凍子ルート2話
side凜々
屋上から去っていったあと、私は人の出入りがほとんどない空き教室で涙を流していた。
「うわーん!えっぐ、ひっぐ」
原因はお察しの通り、健人ちゃんが凍子を選んだからだ。
ずっと彼が好きだった。
私も前世の記憶を取り戻していた。
『大きくなったら結婚しよう』
そう告白を受けて私は受け入れた。
そして、その後は神先生が語った通りだ。
結局過去でも現在でも凍子には勝てなかった。
彼とずっと一緒にいたかった。
彼と幸せになりたかった。
安寧な願いはシャボン玉が弾けた様に儚く散ってしまった。
「そうだ凍子、これ」
「なにこれ?」
「ライオンだ」
「見ればわかるわよ」
「プレゼントだ、お前に」
先程手芸部で買ったライオンの羊毛フェルトを凍子にあげた。
ポカンとした後。
「ありがと、大事にするわ」
満面の笑みを浮かべてくれた。
「とりあえず、学園祭周るか」
「いいわよ。恋人になった以上恥ずかしいくらいイチャつきましょ」
凍子と学園祭を回る。
お好み焼きの屋台や劇を観賞した。
とても楽しかったが、凜々のことが気がかりだった。
「あれ?健人君、天野さんと周ってるの?」
クラスメイトとエンカウントした。
「まぁ、うん」
「手なんか繋いじゃってもしかして緑葉さんじゃなくて天野さんを選んだの?」
「まぁ、うん」
凜々への後ろめたさと、遠回りでも付き合ってることを示唆されると照れてしまって頭を搔く。
「へぇ、まさかねぇ」
ニヤニヤと笑みを浮かばれる。
「賭けはわたしの勝ちかぁ」
「賭け!?」
「あっ、やばい忘れて」
パタパタと駆け足で去っていった。
賭けられてたのか。
なんともいたたまれない気持ちである。
「多分広めるわね、あの子」
「だろうな」
去っていく背を見て苦笑するしか無かった。
さて、学園祭も終わり、通常の日常が戻ってきた。
「凜々、おはよう」
「……おはよう……」
凜々の元気がない。
当然と言えば当然だが、俺は元のように笑い合いたい。けど、この様子じゃあ難しそうだ。
「健人ちゃん、ちょっと付き合え」
雄一郎から声がかかる。
俺たちは人気のない空き教室に踏み入る。
「なんで凍子さんを選んだ?」
開口1番疑問をぶつけられる。
「前世の記憶を思い出したからだよ」
「あれは偽りの日々だったろ」
「たとえ凍子が仕組んだことでも、アイツと過した日々は本物だ」
「お前らが楽しく過ごしてた時に緑葉さんがどんな想いだったかわかるか!?」
「それは、なんとなく想像はできる。けどなんでお前は凜々の肩を持つんだ?」
「好きだったからだよ!けど、あの子はお前といた方が幸せそうだった!だからお前ならいいと思ったんだ!」
二人で怒声をぶつけ合う。
「なら工藤さんじゃなくて凜々と付き合えばいいだろ!」
「それは……!」
「迷うくらいの薄い想いなら俺たちにとやかく言うな!」
「この!言わせておけば……!」
掴みかかってくる雄一郎。
それは悲痛の叫びで止められた。
「雄一郎君やめて!」
工藤さんが間に入る。
「雄一郎君の気持ちは聞いたよ。私達別れよ?」
「なんでだよ!」
「前世の記憶云々は分からない。けど、凜々ちゃんのことを好きなら私は雄一郎君の気持ちを優先したい」
「俺じゃあダメなんだよ!」
「なんで決めつけるの!?凜々ちゃんに気持ちを伝えるべきだよ!」
「……………………少し時間をくれないか?」
「うん、気持ち整理したら答えを教えて」