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幕間1

  わたくしが今世で明菜と出会ったのは小学2年の時だ。

  その頃のあの子はオドオドしていて、常に俯いて、他人の輪に入ろうとしなかった。

  他人と交流するのが怖いのだろう。

  前世で散々な目に遭っているので当然だ。

  あの子にその時の記憶があるのは定かではないが。

  神のイタズラなのか苗字は同じ工藤。

「工藤明菜ちゃん、一緒に遊びましょ」

「ううん……1人がいい」

  誘っても目を合わせず、ジーッと床を眺めていた。

「明菜ちゃん」

「遠足楽しみだね」

「昨日のアニメ観た?」

  わたくしは一生懸命にあの子の気を惹こうとした。

「…………うるさい…………」

  一言。

  それは他人を拒絶するのにはものすごい破壊力を持っていた。

  なぜならあの言葉を発した時の表情が怒り、困惑、そして諦めに満ちていた。

  何に怒っているのか。

  何に困惑しているのか。

  何を諦めているのか、前世の記憶を持つわたくしはその答えを知っていた。

  この子の傷を癒すには一気に距離を詰めちゃダメだ。

  もう少し慎重に行こう。

  体育の授業によく2人1組になりましょう。と担任の先生から指示が出される。

  クラスであぶれた子が一人ぼっちになるあれだ。

  わたくしは当時仲が良かった子の誘いを断って 明菜に声をかけていた。

「わたくしと一緒になりましょ」

「…………うん…………」

  教師の命令とあれば断れない。

  その時のあの子の表情を今でも覚えている。

「何故私にこんなに構うのだろう?」

「何故私を選ぶのだろう?」

「何故1人にさせてくれないのだろう?」

  警戒の中にたしかに、1人じゃなくて良かったと、嬉しさが混じった表情だった。

  その時からだ。少しずつわたくしに心を開いてくれたのは。

  休み時間に一緒になったらお絵描きをしたり、 図書室で児童書を借りて感想を言い合ったり、

  少しずつ、本当に少しずつあの子は笑うようになった。

  ある日、わたくしはあの子の家に招待された。 仲良くしてくれる子が出来たと両親に話したら わたくしに会いたいとの事だった。

  わたくしは大変緊張した。

  今世でのあの子の親はどういう人なのだろう?

 優しくしてるのか、愛してもらえてるのか、そこが気がかりだった。

  お家に上がらせて貰うと、美人で若いお母さんとシュッとしたイケメンなお父さんが出迎えてくれた。

 明菜はわたくしの手を引いて、中を案内してくれた。

 リビングに入ると、お姉さんが拙いながらもギターの演奏をしていた。

「おう、あんたが妹の話に出てた紅葉って子か」

 顔を上げてソファから立ち上がり、わたくしの目の前まで迫り、手を差し出した。

「妹と仲良くしてくれてサンキューな」

 わたくしがその手を握るとニカッと快活な笑顔を浮かべてくれた。

 わたくしの涙腺は崩壊寸前だった。

 前世ではなかったあの子の幸せがそこにはあったのだ。

 わたくしが守りたかったものはこれだ。

 前世で自害した元妹。

 その原因を作った奴らを皆殺しにした時、わたくしの胸は満たされなかった。

 復讐を果たしてもあの子は帰って来ない。

 なのに何故全員殺したの?

 そこに意味はあったの?

 その問に答えてくれる人はいなかった。

 復讐は虚しいだけ。

 それは学習済みではあった。

 だが、もし、この子に酷い仕打ちをしていたら再びこの手を汚すつもりでいた。

 前世で30人ほど殺し、今世で親兄弟を殺す。

 そうしたならば、わたくしは地獄に堕ちて永遠にそこから這い上がれないことを覚悟していた。

 だけど、現在のこの子家族は暖かかった。

 お母さんがいちごのショートケーキを持ってきてくれた。

 手作りだそうだ。

 ケーキ屋さん顔負けの出来栄えにわたくしは大変感動したのを覚えている。

 5人でひとつのホールケーキを食べ終えたあと、お母さんから明菜のことを聞いた。

 この子は捨て子だったそうだ。

 元の両親から捨てられ、児童養護施設に預けられていたそう。

 お姉さんを産んで育ていたが第2子を授けられず、施設にて養子を希望していた時に出会ったそう。

 第一印象は全てを諦めて、全てに絶望していた子だ。

 けど、この子に幸せというプレゼントを贈りたいとこの夫婦は考えて引き取ったようだった。

 最初は部屋の隅に隠れていたが、食べ物やおもちゃで釣って少しずつ愛情を育んでくれた。

 それを聞いてわたくしは涙が溢れた。

 辛いことが沢山あって、神は何を思ったのか、この子に第二の生という拷問をさせて嘲笑っていたのではない。本当の幸せを与えたかったのだ。

 わたくしはこの次元で転生する際、神に出会っていた。

 妹と出会ったらどうしたいか。

 今度こそ、笑顔で人生を迎えて欲しい。

 そのためならなんでもやる。と答えた。

 神はそうならないように計らってくれたのかもしれない。

 この次元ではわたくし達は姉妹ではない。

 ならば、親友としてこの子を守ろうと誓った。

 明菜は自然と明るく笑顔を絶えず見せるようになって行った。

 わたくしは、いえわたくしや義理の家族もそれが微笑ましかった。

 吉原さんや井上さんと出会ったのも大きい。

 彼女たちは、明菜の苦手な自分の気持ちの主張を汲み取って、本当にそれでいいのか自分に正直になるように促してくれたのだ。

 自分の事のように嬉しかった。

 お姉ちゃんは満足だよ。


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