これから出発だが、最後に一つだけ伝えておく」
ザリオの声が少しだけ強くなる。
「くれぐれも命は大切にしてくれ。危ないと思ったら迷わず逃げろ!生き残ることを優先しろ
いいな!」
「はいっ!!」
全員の声が一斉にギルド内に響き渡る。
「よし、行くぞ!!」
「おおおおおおーーーーっ!!」
掛け声が重なり、
その瞬間、ギルドの扉が一斉に開かれた。
「ノアさん!この討伐は私らブレイズリンクの名を上げる絶好の機会になると思うの」
ナディアがやる気に満ちた声で言った。
「うん、私もそう思うよ。だから、他のパーティーに後れを取ることは絶対に許されない」
ノアの声は静かだったが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
ノア、ナディア、ウキの三人は馬車の揺れに身を預けながら、この戦いに向けて入念に作戦を練っていた。
「ウキ!お前は諜報活動が得意だって言ってたよね?」
「ハイっ!得意でありまっす!」なぜかビシっと背筋を伸ばして、敬礼をしていた。
「ねぇナディア、向こうの状況ってまだわからないんだよね?」
「そうね、全く聞かされてない」
「そこで・・・」ノアはウキに指をさしながら「お前の出番だよ」とニタッとしながら言った。
「ハイ?」きょとんとした顔で「何をするんすか?」と聞いた。
「向こうに着いたら、他のパーティーの奴らに気取られないように、状況を探って欲しい」
「状況っすか?」
「うん、まずどこにどんな魔物がいるのか、地形はどうなっているのかを調べて」
「なるほど・・・それで?一番やばい魔物をやっつける気?」
ナディアはニヤっとした。
「そう!まさにそれ!雑魚は他の奴らに任せればいい。私たちは一番強い奴を片付ける」
「でも私たちだけで大丈夫?」ナディアが少し不安そうに声を落とす。
「もちろん・・・たとえ、ドラゴン相手でも、私は負ける気がしない・・・」
と自信たっぷりに答えた。
この自信がどこから沸き起こっているのかわからない、でも根拠のない自信ではないことはわかっている。この世界に私が来た理由・・・それは・・・。