第9話:過去からの記憶
その夜、私は再び奇妙な夢を見た。
《暗いオフィス。明かりはパソコンの画面だけ。私は疲れた目を擦りながら、キーボードを叩いていた。
「魔王ハイン・ヴァンデルクの過去編…どう書こう」
画面には彼の設定が表示されている。300年以上生きている魔王。王国からは恐れられているが、実は孤独な存在。強大な力を持ちながらも、本当は平和を望んでいる。
「こんな設定、受け入れられるかな」
私がつぶやくと、突然、画面の中のハインの立ち絵が私を見つめているような気がした。
「気のせいね」
しかし次の瞬間、パソコンから不思議な光が漏れ出し、部屋全体を包み込んだ。
「な、何?」
恐怖で体が硬直する中、光の中から一つの声が聞こえてきた。
「私を創り出したのは、あなたか」
ハインの声だった。
「ありえない…こんなこと…」
「なぜそんな孤独な過去を与えた?」
「それは…」
私は答えに窮した。なぜ彼にそんな設定を与えたのか。自分の孤独を投影したからだろうか。それとも、誰かに理解されるべき孤独な存在を描きたかったからか。
「ごめんなさい…」
謝罪の言葉が自然と口から漏れた。
光の中から姿を現したハインは、画面の中の彼よりもはるかに生き生きとしていた。彼は静かに微笑み、手を差し伸べた。
「謝らなくていい。あなたがいなければ、私は存在していなかった」
「でも、苦しい過去を…」
「その過去があるからこそ、私は私だ。そして、それを理解してくれる人に出会えた」
彼の瞳には、感謝の色が浮かんでいた。
「いつか、あなたの世界が終わりを迎えても、私はあなたを見つけ出す。それが私の『永遠の約束』だ」
彼の言葉を聞いた瞬間、部屋が揺れ始めた。地震?それとも…
「美咲!しっかりして!」
誰かが叫ぶ声。同僚だろうか。体が急に重く感じ、呼吸が苦しい。
「倒れたら危ないって、無理しすぎだよ…」
断片的に聞こえる声。私は理解した。過労で倒れたのだ。
視界が暗くなる中、最後に見たのはハインの悲しげな表情だった。
「私が守る。必ず見つけ出す。それが私の『永遠の約束』」》
夢から覚めると、枕が涙で濡れていた。
「これが…私とハインの出会い?」