凜々ルート1話
凜々を助ける
俺は咄嗟に凜々を庇った。
凜々を押しのけて、その衝撃で尻もちをつく凜々。
「痛っ」
彼女を狙った刃は、俺の腹部を軽く擦れる。
破れた制服からは血が軽く流れて、ズキっと痛む。
切られた部位を抑える。
軽く薄皮が1枚やられた程度で、臓器には問題なさそうだ。
「凍子、なんでこんなことを!?」
「うるさい!あたしは元からこいつが嫌いだったの!それなのに、邪魔者がもう一人増えて、あんたはあたしに振り向いてくれない!だったらこうするしかないの!」
涙声で叫び散らす凍子。
涙は頬を伝い、コンクリートへとこぼれてそこに跡を残す。
こいつが俺のことを好きなのは当然知っている。けど、それでも俺は……。
「ごめん、凍子、紅葉さん。2人が俺に好意を示してるのは知ってる。だけど、俺が本当に好きなのは凜々なんだ。2人の気持ちには応えられない」
「っ!?」
キンっ!
ショックを受けた凍子はナイフを乱暴に投げ捨てて、ダッダッダと屋上から走り去っていった。
凍子を追うべきだろうか?
いや、今追いかけても火に油を注ぐだけだ。
それよりも今は。
「凜々、無事か?」
「健人ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして、ごめんな、押し倒して」
「ううん、助けてくれてありがとう」
凜々に手を差し伸べる。彼女は俺のその手を掴み、立たせる。
「えへへ、健人ちゃん」
「うん?」
「私もあなたが好き」
照れた表情で、凜々からの直球の返事。
勢いで凜々を好きだと言った自分の姿を思い出して、かぁっと顔が赤くなるのが、自分でもわかった。
「わたくしは邪魔ですね」
紅葉さんがそう言い残して、彼女も去っていく。
「…………」
「…………」
二人で見つめ合う。
照れてしまってかける言葉が見つからない。
「健人ちゃん」
「う、んっ!?」
凜々が俺の唇に自身の唇を重ねた。
時間にして10秒くらい。体感は1分くらい。
凜々から離れるまで、キスをしていた。
「これからも一緒にいてね」
紅く染った頬のまま、照れた笑みを浮かべる。
「こちらこそ、よろしくな」
「うんっ」
学園祭から数日後、まだ祭りのテンションが残って浮かれてる生徒たちは多い。
心無しか、男女で手を繋いで登校している生徒たちが増えた気がする。
まぁ、俺達もその一組だけど。
「えへへー、健人ちゃん」
「うん?」
「好きー」
「……俺もだよ」
当然のように俺たちは正式に付き合い始めたが、人前で好き好き連呼されるのは照れてしまって、左手で自身の頬をかく。
「ほんとにー?」
ジトーと上目遣いで疑いの眼差しを向ける。
「その、あれだ。大勢の前で好きって言われると、こそばゆいっていうか……」
「じゃあ、またキスしよー。今度は、大人がやるやつ」
「2人っきりの時にな」
「約束だよ?」
「おう」
あれ?この約束、安易に受けていいものじゃないよね?
気づいた時には時すでに遅し。凜々は満面の笑みで「2人っきりの時に、キースキース♪誰の目のない時に邪魔されずにー♪」とウッキウキでオリジナルソングを熱唱していた。
そんな恋人を横目で見ながら、俺はポツリとこぼした。
「守れて、良かったよ」
「何か言ったー?」
「恋人になった瞬間、わがままになったなって言っただけ」
「私ってもしかして重い?」
ずーんと表情が強ばる。
「いや、そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味!?」
「…………可愛さが増したなって意味………」
顔が暑くなったので、凜々とは反対方向を向く。
「健人ちゃん……」
「うん?」
お互い、相手の顔を見ない。
「これから先もよろしくね」
「……おう……」
こうして学校につくまで俺たちは無言だった。