5話
「なぁ雄一郎」
「なんだ?健人ちゃん」
「お前って前世とか信じるか?」
「なんだよ、急に」
朝、登校してきた雄一郎を捕まえて教室にて問う。
「いやな、俺と凜々、前世の記憶がある気がして」
「ふぅん、どんな記憶だよ?」
「俺と凜々が凍子に刺される記憶」
「ふぅん、それでなんで俺に前世うんぬんって聞くんだ?」
「いや、刺されないように用心しておけって言ったろ?お前」
あっはっはと高笑いの雄一郎。
何事かとみんなの注目する。
「あれはそういう意味じゃねぇよ。たまたま思いついたことを言ったまで。凍子さんが本気でお前らを刺し殺すと思うか?」
「うーん、でも何か引っかかるんだよなぁ……」
「まぁ、なるようにしかならん。本気で凍子さんがお前らに手をだすようだったら俺が全力で止めてやる」
「お、おう。その時は頼りにしてるわ」
「まぁ、今の凍子さんならあの人の目もあるし、そんなことしないと思うがな」
去り際に雄一郎がポツリと何か呟いたのが、よく聞き取れなかった。
うーん、どうにも濁らされたような……。
モヤモヤしたまま自席に戻る。
「どうだった?」
凜々からの問い。
「聞いての通り。なんかはぐらかされたようで釈然としない」
「やっぱり私たちの気のせいかな?」
「うーん、現時点では情報が足りないな。タイミング見計らって凍子と神先生にも聞いてみるつもりだけど」
そこまで話すとガラッと黒板側の扉が開いた。
ボブカットにアホ毛。
凍子だ。
「おはよう天野さん」
「おはよう」
クラスのみんなが凍子に挨拶を交わす。
タッタッタッと俺の隣の自分の席には行かず、凜々の所へ。
「緑葉凜々」
「何よ?」
「あんたは健人が好き?」
「何を今更。好きよ」
「あたしも好き」
「凍子、どうしたんだ?」
2人が俺に好意を抱いているのは知っていたが、改めて、しかも目の前で好き好き言われるのは恥ずかしい。
自分の顔は見えないが、耳まで赤くなっているのがわかる。
「緑葉凜々」
「何よ?」
「負けないから」
それだけ言って凜々に背を向ける。
そして通り過ぎ様に俺の頬に凍子の唇が触れた。
ズキュゥゥゥン!
「なっなっなっ……!?私もまだキスしてないのに!」
「あら?じゃあ、初めての相手は凜々ではない。この凍子よッ!」
「流石凍子さん!俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる憧れるぅ!」
怒られかねないからあんまりネタ挟むなよぉ?
さすがに泥水で顔をすすぐとかやらないからな?
キーンコンカーンコーン。
予鈴がなる。
テキトーに一限の準備するか。
げっ、朝から数学かよ……。
「あっ、健人。教科書忘れたから見せて」
「おう」
ガタガタと右隣の幼なじみと机を合わせる。
ガタガタ。
何故か左隣の幼なじみまで寄せてきた。
「何よ?」
「私も忘れた」
「あんたさっき教科書出してたでしょ?」
「あれは英語の教科書」
シラっと言い切る。
「頼むから喧嘩は程々にしてくれ」
胃が痛くなってきた。
凍子と凜々の教科書忘れた。
は、その後も続き、気がついたら昼休みだ。
俺たち3人は机を繋げたまま、弁当を広げる。
卵焼きにミニトマトに冷凍のグラタンと冷凍の肉団子と冷凍のきんぴらごぼう。
ほぼ冷凍食品だ。
何故かって?
料理スキルが低いからだ。
それに朝に弱いからぱぱっと準備できるもので揃えている。
まるで自分で用意してる物言いだなだって?
うちは父子家庭で父さんは朝に帰ってくることが多い。
遊んでるわけじゃないからな?
あの人夜勤が多いんだよ。
凜々は彼女の祖母特製の手作り弁当。唐揚げとかが美味しそう。
凍子はサンドイッチ。
ちらっと見るにレタスとトマトが挟まれている。
「健人、1口食べる?」
「関節キス狙ってる?」
「あ、バレた?」
「貰いッ!」
凜々が俺の食べかけの卵焼きを口に運ぶ。
「もぐもぐ。ゴックン。あんたより先に関節キス貰ったわ」
「別にいいわよ。ファーストキスは奪えたから」
「くっ……!健人ちゃん!」
うん?凜々の方をむく。
彼女は自身の唇を俺の唇に近づけて来るが……。
「やっぱり無理ぃ!」
顔を赤らめてばっと顔を離す。
「情けないわねぇ」
ニヤニヤと凍子が笑みを浮かべる。
勝者の余裕だろうか?
ちなみに雄一郎はと言うと
「雄一郎君、あーん」
「あーん」
工藤さんと周りを顧みず、イチャイチャしていた。
学年でトップクラスでイケメンな雄一郎と同じくトップクラスの美少女のカップルだ。
絵になりまくる。
みんなが最後列の俺らを羨ましそうに見やる。
視線が痛いです。
「明菜、幸せそうだねぇ」
「そうだねぇ」
工藤さんの友人である吉原さんと井上さんはそんな彼女達を微笑ましく見守っていた。
休日。
いつもより遅めに目覚める。訳には行かない。
前日からタイマーをかけていたので、白米はホカホカだ。
茶碗に1人分盛り付けて、箸で真ん中にクレーターを作る。
そしてそこに溶き卵をシュート。
卵かけご飯の完成である。
「いただきます」
食前の挨拶を済ませて、それを胃の中にぶち込む。
朝食を取り、歯を磨く。
ニーと歯を鏡に映す。
うむ、よく磨かれている。
テキトーに着替えてカバンを持ち、外出の準備を済ませていざ外へ。
「行ってきます」
ガチャ。
鍵を閉めて待ち合わせ場所に行く。
駅前の人工の滝の広場。
この間、工藤さんたちと映画を見に行く際に約束した場所と同じところ。
そわそわ。約束の時間はこの間と同じ10:00。現在時刻は9:54
夏に近づきつつある空は、太陽が照りつけて汗が滲む。
「健人ちゃーん」
「おっ、凜々おはよう」
待ち人の登場。
肩まで届く長い髪にアホ毛。身体に纏いしは白いワンピース。
清楚な服装の凜々。
「ごめんね、待たせて」
「うんにゃ、全然。これであとは凍子だけか」
「あの女の所にはチャイム連打して「起きろー!」って叫んできたから多分間に合うと思うけど……」
本日は俺と凜々と凍子でカラオケ。
本当は雄一郎も誘ったんだけど「明菜ちゃんとデートだから」と断られた。
ショッピングモール行くって話してたもんな、あの二人。
ということで、本日は3人で遊びに行く。
10分経過。
凍子の姿はまだ見えない。
30分経過。
凍子はまだ来ない。
45分経過。
暑い……。
「日陰に移動しよっか」
「おう」
汗が額から頬をつたい、アスファルトに落下。
早く来てくれ。
「ごめーん待った?」
55分経ちようやく現れた凍子。
ボブヘアに凜々と同じくアホ毛。
ショートパンツにアニメ柄のTシャツ姿だ。
「ほんとだよ全く」
「暑くて干からびるかと思った……。熱中症になったらあんたのせいね」
「はぁ!?ここは「今来たところ」って答える場面でしょ!?」
「「そう答えて欲しかったら時間守れ(って)!」」
1時間近く待たされた俺たちは見事にハモった。
「ゆけー胸を張れー」
「戦え上向け涙拭けー」
「ゆけー常勝だー」
「突き刺し切り裂き氷漬けー」
「ゆけー」
「丁寧に終わらせてー目指すーは五つぼーし」
凜々とデュエット。
「願った存在の証明をー」
「こーえを震わせ続けーて」
「ふーりかざしてきーたから」
「後悔はいらなーい」
「手ーをとーりあーって」
「くらーい過去だーって」
「受け止めて進んでーいくー」
続けて凍子とも一緒に歌う。
「ブレイブざああん!」
「ディバイディングドライバー!」
「必殺パワー!サンダーブレーク!」
思い思いに必殺技を叫ぶ。
そんなこんなで時間が過ぎゆく。
「いやー、歌った歌った」
「もう声ガラガラ」
「やり切ったわねぇ」
1人オーディション受かった時の物言いだった。
フリータイムで、4時間程3人で歌い倒した。
「これからどうする?」
「理由ないけど、ショッピングモール行きたい」
凍子が言う。
「雄一郎君達に会ったらどうしよう?」
「その時はその時よ」
「飯もまだだし、昼食がてらでかい店内うろつくのもありだな」
「じゃあ、けってーい♪」
そうして某ショッピングモールへと足を踏み入れた俺たち。
配られるティッシュを華麗にスルーして、フードエリアへ。
席を確保する。
混んでいたが、何とか3人分のスペースを確保出来た。
俺たちはみんなハンバーガーのセットを頼む。
席につき、3人でそれにかぶりつく。
溢れ出る肉汁。
キャベツのシャキッとした食感。
アクセントに入れられたピクルスの酸っぱさがまたいい。
「この後どうする?」
「ゲーム見て、漫画見て、ラノベ見て、プラモ見て、ゲーセン寄って」
凜々の溢れ出る提案。
まだまだここに居着くことになりそうだ。
「ふぅ、楽しかったー」
「クッションとかフィギュアとか取れたし大満足だね」
「あんたなんでこんなに取れるのよ?」
「経験の差?」
「ムカつく言い方ね」
「コラコラこんな所で喧嘩はやめなさい」
喧嘩腰になる彼女たちをなだめる。
時計は見てないが、夕暮れだ。
「帰ってフィギュア飾らないと」
「あそこにさらにコレクション増えたな」
「うん!」
「ほんと凜々はオタクねぇ」
「凍子だってノリノリでアニソン歌ってたじゃない」
この間の凍子の負けない宣言にてこの2人は名前で呼ぶことがチラホラ出てきた。
理由はどうあれ、少しでも仲が良くなるんならいいことだ。
「それじゃあ、また週明けねー」
「おう、また後で連絡する」
「健人、あたしには?」
「お前にもな」
「待ってるから」
「おう」
こうして俺たちは別れた。
「楽しい休日だったなー」