11話
「木下ぁ、何度も伝えてるよな?『自分で何とかしろ!』俺は忙しいんだ!」
数日後、木下君が紅葉さんの指示通り、担任の先生の発言を録音して持ってきた。
場所はこの間の喫茶店だ。
「あ、神先生、今度ご一緒に夕飯いかがですか?」
「先生は妻子持ちでしたよね?」
ついでに我らの担任、神先生のナンパもしていた。
「完璧です。ありがとうございます」
「……それでこの後は……?」
おずおずと質問する木下君。
「まず、『自分で何とかしろ』という発言は抑えたので、言われたとおり、何とかしましょう」
「具体的には?」
「そうですねぇ、こういうのはどうでしょうか?」
紅葉さんが反撃についての提案をする。
「紅葉さん、これマジでやるの?」
「はい」
ニコー。と笑顔が相変わらず怖かった。
「夏休みの間にわたくしがサポート致します。健人さんはしばらく自由になさってください」
「いいんですか?」
「はい」
どうやらしばらく御役御免らしい。
夢を見ていた。
遠い記憶、でもどこかで体験した記憶だ。
「健人、今日は一緒に帰ろ♪」
「おう、いいぞ。冬子」
クソ暑い夏の日だった。
二人で並んで、帰路に着く。
途中でスポーツドリンクを彼女が自販機で買い一口飲んで俺に差し出した。
「関節キスになるだろ?」
「いいじゃない、あたしたち恋人なのよ?」
恋人どころか婚約者である。
まぁ、熱中症になって倒れる訳にはいかないか。
ありがたく頂戴する。
「ゴクゴクゴク。ぷはぁ、生き返るー!」
「飲みすぎよ。まったく」
ひと口どころか、結構喉に通してしまった。
冬子に愚痴をこぼされつつ、一緒に帰宅途中に見慣れた女の子の姿があった。
春川凜々だ。
俺を殺そうとした張本人。
正直憎い相手だ。
彼女はとても暗い顔をしていた。まるで家に帰るのを拒むように。
あいつの場合、家ではなく施設だが。
「あの子、施設でいじめられてるんだって」
「へぇ、それは可哀想に」
皮肉にもそういうしか無かった。
なんだ?この記憶。寝起きでぼーっとする頭で考える。
ダメだ。思考が回らない。
「♪〜♪〜♪」
通話を知らせるメッセージ音がなる。
相手は凜々だ。
迷わず出る。
「もしもし?」
「ねぇ、健人ちゃん」
「うん?」
「最近紅葉さんと何してるの?」
夏休みも佳境へと差し掛かった時、凜々から通話で質問を受けた。
「別に。人助けだよ」
「人助け?」
「そう。いじめられてる相手をどうにか助けようって思ってな」
「そっかー、私も乗っかっていい?」
「ダメ」
「なんで!?」
「相手は暴力を振るうんだぞ。危険すぎる」
「どうして私を仲間はずれにするの?」
「違う」
「違くない!」
通話越しの凜々が怒鳴り声をあげる。
「私は健人ちゃんの力になりたいの!」
「………………」
しばし考える。
わしゃわしゃと髪を掻きむしり、凜々に伝える。
「危険なんだぞ?」
「大丈夫、何かあれば健人ちゃんが守ってくれるって信じてるから」
「はぁ……紅葉さんには俺から伝えとく」
「うんっ!」
はじける笑顔が咲いたのが通知越しでも届いた。
side???
「健人ちゃんたち、何やら動き始めましたよ」
「そのようですね」
「俺も行動に移しましょうか?」
「あなたは何がしたいのです?」
「それは……」
「健人さんは徐々に前世の記憶が戻りつつあります。それがまずいことでも?」
「それじゃあ、春川さんの、いや緑葉さんとの距離が空いてしまったら?」
「あなたの緑葉凜々さんを想う気持ちはわかります。でも、あなたは観測者。下手に行動するものじゃありません」
「だけど……」
「あなたは何を恐れているのですか?凜々さんが孤立して、健人さんが再び凍子さんに盗られることですか?」
「…………」
「もうしばらく辛抱を。私の読みでは天野凍子さんも何やら不穏なので」
「凍子さんが……?」
「ええ……。悪い方にことが傾かないといいのですが」
夏休みが終わった。
うちの学校には弁論大会というものがある。
各学年各クラスに数人代表を募り、弁論を書き上げ、発表するということだ。
勘のいい人ならお気づきだと思う。弁論大会で木下君がいじめっ子、担任の先生の悪事を全校生徒にカミングアウトするのだ。
そのために木下君自らがクラスの代表に立候補したのだ。
最初は驚いたクラスメイト一同だったが、めんどくさい役割を押し付けられるとなるとみんなが認めてくれたらしい。
ちなみに、この弁論大会は他の生徒が発表者のサポートを出来ることになっている。
つまり、ボイスレコーダー持ち込んで、全校生徒・全教師に知れ渡らせることが出来るのだ。
「続いて、木下敦君」
「はっはい……!」
生徒会の呼び出しに答える木下君。
「緊張してますね」
「そうですね。全校生徒、全教師の場でいじめの暴露をするのです。誰だって緊張します」
木下君はぎこちない足取りで壇上へと上がる。
ガチガチに震えながらも一礼する。
「僕のクラスメイト」
始まった。
「僕は、こんな体型で自分の意見を伝えるのが苦手です。そのため、いじめられています」
ザワザワ、体育館がざわめき出す。
「いじめの主犯格は井ノ原優太、柿原勝利です」
人物指定でさらにざわめきが増す。
「主に机に落書き、女子の私物を僕の机に仕込んで犯人扱いされてきました」
「待てや木下ぁ!」
怒号が響く。
「俺らのこと悪く言うが証拠はあるのか!?」
恫喝が体育館に木霊する。
「それに関してはわたくしが」
スっと手を上げる紅葉さん。
「あぁん!?」
「お前はもしや……!?」
木下君にならい壇上へ上がる。
一人は紅葉さんを見て、何かに気づいた。
それを気にもとめず、スカートのポケットからボイスレコーダーを取り出す。
『夏休み開けたら、木下へのいじめどうする?』
『そうだなぁ、落書きも変態扱いも飽きたし。弁論大会でさらし者にするってのはどうだ?』
『ははっ、そりゃあいいな』
どこで録音してきたのか、2人のやり取りがマイクで流される。
「てめぇ、工藤紅葉だな!?」
「ええ、そうですよ」
「なんだってそんなやつの味方する!?」
「うーん」
顎に手を当てて考える仕草をする。
「あなた方が覚えてるかわかりませんが、あの事をわたくしは未だに恨んでるので」
多分前世のことを言っているのだろう。
「てめぇ、やっぱりあの時の……!」
「反省の色はなしと」
「待て待て!」
止めに入ったのは木下君たちの担任だ。
「こんなことでいじめをバラすのは可哀想だろ!?」
ピッ
『木下ぁ、何度も伝えてるよな?『自分で何とかしろ!』俺は忙しいんだ!』
「何とかしろと申したのは先生ですよね?」
「ぐっ、俺は木下に言ったのであって、君には支持してないぞ!」
「木下さんがわたくしに相談してわたくしがボイスレコーダーを渡しました。木下さんがご自分で何とかする手助けをしたにすぎません」
「ぐっ……!」
黙る先生。
「そこまでにしたまえ!」
割って入ってきたのは校長先生。
「木下君と言ったね。まずは君の勇気ある行動に拍手を」
ぱちぱちと校長先生が拍手をする。
「いいぞー!木下君!」
「私達は君の味方だよ!」
俺と凜々が盛り上げる。
わー!よくやった!
などと歓声と共に拍手はどんどん大きくなっていく。
「さて、君たちの処分は後で考えるとして、今は学校行事の途中だ。木下君、続きを」
「はっはい!」
こうして木下君は弁論を読み上げ、拍手喝采でいじめっ子たちへの復讐は終わった。
side凍子
なんで?なんであたしをそこへ呼んでくれないの?
なんでいつも隣には凜々(あの子)がいるの?
なんであたしは除け者なの?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!!!!!!!
気が狂いそうなほど、あなたが好きなのに!!!!!
こうなったら……!




