6話
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「あの2人、記憶が戻りかけてますよ」
「ふぅむ、でもしばらくは経過観察でいいでしょう」
「このままでいいんですか?」
「逆に、記憶を思い出したら不都合があるのですか?」
「いや、せっかく仲が良くなってきてる3人の輪が崩れません?」
「あなたは緑葉凜々さんと天野凍子さん、どちらの味方ですか?」
「最初は緑葉さん、いや春川さんの味方でした。でも凍子さん、いや冬子さんも自分の行いを反省して健人ちゃんや緑葉さんと向かい合っています。ですので、2人とも応援してます」
「春川凜々さんのことを想った故に、健人さんには彼女のことを思い出して貰うためにあなたはあえて悪人になりました。何度も彼を殺してまで。
天野冬子さんにアプローチしていたのも、健人さんが緑葉凜々さん、いえ春川凜々さんと過ごした記憶を、そして結婚を誓った想いを取り戻して欲しかったからですよね」
「……はい」
「そして現世でもあえてあなたは天野凍子さんに振り向いてもらおうとした。
でも、あなたは工藤明菜さんを選びました。これはもう彼らは心配ないからじゃないですか?」
「……はい」
「では、彼女、天野凍子さんを信じましょう。大丈夫です。再びあの子があの2人に手をかけるようなら、頭を爆発させますので」
「それ、本気です?」
「はい。ふふふ」
「わかりました。今しばらく、あの3人を見守ります」
「なんだろ、これ?」
朝、凜々と並んで登校し、彼女の下駄箱にて何かがでてきた。
「手紙?」
「手紙だな。ラブレターかもな」
「えぇ……私には健人ちゃんがいるからなぁ」
「可能性としては高いだろ、下駄箱に手紙なんて」
「そうだけど……」
二人で並行して廊下を歩く。
封を開けて中身の内容を彼女は確認する。
「なんだって?」
「昼休み校舎裏で待ってますだって」
「差出人は?」
「えーと、隣のクラスの人みたい」
「バックれちゃえ」
「バックれちゃおうかなぁ?」
「あんたも手紙もらったの?」
凍子が割り込んできた。
「あたしも貰ったわ」
凍子の手にもラブレター。
「ってことは差出人は同じ?」
「見せて」
凜々宛のものを受け取り、これを書いた人を照らし合わせる。
「クラスは同じみたいだけど、それぞれ別人ね。でも場所は同じく昼休みに校舎裏ね。ていうか、このクラスってこの間映画観に行った時に尾行してたお嬢様と同じね」
「紅葉さん?」
「ええ、そうよ」
「それじゃあ、工藤さん経由で聞いてみようか」
ということで教室へ。
工藤さんは雄一郎と吉原さんと井上さんと一緒に現れた。
雄一郎、すっかり彼女の恋人が板に付いてきたな。
「工藤さーん」
「なぁに?凜々ちゃん、天野さんも」
「紅葉さんにこの手紙を渡した人の事聞けないかな?」
「手紙?」
ラブレターを受け取る工藤さん。
「げっ」
工藤さんからは珍しい言葉が飛び出た。
「凜々ちゃん、天野さん。こいつらはやめておいた方がいいよ」
「げっ」「こいつら」工藤さんらしからぬ単語。
「危ない人?」
「女の子の敵」
「やばいわね」
工藤さんにそこまで言わせるってどんな奴らだよ……。
「とりあえず、『絶対』呼び出しには応じないで。健人君、しばらくは彼女達から離れないで」
「お、おう……」
どんな奴らなのか逆に興味が湧いた。
そして迎えた放課後。
凜々と凍子は工藤さんの助言を守り、手紙の主には会わずにいた。
「帰るかぁ」
「そうだね」
帰りのホームルームも終わり、俺たちはカバンを持ち、帰り支度をする。
「緑葉凜々さん!」
「天野凍子さん!」
扉がガラッと開き、男子生徒2人がズカズカと上がり込んできた。
手紙を出して、指定場所に来てくれなかった相手をそのままにしておけない。
その気持ちはわかる。
だから直接乗り込んでくる。
そこまで本気なんだなぁと感心の念を覚える。
「「どうして来てくれなかったんですか!?」」
「私があんたたちは危険だから、行くなって言ったの!」
「「げっ、工藤明菜……」」
「あんたたち『貴女のことが本気で好きです。絶対に離しません』って宣言しておきながら、すぐ別の女の子になびくんだもん。これで両手両足で数え切れない子達のこと泣かせて来たじゃない!どうせ今も既に何股かしてるんじゃない!?」
「「ギクッ」」
「明菜も被害者だもんねぇ」
「捨てられた女代表の言葉」
あー、だから工藤さんこんなに敏感になってたんだ。
「いい!?この子達は既に、健人君って言う大事な人がいるの!あんたたちが出る幕はないの!」
「うん?じゃあこの健人ってやつも二股してるのか」
「俺たちの仲間だな!」
「おいこら一緒にするな、女たらし共」
「んだとぉ!?」
あ、やべ。言葉に出ちゃった。
「じゃあ、今すぐどちらか選べ!」
「凜々」
「即答!?」
「んもう健人ちゃん」
照れってれで体をくねらせる凜々。
「じゃあ、天野凍子さんは頂いていくな」
「馴れ馴れしく肩に手置かないでよ」
凍子が怒りを隠さず肩に乗せられた相手の手を弾く。
あれだ。ノータイムで俺が凜々って答えたのと、凍子に手紙を出した方にチャンスと思われたのが面白くないんだ。
すまんな、凍子。
凜々へのこの気持ちは、そう簡単には変わらないし、何故かお前の気持ちに答えることに拒否反応が起こるんだ。
「健人が凜々のこと好きなのは知ってる」
そりゃあ、周知の事実だもんな。
「でも、あたしは諦めないって誓ったの!あんたなんかに構ってる余裕は無いわ!」
そう叫んで、彼女は男の急所を蹴り上げた。
「#@¥&%$€!?」
声にならない悲鳴をあげてうずくまる。
凍子はと言うと、そのまま走り去っていった。
ダッダッダとどんどん小さくなる足音。
「健人ちゃん、追いかけてあげな」
「でも、俺が追いかけたところで凍子の心をえぐるだけじゃあ?」
「そんなことは無い。想いが届かなくとも、好きな相手が追いかけてくれる。それだけでも救われることもあるさ。多分」
「お、おう」
多分ってお前……。確証がないなら言葉にするなよ。
「それじゃあ私も行く」
「おっと、凜々ちゃんはこれから女子会」
「駅前のカフェでパフェでも食べよう」
「今宵は健人ちゃんに任せるべき」
工藤さん吉原さん井上さんに連行される凜々。
女子諸君は足速に去り、残されたのは俺と雄一郎と乗り込んできた男ども。そして傍観していた他の生徒たちだけだった。
「それじゃあ、俺は凍子追うわ」
「おう、気をつけてな」
雄一郎に手を振り凍子を追いかける。
「凍子!」
我らの学び舎を飛び出て少し走ったところの川原で横になっていた。
「健人」
起き上がり、俺を見やる。
俺は草を踏みつけながら、彼女の隣へ腰を下ろす。
「愛しの凜々ちゃんはいいの?」
「凜々は女子連中に攫われたよ。お前の様子を見て来いって言われたのさ」
「誰に」
「雄一郎」
「それはあんたの意志?」
「半分」
「たったの半分、か……」
「でもお前のことが心配なのは本当だ」
「まっ、今はありがとうってお礼しておくわ」
「おう」
会話が途切れる。
梅雨入り前の空はこれから雨の日々が始まるのが信じられないくらい快晴だ。
ごめん嘘、結構雲あるわ。
上空からはカラスが鳴く声が響く。
「ねぇ健人」
「なんだ?」
「あんたって前世とか信じる?」
「なにゆえ?」
俺からこの話題を振ろうと思っていたが、相手から問われるとは予想外だ。
「実はあたし、前世の記憶あるって言ったら信じる?」
いたずらっぽく笑う幼なじみの従姉妹。
「うん、まぁ」
「歯切れ悪いわね。まっ、いきなりそんなこと言われたってびっくりそうなるか」
「いや、信じるよ」
「意外……!」
鳩が豆鉄砲食らっていた。
「俺もそれっぽい記憶あるからな」
「どんな?」
「俺と凜々がお前に殺される記憶」
「ふーん」
「そういうお前はどんな記憶あるんだよ」
「あんたと雄くんとつるんでる記憶」
「凜々は?」
「あの子はいないわよ」
「なんで?」
「知りたい?」
「おう」
「嫌よ」
「ちょっと待て」
思わず凍子をジト目で睨む。
「教えて欲しかったら条件があるわ」
「なんだよ」
「あんたがあたしのこと本気で好きになったら教えてあげる」
ニコッとウインクする凍子。それに俺はと言うと。
「ボクアナタノコトダイスキ」
「心こもってないカタコトで聞き出そうとするな」
「ちぇー」
「ちぇーじゃない」
ゴホンと咳払いしてから凜々に負けないと宣言した時とは違うが言葉を紡ぐ。
「あんたをあたしのこと絶対好きにさせてやるから」
スクッ。立ち上がる。
俺は呆然としていた。何故か分からない。けど、心のどこかで凍子のことを受け入れられない自分がいたからだ。
「帰りましょ」
「お、おう……」
何故凍子のことを好きになれないのか、それは本当に前世があるなら、そこに答えがあるのだろう。