凜々ルート最終話
「健人ちゃん健人ちゃん!」
朝、凜々の声で目が覚める。
「おはよう、凜々」
ゴシゴシと自らの目元を手で擦る。
「呑気に挨拶してないで、朝ごはん食べて支度して」
「おう、明と風子は?」
「あの子達ならもう学校行ったよー」
あれから20年くらい時が経った。
俺と凜々は高校卒業後、即入籍。
やっすいボロアパートを借りて二人で暮らしていた。
仕事は大変だったけど、凜々とお腹の赤ちゃんのために必死に頑張った。
その結果、社内で評価されてぐんぐん昇進。今ではそこそこ有名な会社の幹部だ。
今ではマイホームを買って、家族は2人から4人に増えて穏やかに暮らしていた。
目がしばしばしたまま洗面所に向かう。
バシャアと流水で洗顔をしてバッチリ目を覚ます。
「はい、どうぞ」
コトっと朝ごはんが配膳される。シンプルにベーコンエッグだ。
「いただきます」
両手を合わせて食前の挨拶をする。
「聞いた?明、恋人が出来たんだって」
「どうせまたすぐ別れるだろ」
長男、明はイケメンでかなりモテる。
ただ、女難の相で長続きしない。
被害妄想が激しかったり、俺の財目当てで近づいたり、ヤンデレ気質だったり、なかなかいい女の子と巡り合わない。
「今の彼女と私、この間会ったよ」
「どんな子だった?」
「気が強い子だったよ」
「それはまた面倒くさそうな……」
つぶやき、ウインナーを口に運ぶ。
「けど、歩道を渡るのが大変そうなおばあちゃんをおんぶして渡らせてあげたり、この間なんて募金活動してたよ」
「へぇ、ってもしかしてニュースになってた娘か?」
「あ、わかった?SNSで話題になって大バズりした子」
「そりゃあまたすごい子に目をつけられたな」
「うん、入学式で声かけられて、何故か気になったんだって」
「へぇ、一目惚れってやつか?あいつ、恋愛は奥手だから悪い奴からアプローチされて散々酷い目見たからなぁ」
それについては今は割愛。
「それでその子の名前は?」
「井上一架ちゃん」
「ふぅん、明が帰ってきたら、その子のこと聞いてみるか。それで風子は?」
話題を長女に変える。
「あの子はようやく1人友達が出来たよ」
「おっ、それはめでたい。今日は赤飯だな」
明は積極的に他人に関わりに行く反面、風子は人見知りが激しい。
引っ込み思案で自分の意見を口にせず黙り込んでしまう子だ。
いじめられて不登校になった時はどうなるかと思ったが、ようやく友達が出来たのか。
「明の受験が終わったと思ったら、今度は風子の受験だもんね」
明と風子は年子だ。
明はこの春から高校生になったばかり、風子は今年度が受験だ。
「風子はどこの学校受けるんだ?」
「三ツ橋学園だって」
「明と同じ場所か」
偏差値がかなり高い場所だ。けど、明も風子も成績は良いから行けるだろ。ていうか明はもう入学してる。
「俺の心配事はひとつ」
「何?」
「風子のブラコンはいつ治るんだ?」
そう、風子は先程言ったように人見知りが激しい。
ガンガン喋れるのは兄貴である明の前だけだ。
外に出ると借りてきた猫のようにビクビクする。
「明も気にはしてるよ。『いつまでも俺がそばにいてやることはできないんだぞー』って。そしたら風子、なんて返したと思う?」
ジャー、カチャカチャと食器を洗う音が響く。
「『お兄ちゃんのことは地獄の果まで追いかける』とか?」
「ほぼ正解」
「まじか」
「まじ」
朝食を胃の中まで運び、席を立つ。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまです」
「さて、俺もぼちぼち仕事行くかー」
玄関まで歩を進める。
「…………」
「どうした?」
「行ってきますのチューは?」
「はぁ……」
目を閉じて唇を突き出す凜々。
俺はそっと自分の唇を重ねた。