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10話

「さて、作戦会議をしましょう」

 翌日、コテージの2階の一室にて工藤紅葉さんと向き合っていた。

 ほかのメンバーは、海に行ったり、バンド練習したり。

 ベットが4つ2列に別れて並んでいる。

 扉側の右側に紅葉さんが腰掛け、俺はその向かいのベットに紅葉さんに習うように腰掛けていた。

 階下からはギュイーン!

 ダッダッダ、バーン!

 などバンド練習の音が響く。

「作戦会議と言っても具体的に案はあるんですか?」

「とりあえず、名前は割れております」

「ふむふむ」

「井ノ原優太(いのはらゆうた)柿原勝利(かきはらかつとし)。聞き覚えはありませんか?」

「あー……」

 今名前が上がったやつらは、学校で不良のレッテルを貼られている。

 曰く、見よう見まねで関節技を決めて相手の骨を折り、曰く、肩がぶつかっただけで相手を殴り飛ばす、ちょっとやばい奴らだ。

「でも、前世の記憶が戻ってるなら、真っ先に紅葉さんに復讐に来るのでは?」

「彼らは、わたくしが殺した子の中でも狡猾な思考の持ち主です」

「一際ヤバいやつらってことですね」

「前世の明菜が仰ってましたが、彼らは児童養護施設出身だったそうです」

「はぁ……?」

「そこで毎日のようにいじめてる相手を武勇伝のように語っていたそうです」

「へぇ……?」

「いじめられていた相手の名は春川凜々さん」

「……はぁ!?」

 春川……凜々……!?

 緑葉凜々と似ても似つかない名前だ。

「偶然だと思いますか?」

「偶然にしては出来すぎてますね」

「でしょう?わたくしも彼女と出会ってびっくりしました」

「その春川凜々とやらが、俺の知る緑葉凜々として、今後イジメの標的にされる可能性は?」

「大いにあります。だから健人さん、あなたの力が必要なのです」

 俺は凜々を守れて、紅葉さんは明菜さんを守れる。そして前世での悪縁も断ち切れると。

 win-winには思える。

 俺は凜々にはいつまでも笑っていて欲しい。

「問題はどうすれば、相手をおびき出せるか。ですね」

「そこはわたくしが餌になります」

 え!?

「いくらなんでも危険です!」

「100も承知です。わたくしがあなたがたを巻き込む以上、わたくしがあなた方に負担を必要以上にかけない。それがわたくしに覚悟です」

 撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけだ。

 とあるアニメにあるセリフだ。

 同時に、始末される覚悟で臨む気概を感じる。

 工藤紅葉、俺の想像を遥かに超える強い意志を感じる女性だ。

「黄金の精神ほどではありません」

「心読まないでくれます?」

「ふふふ」

 笑みがこぼれる。

「具体的にはどうするんです?」

「1つの案としては、わたくしが犯されること」

「却下ァ!」

「何故ですか?」

 ほぇっと、不思議そうな表情を作る。

「もっと自分を大切にしてください!」

「わたくしが犯される現場をあなたが撮影すれば、社会的死を与えるにはちょうどいいかと」

「ダメですダメです!相手は暴力で自己主張するんでしょう?逆上したら俺もですが、あなたも危険なんですよ!?」

「……心配してくださるのですね……」

 ボソッと一言。

 あれ?ちょっと頬を紅く染めないでくれます?

「コホン」

 咳払いをして頬をかいてから軌道修正する。

「相手を極力刺激せず、おびき出す方法何かありますか?」

「いじめられてる相手の味方をするとか」

「またいじめてるんですか!?」

「はい、男子生徒に手を出してるらしいですよ」

 いじめが原因で殺されたのに懲りないなぁ。

 ふぅっと息を吐く。

「バカは死んでも治らないものです」

 バタン!ドアが勢いよく開いた!

「健人ちゃん早く海行こうよ!」

 水着姿の凜々が入ってきた。

 その顔には静かに紅葉さんと2人きりにはさせないと語っていた。


「右!右!」

「左!左!」

 俺たちは砂浜にてスイカ割りをやっていた。

 凍子が目隠しをしてスイカに向かっているのだが、間違いなく凜々は誤情報を指示していた。

「凜々の指示はアテにならないとして右に向かえばいいのね」

 さすがに従姉妹のことを理解している。

「真っ直ぐ真っ直ぐ!」

 直線という指示に従い、真っ直ぐターゲットに向かう。

「そこ!」

「でぇぇぇい!」

 雄一郎の指示で狙いを定めて棒で一閃。

 ボコっと鈍い音と共に見事に命中した。

「ちっ」

 凜々が不服そうだ。

「ふふふ、どうよ?」

「あー、はいはい。すごいすごい」

 感情の籠ってない棒読み。

 自分は外してるもんなぁ。悔しいよなぁ。レジャーシートの上に置かれたそれはばかっと、大きく割れていた。

「みんなで食おうぜ」

「うんっ」

 スイカくんは俺たちの胃袋の中に閉じ込められた。

 こうして俺たちは海辺で3日間を過ごしたのだった。


 数日後、家で夏休みの宿題に手を出していると、スマホが震えてメッセージアプリの通知が届いた。

 相手は紅葉さんだ。

『被害者と落ち合う約束をしました。健人さんも来てくださいますか?』

『了解です』

 すぐさま返信。

 秒で既読が付き、待ち合わせ場所が示された。

 さほど遠くない喫茶店だった。

 財布、スマホをズボンのポケットに入れて外出準備を済ませる。

「親父ぃ!ちょっと出てくるわ!」

 返事は無い。

 夜勤明けでまだ眠っているのだろう。

 ガチャ。

 一応鍵をかけて紅葉さんの元へと向かう。


 目的地である喫茶店には10分程で着いた。

「健人さん、こちらです」

 店内に入ると、こがね色の髪の紅葉さんが手招きをして俺を呼ぶ。

 彼女の向かいには、男子生徒が腰掛けていた。

 俺はとりあえず、紅葉さんの隣へ。

「ども」

「……どうも……」

 軽く会釈。

 身長は高くなく、体型はだるまのように丸い。

 表情も暗めで、The陰キャと言った印象だ。

「えっと、まず名前きいていいかな?」

「……木下……」

「木下くんは井ノ原優太と柿原勝利にどんないじめを受けてるの?」

「机に『デブ、学校に来るな』と落書きされたり、女子の私物を僕のカバンに忍ばせて、変態扱いしたり……です」

 典型的ないじめだなぁ。

「そのせいで僕は、みんなからゴミを見るように扱われて、クラスには居場所がないんです……うぅ……!」

 よっぽど辛いのだろう、涙を流しながら答えてくれた。

「担任の先生は?」

「お前が自分で何とかしろとしか」

「うわぁ……」

「『自分で何とかしろ』ということは、何をしても許される。こういうことでしょうね」

「それが出来たら苦労は……!」

 ダンっと机を叩いて立ち上がる。

 周りで食事やティータイムを楽しんでいた他のお客さんが何事かと注目する。

「木下さん、あなたが自分から行動を起こさないと、何も解決しませんよ?」

 ジッと紅葉さんの視線が木下君を捕らえる。

「でも、どうしたら……?」

「これを使ってください」

 紅葉さんは懐からリモコンのような棒状の機械を取り出す。ボイスレコーダーだ。

「まずは再び担任の先生に訴えて『自分で何とかしろ』という言質を撮ってください。その後のことは考えておきますので、まずは録音お願いしますね」

 ニコッと笑う紅葉さんが怖かった。

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