第1話 堕天使になっちゃった
私の名前はセレナ、ローレンシア天空国に暮らす天使だ。天使と一言で言ってもいくつか種類があって、私は正義を司り、時には罰を与える役割を持つ天使だ。そんな私には今一つ悩みがある。
「あーあ、つまんなくて死にそー」
「なんか面白いこと無い?」
そんなことを言いながら私の家のソファでゴロゴロしていた悩みの種が起き上がり背もたれから顔を出してこっちを見る。
腰のあたりまであるゆるくウェーブのかかった黒い髪には、一房だけ白い髪が混ざっており顔の横で三つ編みにしている。黄金をそのまま溶かしたような金色の瞳をきらきらさせて上目遣いで見上げてくる彼女に私は短く「無い」と返す。
冷たいと思われるかもしれないがこの問は今日だけでももう3回目だ。さらに彼女が家に入り浸り始めてからも今日で3日目だ。いい加減面倒くさくなってくる。
私の返事を聞くと彼女は心底つまんなそうな顔をしてもう一度ソファにゴロンと寝転がる。さて、なんでこんなことになっているのか。
ことの発端は3日前、彼女、私の親友であるライラが家に訪ねて来たことだった。あの日、私は久しぶりに会ったライラの姿を見て言葉を失った。
ライラはそんな私に気づいてないのか「急に押しかけちゃってごめんね」とへにゃっと笑いながら言う。これは言いにくいことがあるときの笑い方だ。
それから「ちょっと色々あってさ、その、しばらく匿ってくれない?」と言われた。
色々あったのは見た瞬間に分かった。が、まだ理解が追いつかずに私は呆然としていた。
「お願いセレナちゃん以外に頼れそうな人いなくて」
「ほんとに一生のお願い!このままだったら死んじゃう」
そういえば一生のお願いって言われたの27回目だな〜これまでに26回も死んでるんだったらもう一回増えたくらい変わらないだろ、うん。
思わずそんな現実逃避をしていると、拒否されると思ったのかライラの顔が今にも泣き出しそうになる。私は慌てて口を開いた。
「ちょっと待って、ライラ。ライラを匿うのはかまわないんだけど、その前に1つ教えて」
ライラは私の言葉を聞いてさっきまで泣きそうな顔をしていたのにパッと笑顔になる。実に単純な性格だ。
「うん、なんでも聞いて!」
私は一度深呼吸をして、さっきからずっと気になっていたことを聞いた。
「その髪の色、どうした?」
そう、久しぶりに会った親友の髪は黒髪だった。ライラの髪は眩しいほどの純白色だったはずだ。しばらく会っていないからといって忘れるはずがない。
それに黒髪はありえない、黒い髪の天使なんていない。いるとすれば・・・
「あー実はね、私、堕天使になっちゃったみたいなんだ」
半ば予想していた答えだが、頭を抱えたくなる。質の悪い冗談、いや夢であってくれ。