第1話 3人組との出会い
前回までのあらすじ
2人が落ちた先にあったのは、、、
「うえっ、ゲホッゲホッ、、、おえぇ」
私達が落ちた先はなぜか血溜まりだった。落ちた拍子にまだ生温かい血が口の中に入って吐きそうになる。
なんでこんなピンポイントで血溜まりなんかあるんだ。しかもこれ、明らかに人間の血の量じゃない。
恐る恐る顔を上げると目の前に何か大きな塊があった。
魔物の死体だ。硬そうな毛皮を突き破り、背中から腹まで身体を貫通する穴が空いている。
なにこれ怖っ
どうやったらこんな穴があくんだ?
身体の厚みは2メートルくらいあるのに貫通してるとか、どんな威力があればできるか想像もつかない。
そして何より、血が、まだ温かい。
これをやった奴がまだ近くにいるかもしれない。
そう思って周囲を見回して、呆けた顔でこちらを見る3人組と目が合った。
なんとも言えない空気が流れる。
大変気まずい。出来れば逃げ出したい。
あっすいません、部屋を間違えてしまったみたいです。失礼しました〜とか言って納得してもらえない?
というかライラいつまで寝てんだよ。こういうときこそ何か突拍子もないことして有耶無耶にしてくれ。
いやでもさらに面倒くさいことになる気もする。やっぱりもうちょっと寝ててくれ。
さて、現実逃避はこれくらいにして真面目に考える。向こうも今はまだ混乱してるみたいだけど、落ち着いたらどういう反応をするか分からない。羽も出したままだし最悪魔物だと思われるかもしれない。
この状況でどうするべきか、パッと思いついたのが5つある。
1つ目、普通に逃げる。
相手は人間だ。地の利は向こうにあるだろうが飛べば逃げれるだろう。
リスクはここが何処かと、この3人組の立場や性格が分からないこと。近くに人里がない場合、最悪野垂れ死ぬ可能性がある。魔物には飛べる奴もいるし。
近くに人里があった場合、彼らが私達のことを報告する可能性が高くなる。彼らがどう思っているかは分からないが今の私達は客観的に見て怪しいことこの上ない。急に天から落ちてきて、羽も隠せてないし、ついでに血まみれだ。
リターンは、、、特にない気がする。
これは却下かな。
2つ目、彼らを、殺す。
リスクは1つ目と同じで人里が近くにない場合野垂れ死ぬ可能性がある。
人里が近くにある場合は殺しがバレる可能性がある。
あとシンプルに勝てるか分からない。状況的にこの魔物を倒したのは彼らの可能性が高い。そうだった場合、ライラもまだ気絶してるし勝つのは厳しいだろう。
リターンは勝てたらこっちの貨幣や服を手に入れられること。外套とかなら男物でも全然問題ない。今後身分を疑われることも減ると思う。
今回のことも広まる心配はなくなる。
でも、シンプルにやりたくないしとりあえず却下だな。
もし、彼らが敵なら、私やライラを殺そうとするなら、その時は私が覚悟を決めよう。
・・・どうせこれが初めてってわけでもないんだし。
3つ目、素直に事情を話す。
リスクはまず信じてもらえる可能性が低いこと。
頭のおかしい奴と思われるだけならまだいい。でも、地域によっては魔女狩りなんかが合法的に行われているところもある。
信じてもらえたとしても、変に祭り上げられたりすると面倒なことになるだろう。
リターンはこちらの話を信じてもらえた上で事情も汲んでもらえたら心強い味方ができること。
そんな都合良く行かないだろうけど
4つ目、シラを切る。
何が起こったのか分からない!ここはどこ?私は誰?って感じで無知で無力な女の子を演じればいきなり敵認定される可能性は低いと思う。
リスクはライラにそういう演技はできないだろうこと。打ち合わせをするタイミングも取れないこと。
出来ればずっと寝ててほしい。
リターンは騙すことが出来れば保護してもらえるだろうことと、記憶喪失のふりをしとけば自然な流れで色々聞けること。
5つ目、何もしない。
とりあえず様子見をして相手の出方を見る。問題を先送りにするだけだが、今は分からないことが多すぎる。先走って取り返しのつかないことになるよりはマシなはずだ。
とりあえず4つ目かな。こういうときは相手に主導権を握られる方が良くない気がする。
1、2、3の選択肢も状況次第では必要になるだろうから頭の片隅に置いとこう。
よし、私は今から何も知らない女の子だ。
「ぁ、あの、あなた達は?それにここは一体・・・」
声は小さく普段よりもワントーン高く、口調は弱々しく、顔はうつむきがちで、眉の下がった情けない顔をする。
不安そうに周囲をキョロキョロし身体を縮こまらせながらもライラをかばうように抱き寄せる。
こういうのは得意分野だ。
ちらりと3人の方を伺う。落ち着いて見ると結構若いな、年下かもしれない。話しかけられてアワアワしている。
ちょっと申し訳ないが好都合だ。相手も冷静じゃないならちょっとの矛盾くらいはごまかせるだろう。
少し間があって、真ん中に立っていた少年が口を開く。
「えっと、俺はトールでこっちの2人はビルとアレク。俺ら冒険者で3人でパーティー組んでるんだ。それでここは中央大陸北部のコナの森。何があったのかは俺らもよく分かってないんだけど」
「そこの魔物に追い詰められてもうダメだと思ったときに急に空から何か降ってきたんだよな」
「それが当たって魔物は死に、混乱していたところにあなた方が落ちてきたんです。」
トールという少年の言葉を引き継ぎ他の2人も話してくれる。
今の話を信じるなら魔物を倒したのは彼らじゃないんだな。それで何かが落ちてきたって話だったけど、もしかしなくても私が切り離した重りだろうな~
ここまでの威力になるなんてほんとに人に当たらなくて良かった。
というか羽のことは突っ込まれないんだな。
そんなことを考えているとメガネの、確かアレクって名前の少年から話しかけられる。
「それであなたは?何があったのかわかる範囲で教えてください」
「あっえっと私は、、、何も、覚えてなくて、、、すいません」
「あー謝んなくていいって、俺等もよく分かってないし。」
しおらしく頭を下げるともう一人のビルという少年が慌てたように言ってくれる。
「まだ混乱してるだろ?とりあえず名前から教えてくれよ」
ビルはそう言いながら私達の目の前まで歩いてきてしゃがんで顔を覗き込んでくる。目が合うとヘラッとこちらを安心させるように笑う。
なんというか、チャラい。距離感も近めだ。
思わず半眼で睨みそうになるのをすんでのところでこらえて演技を続ける。
「あっありがとうございます。私の名前は、、、
名前、は、、、あ、れ?っ、、、うぅっ」
頭を抱えてうずくまる。ちょっとわざとらし過ぎたかと思ったが3人は騙されてくれた。
その後私達のことをどうするかで3人はちょっと揉めた。街まで送るべきだというビルと2人を守りながら森を抜けるなんて無理だというアレク。
最終的にはトールが厳しいかもしれないが見殺しにするなんてできないと言い切ってその場は収まった。
そのまま3人に近くの街まで送ってもらうことになった。最初は反対していたアレクもちゃんと真面目に護衛をしてくれてる。いい子達だ。
多分私の方が強いんだけどね。
騙してることにちょっと罪悪感を感じる。いつか本当のことを話せたらいいな。
街までの道中、ビルが積極的に話しかけて来たのでこの機会にいろいろ聞いておいた。
結果いろいろわかったことがある。ここは中央大陸北部ミリアン王国で、今から向かうのはその王国の東の国境付近ある城塞都市ウル。
ミリアン王国は元々、マクシール王国のミリアン辺境伯領だったが、わずか20年ほど前にマクシール王国で起きたクーデターの混乱に乗じて独立した国だ。
そのためウルはミリアン王国の東隣にあるマクシール王国からの進攻を想定して建てられた城塞都市だ。
というのが天界の学校で習った内容だ。
こっちの認識と齟齬がないか知りたくてそれとなく聞いてみたけどビルはそこらへんは知らないようで分からなかった。
マクシール王国とミリアン王国の関係って今どんな感じなんだろう?
バチバチしてるなら巻きこまれたくない。確かマクシール王国ならライラが仕事でいろいろやってた国だったはずだ。後で聞いてみよ。
そう、ライラはあんな感じだが一応仕事をしてる。
私達天使は6歳〜14歳まで初等学校に通い、卒業後はそれぞれ役割を与えられる。と言っても成人は18歳なのでそれまでは見習いだ。
私とライラは振り分けられた先が違ったのと、ライラの仕事が忙しかったらしく卒業後はあんまり会えてなかったんだよな。
ちなみにビル達は同じ村の出身の幼なじみで、15歳らしい。
いろいろ話してくれたところ悪いけど私は年下には興味がないんだ。心の中でこっそり謝っておいた。
そんなこんなで2時間ほど歩いた頃、ようやく森を抜けた。