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9話

 紅葉の提案に乗る

 紅葉の提案に乗らない


 謎の選択肢。

 なんでこんなものが……?実はこれはVRゲームって訳でもないよなぁ。

 うーん……。


 悩んでいるとさらに文字列が並んだ。


 時間を貰う。


 これちょっと考えさせてって意味合いでいいのか?

 まぁいいや。


「もう少し考える時間をくれないか?」

「わかりました。奴らもすぐには仕掛けてこないはずですので、気長に待ってます。いい答えを期待して」

 クスッと笑みを浮かべて立ち上がり、ザッザッと熱に晒されて焼けるような砂浜を悠然と進む。と見せかけてくるりと振り返る。

「困ったことがあったら神先生に相談してください」

「先生に?なんでですか?」

「ふふふ」

 謎の笑みを浮かべて踵を返して、凜々達がはしゃいでる海の方へと向かっていった。

 俺も遊んでくるかぁ。

 ってアッチィ!

 砂浜アッチィ!

 紅葉さんなんで余裕で歩けるんだよ!?

 なにか特殊な訓練受けてるんですか!?

 飛び跳ねつつ海面へ向かう。

 ザザァっと足を撫でる海水。

 ふぅ、熱せられた脚部によく染み渡る。

 瞬間、海水が俺の顔面に飛んできた。

「わっぷッ!?」

「やっと来たわね、健人!」

 凍子の奇襲を受けた。海水が口に入りしょっぱい。

「こんにゃろ!」

 バシャアア!

「キャー!」

 やり返す。

 凍子の悲鳴が轟く、ほどでは無いが、海で遊んでいたメンバー全員に届いた。

「お?なんだなんだ?」

「健人君も来たんだね」

「健人ちゃーん、待ってたよ!」

 バシャア!

 今度は笑顔の凜々から同じ攻撃を食らう。

「お前もか!」

 ターゲット変更。凜々へ。

「キャー!健人ちゃんがイジめる!」

「仕掛けて来たのはお前だろ!」

「あなた、覚悟して来ている人、ですよね?海水を浴びせるということは、自分も浴びせられる覚悟をしてきているということですよね?」

「んな覚悟するか!」

「覚悟してないの!?」

「そんな覚悟する前に仕掛けてきたのはお前だっ!」

「健人ちゃんにはやると言ったらやる凄味が感じない!」

「ハイハイ、怒られるからこれまでね」

 明菜さんが仲裁に入った。

 ザッパアアアン!少し大きな波が来て全員で飲まれた。

「あー、びっくりした」

「そうだね」

「海は楽しいねぇ」

 全員で笑い合う。

 これが青春ってやつか。


 しばらく遊んだ後、俺たちはコテージにてシャワーを浴びていた。

 シャー、と温水が細く注げられる。

 頭から足まで海を堪能したので、全身ベタベタだ。

 シャワーで体全体を洗い流す。

「ふぃー、気持ちよかった」

 タオルで身体を拭いて、ドライヤーで髪をかわかす。

 それが終わり外へと踏み出す。

「あ、健人ちゃん来た!」

 陽は傾いていた。

 しかし、暑さは変わらない。

 お姉さんのバンドメンバーの一人と思われし人が、バーベキューのコンロに炭を入れて火を起こそうとしていた。

「よしっ」

 無事着火して白い煙がもくもくと吹き出す。

「合宿はこうじゃなきゃな」

「合宿なんですか?」

「あたいらにとってはな。ついてきたお前たちは遊びに来た程度の感覚だろうが、あたいらは割と本気でバンド活動してるんだ」

「へぇ、プロ目指してるんですか?」

「ああ、プロになってあたいらの音楽で世界中を熱くさせるのが夢さ」

「へぇ、いいですね」

 夢か。

 そういや考えたこと無かったな。

 俺がやりたいこと……。

 思い浮かばないなぁ。

 まぁこれまで通り、凜々たちと笑いあえていればいいかな。

「まぁ、と言っても、あたいらももう大学生。オーディションはなかなか通らない、事務所からのスカウトも来ない。大学3年までやってみてダメだったら諦めようって話にもなってるんだがね。だからあと2年ちょっと。悔いは残したくないし、最初から諦めるより、最後まで全力でやってダメだったらそこでキッパリ諦めるさ」

「大変ですね」

「ただ、バンドを解散してもあたいは1人でも音楽活動続けるつもりだけどな」

 ニカッ。

 この人、ほんとにいい笑顔するよなぁ。

「俺は応援しますよ」

「……ふっ……。生意気だな。でも、ありがとよ」

 虚をついたつもりは無いが、彼女はポカンとした。しかしすぐに笑ってくれた。そして俺の頭に手をポンと置く。

「さて、今は肉だ!食って明日の糧にするぞぉ!」

「今日は食って騒ぎましょう!」

「おう!」

 いつの間にかコンロからは紅い火が上がり、その上に網を設置して肉やら野菜やらが、焼かれていた。

 凜々と凍子が火の通った肉を口へ運ぶ。

「美味し〜い」

「野外でみんなで食べるのもいいものね」

「そうですね」

「ですよねぇ」

 ………………え?

「「「神先生!?」」」

 俺と凜々と明菜さんが同時に叫ぶ。

 雄一郎と凍子は呆然としていた。

「この方、明菜ちゃんたちの担任の先生なんでしょ〜?せっかくだからご一緒にとお誘いしたの〜」

 おっとりとした状況説明が入る。

「ふふふ、生徒あるところに教師あり。ですよ」

「……なんで来たのよ?」

 凍子の冷たい視線。

「ふふふ。少し今村健人さんにご用事が」

「俺?」

「はい。美味しいお肉を前にして失礼ですが話がしたくて」

 ザザァ。

 月の光でキラキラと輝く海面。昼間の太陽が照りつける暑さと違い、ジメジメとして日が上がってる時とは違う暑さが支配していた。

「さて、健人さん」

「はい」

「工藤紅葉さんからお話は聞きましたね?」

「明菜さんをいじめてた相手が、学校にいるって話ですか?」

「ふふふ、そうです」

「先生は知ってるんですか?空白の期間とやらを」

「はい。そして天野凍子さんが話す気がないことも」

 この人何者なんだ?

「先生は何故そこまでご存知なんですか?」

 まるで俺たちを監視してるような詳しさだ。

「ふふふ、正体を明かす時が来たようですね」

「正体……!?」

「そう、私こそがあらゆる世界の観測者、全知全能の神なのです!」

「神……!?冗談ですよね?」

「これを見ても冗談だと思いますか?」

 バサッと大きな蒼白色の翼が現れた。

「なんか、神というより天使ですね」

「ふふふ、正真正銘の神ですよ」

「なら、なにか力をみせてください」

「わかりました」

 神先生は俺の頭に手をポンと置いた。


 遠い記憶、どこかで体験した覚えはたしかにある記憶。

「けーんと♪誕生日おめでとう♪」

 誰かが俺の誕生日を祝ってくれた。

 その時の俺の誕生日は冬だった。

 チョコケーキに手編みと思われるくすんだ緑色の手袋にマフラー。

 愛情がこもったプレゼントに俺は歓喜して相手にお礼を言った。

「ありがとな、冬子」



 ふっと我に返る。

「今のは……?」

「凜々さんとの空白の期間にあなたが過ごした記憶です」

「なんで?なんで、そこに凜々はいないんですか?」

「その答えを見つけるために、工藤紅葉さんに協力して欲しいのです」

「……わかりました」

 あの記憶はおそらく俺のものだ。

 そして凍子ではなく冬子と呼ばれた女の子のことを知るために今はその提案に乗ってやる。


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