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3話

「私はスパイよ?私と共に生きるということは、あなたも陽の光を浴びれないわ」

「構わない。君と一緒なら」

「そう、なら行きましょう」

 fin


 スタッフロールとエンディングが流れる。

『甘い蜜にはご注意を』

 通称、甘蜜(かんみつ)の上映が終了する。

 映像が流れ終わり、場内にライトがつく。

 1人、また1人と座席から離れて映画の終わりを実感させる。

「俺達も行くか」

「そうね」

「いやー、思った以上に楽しめたな。ね、工藤さん。工藤さん!?」

「グッス……えっぐ……何度観ても泣いちゃう」

 工藤さんが号泣していた。

「初めてじゃなかったの!?」

「うん、3回目」

 ガチのファンだった。

 内容をざっくり説明すると。

 ヒロインのシャルティエは女スパイだ。

 ハニートラップであらゆる相手を骨抜きにして情報を盗んでいた。

 主人公のハイエスは偶然にも彼女の正体を知ってしまう。

 女スパイと軍の司令官。

 立場上相容れない2人が恋に落ちていく。という内容だ。

 映画では二人の逃亡が始まりを告げるところで終わった。

 原作ではこのあとも続くが、映画では締めよくここで終わりだ。

「まぁ、いいや俺達も行こうぜ」

 感動の涙を流す工藤さんをなだめつつ俺たちは外へ出る。

 時刻はちょうど昼過ぎだ。

「なんか飲みたーい」

「俺もなにか食いたーい」

 凍子と雄一郎の要望。

「ファミレス行くかー」

「あはは……賛成」

 俺達は近くのチェーン店へと入る。

 店内に入店し、4人がけの席に案内される。

 俺と凍子。

 雄一郎と工藤さん。

 が隣通しに座る。

「いやー、しかし面白かったな。最後シャルティエがハイエスを助けてお互いの意識を確かめ合って二人で影の世界で生きる。いやー良かった良かった」

「あたしはハイエスが自分の部下を撃ってシャルティエを助けるシーンが印象深かったわ」

「俺はシャルティエのガンカタがかっこよくて魅入ったな」

「私はやっぱり部下がハイエスに「シャルティエ騙されてる」って忠告しても一途に想い続けて私も誰かにこんなふうに大事にされたいって思ったよ」

 チラ

 雄一郎を見やる。

 あーあ、完全に雄一郎に惚れてるよ、この子。

 当の本人もその視線に気づきバツが悪そうだ。

 凍子にアタックし続けるか、工藤さんの想いに応えるか。

 どうするんだろうね。

 ズゴゴ。

 あ、メロンソーダ無くなった。

 氷だけになったドリンク。

「ジュースおかわりしてくるわ」

 氷だけになったグラスを手にする。

 ひんやりと冷気をまだ纏っていた。

「俺も行く」

 雄一郎が便乗する。

 二人で並んでドリンクバーへ行く。

「なぁなぁ健人ちゃん」

「うん?」

「俺どうしたらいいと思う?」

「彼女をその気にさせた責任を取るか、キッパリ断るかの2択だろ」

「健人ちゃんも、緑葉さんと凍子さんに板挟みにされてるだろ?傍から見ると緑葉さんに想いが傾いてるけど、凍子さんを無下にしていない。なんで?」

「俺もよく分からん。けど、お前と凜々と凍子。俺たち4人で今までつるんで今更1人だけ仲間はずれは可哀想だろ」

「仮にどちらか選ぶってなったら?」

「凜々」

「ブレないねぇ。俺が心配する必要はもう無さそうだな」

「なんて?」

 後半が上手く聞き取れなかった。

「末永くお幸せにって言ったの。俺もどうするかねぇ」

「俺からアドバイス出来ることは1つ」

「何?」

「千○*万花の廉○郎みたいになりたくなかったら、どちらかに集中しろ」

 その言葉にキョトンとした後、二カッと笑みを浮かべた。

「サンキュー。想い固まったわ」

 迷いの晴れた屈託の笑み。

 そう言い残し、コップいっぱいになった炭酸飲料を手に俺を置いてしまった。

 俺も遅れて後に続いた。

 席に戻ると。雄一郎が工藤さんと先程までとは打って変わって彼女に集中していた。

 どうやら相手は工藤さんに決めたらしい。

「次の休みの日、ショッピングモールに行きたいんだけど、いいかな?」

「りょーうかい。荷物持ちは任せてください」

「ねぇねぇ健人」

 凍子が俺に耳打ちする。

「うん?」

「あんた雄くんに何吹き込んできたの?」

「ギャルゲーの女たらしキャラになりたくなかったら、お前かその子どちらかに絞れって言っただけ」

「ふーん」

 ストローを通してコーラを摂取する凍子。

 その目は不服そうだ。

「嫉妬したか?」

「別に。案外簡単に乗り換えられたなぁって思っただけ」

「人それを嫉妬と言う」

「今日は飲むわ」

「仕事でストレス溜まったOLみたいだな」

 俺は思わず、苦笑いを浮かべてしまう

「付き合いなさいよ、健人」

「はいはい」

 凍子は背後を一瞥し、ニヤリと笑みを浮かべた。

 俺もつられて目線を移す。

 ああ、そういう事か。



 side凜々

「むー、あの女と健人ちゃん、そこそこいい雰囲気。羨ましい……」

 朝、あの女を健人ちゃんたちのところに送り届けて、帰るフリをしてバレないようにあとを付けてたしていた私。現在はみんなファミレスに入り仲良く映画の感想会を開いていた。

 くっ……!楽しそう。私も混ざりたい……!

 けど今日は接触禁止だし……。

 別にルール破ってもいいのだけれど、あの女絶対マウント取ってくるし……。

「あっ、やっぱり緑葉さんだ」

 健人ちゃん達の席を凝視していると声をかけられた。

「あ、えっと……クラスメイトの」

吉原(よしはら)でーす」

「井上。よろしく」

「うん、よろしくお願いします。そして、えっとそちらの方は?」

 いま名乗った子達は工藤さんと仲がいい子だ。

 そして、3人目の女の子は初めて会った。

 私と同じくらいの腰まで届く長い黄金(こがね)色の髪を三つ編みでひとまとめにしている少女だった。

「ご挨拶が遅れてすみません。私は明菜(あきな)の親友の紅葉(くれは)と申します。クラスが違いますのでお会いするのは初めてですよね」

「あっ、ハジメマシテ。緑葉凜々です」

 品の良さそうなお嬢様のようだ。

「明菜って工藤さんのことだよね?」

「うん、今日のこと話したら、紅葉さんが星野君のこと知りたいって言って、こうして尾行してたの。緑葉さんも同じような理由でしょ?」

「うん、まぁ……」

「あっ、せっかくだし相席いいかな?」

「ドウゾドウゾ」

「緑葉さん、肩の力抜いて」

 井上さんが緊張してる私に向かってリラックスを促す。

 吉原さんと井上さんはテーブルを挟んで私の向かいの席。

 紅葉さんは私の隣に腰を落ち着かせる。

「4人は映画の話で盛り上がってるね」

 吉原さんが観察を開始する。

「明菜の隣に座っている殿方が星野雄一郎さんですか?」

「うむ」

「ふーむ、明菜と向かいの天野凍子さんとおっしゃいましたか?どちらかを選びきれていない歯切れの悪い態度ですね」

 減点食らってるよ雄一郎君。

「明菜も男性を見る目がありませんね」

 ムッ。

 優柔不断だけど、根はいい人なんだよね。雄一郎君は。

「そこだけ」切り取っての判断はして欲しくないなぁ。

 雄一郎君に気がある訳じゃない。

 まだ言葉も交わしてない相手を「そこだけ」で相手のことを理解するのは不可能。

「そこだけ」しか見てないのに、判別して欲しくない。

 イラッとして水の入ったコップをグイッと飲みこむ。

「あっ、健人くんと星野くんが席立った」

「ジュースのおかわりかな?」

「そのようですわね」

 男二人で何事か話してる様子。

 やがて雄一郎君がニカっと眩しい笑みを浮かべて健人ちゃんを置いて先に席に戻った。

「おっ?」

「ふむ」

「まぁ」

 なんと不思議、さっきまで工藤さんとあの女の間で気持ちが揺れ動いていた雄一郎君が、工藤さんに一直線になった。

 健人ちゃん何吹き込んだんだろ?

 気になる。

 でも不用意に連絡取れないし、もどかしいなぁ。

 凍子が飲み物をやけ飲みし始めた。

 そして、あの女がチラリと一瞬だけ目線を向けた。

 そしてニヤッと口角をあげる。

 健人ちゃんも何事なと私たちの方を見やる。

 あの二人絶対気づいた……!

「ねぇ君たち、女の子だけ?」

 もどかしさでムムムとなっていた私に、いや私達にチャラそうな男性二人が声をかけてきた。

 シーン。

 3人は慣れているのか無視を決め込む。

「そんな顔しないで俺たちと遊ぼうぜ?」

「結構です」

「今日は女子会」

「男性はお呼びではありません」

 シラー。

 ムスー。

 ニコー。

 男の人のあしらい方慣れてるなぁ。

「ははっ、そういう所も可愛いね」

「許可なく隣に座らないでくださいます?」

「君の承諾必要なの?」

「少なくとも今は(わたくし)達が使わせて頂いてるので、決定権はあるかと」

「ねぇ、黙ってる君も同じ意見?」

 1人が私の腕を掴む。

 恐怖で声が出ない。

「あっ……えっと……」

 怖い……。

 助けて、健人ちゃん。




「ちょっと!気安く触らないであげてよ!」

「いいじゃんいいじゃん」

 ザワザワと騒がしくなる店内。

 俺はその原因がわかっていた。

 最初はスルーを決め込むつもりだったが、凜々の腕を掴み、凜々の頬から流れる涙で、俺の怒りは頂点に達した。

 気がつくと俺はそいつらにズカズカと近づく。

 そして凜々の腕を掴んでいたその手首を握る。

「あの、うちの幼なじみからその汚い腕離して貰えます?」

「はぁ?誰だテメェ!」

 凜々たちとの態度が一変。

 睨みつけて叫んでくる。

「うちの幼なじみ、いや、俺の彼女に手を出すなって言ってんだよ!」

 俺もそれに応対し、叫び返す。

「チッ男持ちかよ。行こうぜ」

「おう」

 大股で去っていくチャラ男たち。

「健人ちゃーんっ!」

「うわっ!?」

 抱きつく凜々。

「怖かった……。怖かったよぉ……!」

「もう泣くな。もう大丈夫だから」

 胸に埋められた頭を撫でる。

「ひゅー、流石健人ちゃん。かっこよかったぜ」

「あはは、とにかく無事で良か……。なんでいるの!?」

「工藤さん知り合い?」

「うん友達ABC」

「括るな」

「酷い」

「私は親友です」

「はいはい、後で問い詰めるから」

 っていうか良く見たら同じクラスの女子ズだ。

 1人知らない子混じってるけど。

 しばらくして落ち着いた凜々。

 ゲームのことは忘れて、その後は8人で楽しい休日を過ごした。

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